大型買収リストで再検証 米Appleのスマホ戦略

CBインサイツ
スタートアップGlobe
2020/5/11 2:00
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アップル本社

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CBINSIGHTS
 米アップルはiPhoneに導入した顔認証や電子決済「アップルペイ」などの技術に加え、音楽配信やニュース関連サービスを積極的なM&A(合併・買収)により強化してきた。最近目立つのが、次世代通信規格「5G」時代をにらんだ半導体への投資で、2019年には米インテルからスマートフォン向け通信半導体事業を買収した。アップルは買収した企業を使ってどんな協奏曲を奏でようとしているのか。CBインサイツが買収金額の上位10社を再検証した。

アップルは以前から主力製品を強化・改良する手段としてM&Aを活用し、事業の柱をコンピューターからスマートフォンへと徐々に移してきた。

日本経済新聞社は、スタートアップ企業やそれに投資するベンチャーキャピタルなどの動向を調査・分析する米CBインサイツ(ニューヨーク)と業務提携しています。同社の発行するスタートアップ企業やテクノロジーに関するリポートを日本語に翻訳し、日経電子版に週2回掲載しています。

例えば、画面を見つめるだけでロックを解除できるスマホ「iPhone X」の顔認証技術「Face ID」は、イスラエルのプライムセンス(PrimeSense、3Dセンサー企業)やリアルフェース(RealFace、顔認証技術企業)、スイスのフェースシフト(Faceshift、モーションキャプチャー技術企業)の買収など、半導体やコンピュータービジョン(映像から様々な情報を得る技術)のM&Aによって実現したものだ。

資金力が豊富なアップルは2020年の変動が激しい市場環境の中でも買収を続けている。ほんの数カ月の間に、エッジ(末端の情報機器)で動作する人工知能(AI)を手がける米エックスノア(Xnor.ai、買収額2億ドル)、天気情報アプリの米ダークスカイ(Dark Sky)、音声認識を手がけるアイルランドのボイシス(Voysis)、仮想現実(VR)ストリーミング配信の米ネクストVR(Next VR、企業価値1億ドル)を買収している。

今回のリポートではCBインサイツのM&Aデータを活用し、アップルの大型買収トップ10のビジュアルタイムラインを作成した。

■アップルの大型買収トップ10

1.米ビーツ・エレクトロニクス(Beats Electronics、音楽の定額配信など、買収額30億ドル、14年):アップルのこれまでの買収で最大の案件。この買収で音楽の定額配信サービス「ビーツ・ミュージック」と、ヘッドホンやスピーカー、オーディオソフトウエアを手がける「ビーツ・エレクトロニクス」の両方を獲得した。ビーツ・エレクトロニクスの幹部を獲得し、アップルの音楽配信サービスを強化するのが買収の狙いだったとされる。

2.米インテルのスマホ向けモデムチップ(通信半導体)事業(10億ドル、19年):大型買収トップ10で直近の案件。重要なエンジニア人材や特許を獲得し、5G対応スマホ向けのモデムチップの開発を強化した。

3.英ダイアログ・セミコンダクター(Dialog Semiconductor、半導体大手、6億ドル、18年):ダイアログの電源管理事業の買収により半導体事業を欧州に拡大し、既にアップル機器向けの半導体で長年の経験を持つ技術者チームを獲得した。

4.アノビット・テクノロジーズ(Anobit Technologies、イスラエルの半導体スタートアップ、5億ドル、11年):多くのアップル製品の要であるフラッシュメモリーと、多数の半導体エンジニアを獲得した。

5.米テクスチャー(Texture、電子雑誌の読み放題アプリ、4億8500万ドル、18年):出版やニュース配信サービスを強化するために買収。19年3月に定額制ニュース配信サービス「アップルニュース+(プラス)」を始めたのに伴い、テクスチャーを廃止した。

6.英シャザム・エンターテインメント(Shazam、音楽認識アプリ、4億ドル、17年):アップルはシャザムを音楽配信サービス「アップルミュージック」に「ぴったり」だとみなしていたという。

7.米ネクスト・コンピュータ(NeXT Computer、ソフトウエア開発、4億ドル、96年):トップ10のうち買収時期が最も古い企業。アップルの共同創業者、スティーブ・ジョブズ氏をアップルに復帰させるために活用した。

8.プライムセンス(イスラエルの3Dセンサー、3億6000万ドル、13年):プライムセンスの3Dセンサーは米マイクロソフトの動画センサー「キネクト」に搭載されていた。今ではiPhone Xの顔認証技術にも使われている。

9.米オーセンテック(AuthenTec、指紋センサー、3億5600万ドル、12年):フロリダに拠点を置くオーセンテックは、アップルの決済サービス「アップルペイ」の開発に活用された。

10.米PAセミ(PA Semi、低電力チップの設計、2億7800万ドル、08年):アップルによる半導体企業の買収第1号。アップルが携帯端末向け低電力チップに関心を抱いていたことが、カリフォルニアに拠点を置くPAセミを買収した理由の一つとされる。

■主なポイント

・アップルによる上位10社の買収額は計73億ドル強に上る。その4割以上をビーツ・エレクトロニクス(買収額30億ドル)が占めている。

・アップルの大型買収の多くは、同社の最も成功した製品「iPhone」の開発や改良が目的だった。上位10社のうち、インテルのスマホ向けモデム事業、ダイアログ・セミコンダクター、アノビット・テクノロジーズ、PAセミの4社は半導体の性能向上に力を入れている。

・上位10社の買収は総じてアップルの戦略の進化を示している。90年代にはパソコン「Mac」のプラットフォーム(ネクスト・コンピュータ)が中心だったが、その後はモバイル(インテル、ダイアログ・セミコンダクター、モバイル広告の米クアトロ・ワイヤレス)に移行し、最近では音楽配信サービス「アップルミュージック」(ビーツ、シャザム)などサービスを重視している。

・大型買収が影響を及ぼしたiPhoneの主な機能には、オーセンテックの指紋認証技術を使用した決済サービス「アップルペイ」、プライムセンスの顔認証テクノロジーなどもある。

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