崖っぷちの韓国航空業界、コロナが「とどめ」

2020/5/8 2:00
保存
共有
印刷
その他

NIKKEI BUSINESS DAILY 日経産業新聞

新型コロナウイルスの世界的な感染拡大で、韓国航空各社の運航便数が9割減まで落ち込んだ。韓国で国際線を運航する航空会社は格安航空会社(LCC)も含めて8社。ただでさえ供給過多の状況に日韓対立で追い込まれ、感染症がとどめを刺しそうな気配だ。各社とも飛行機を飛ばす先がない、まさに八方ふさがりの状態に陥っている。

仁川国際空港の駐機場で待機する各社の航空機=ロイター

仁川国際空港の駐機場で待機する各社の航空機=ロイター

「絶体絶命の崖っぷちに立たされている」「航空産業の崩壊は国家的な損失だ」「航空先進国に跳躍できるように政府の前向きな支援を」――。

こんな文言が並ぶ「LCC共同緊急建議文」がLCC6社の社長連名で発表されたのは2月27日だった。当時はコロナの感染は中国と韓国が中心で世界的な拡散には至っていなかった。日本での話題の中心はクルーズ船での感染で、経済への深刻な影響はまだ議論されていなかった。それでも既に韓国LCC各社の苦境は鮮明だった。

その要因は複合的だ。国内には大韓航空とアシアナ航空の大手のほかに、済州(チェジュ)航空やジンエアーなどLCCを含めて航空会社が8社ひしめく。規制緩和の名の下に19年秋には新たに1社のLCCが参入し、さらに2社が新規就航を控えている。元来の供給過多が背景にある。

アジア有数のハブ空港、仁川国際空港も出発便は激減した

アジア有数のハブ空港、仁川国際空港も出発便は激減した

国土面積が日本の3割弱と小さい韓国では、国内線は南西部の済州島とソウルや釜山を結ぶ便が主流で、LCC各社も近距離国際線の売上高が大半を占める。19年夏までLCCの売上高の3割前後を占めていたのが日本便だった。しかし日韓対立に伴う「ボイコットジャパン」運動によって訪日韓国人が激減し、日本便は大幅に縮小された。

日本便の回復が遅れたため各社は中国便を拡充した。だが今度は感染症で中国便の旅客が落ち込み、2本柱だった日本便と中国便での旅客需要が見込めなくなった。もともとLCCは航空機リース費用など固定費が重く、旅客が減れば資金流出が続く。財務基盤の脆弱な企業も多く、社長連名での政府への建議文の公表につながった。

韓国政府はLCCに対して政府系銀行を通じた最大3000億ウォン(約260億円)の緊急融資のほか、空港施設使用料の支払い猶予などの支援策を用意した。だが、2月末時点で政府は「大手は社債発行などを通じて自前で資金調達を」との姿勢を示していた。

2月末時点ではLCC支援を静観していた大韓航空とアシアナ航空の大手2社。ただ3月以降、経営環境は悪化の一途をたどる。収益源となっていた欧米路線の旅客数が目に見えて減り始めたのだ。さらに各国政府が次々と外国人の入国制限を実施したことで、世界の航空便の往来が強制的に停止。大手2社の運行便数も週を追うごとに減っていった。

韓国航空協会によると、4月第1週の国際線旅客数は前年同期比で97.6%減になったという。大韓航空は3割の勤務者で業務を賄って全社員1万9000人が循環休業に入る。アシアナ航空は月の半分を無給休業としてコスト削減に努めてきたが、旅客の減少は個社の企業努力の限界を超えていた。

韓国政府は4月22日にこれまでの方針を転換し、大企業を対象とした7つの基幹産業への総額40兆ウォン(約3兆5000億円)の支援策を発表した。その2日後の24日には政府系銀行が大韓航空とアシアナ航空の2社に計2兆9000億ウォン(約2500億円)を金融支援すると表明した。

現在のところ、政府支援で一息ついた形だが危機の出口は全く見えない。感染症は収まる気配はなく、各国政府も入国制限の緩和には消極的だ。そのため航空各社の運休路線の再開時期は見通せない。元来の供給過多もあって韓国航空業の淘汰・再編は避けられそうにない。

■厳しい決算発表、市場も身構え

旅客便の運航便数9割減、全社員対象の循環休業――。新型コロナウイルスのために前代未聞の苦境下にある航空各社。その意味を実感したのは広報部署への問い合わせの時だった。いつもは素早く対応してくれていた広報部署も閉鎖中で、メディア対応もできない企業も多い。

航空大手は貨物便で一定程度の売り上げを確保できるものの、主力の旅客便が9割減では企業存続そのものが危うい状況だ。韓国SK証券による大韓航空の業績予想では、1~3月期の旅客売上高は前年同期比32%減、4~6月期は78%減を見込む。当然大幅な赤字は避けられない。市場も身構える韓国航空各社の決算発表が間もなく始まる。

(ソウル=細川幸太郎)

「日経産業新聞」をお手元のデバイスで!

 スタートアップに関する連載や、業種別の最新動向をまとめ読みできる「日経産業新聞」が、PC・スマホ・タブレット全てのデバイスから閲覧できるようになりました。最初の1カ月間無料で体験いただけます(初回限定)。

 
保存
共有
印刷
その他

関連企業・業界 日経会社情報DIGITAL

電子版トップ



[PR]