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ボクシング興行、早期再開を模索 夏に井上尚戦も?
スポーツライター 杉浦大介

2020/5/4 3:00
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世界的なコロナショックが継続し、スポーツ界も甚大な影響を受けている。一部を除き、3月中旬を最後にスポーツビジネスの時計の針も止まったまま。大リーグ(MLB)、プロバスケットボール(NBA)といった米国のメジャー競技は動きを完全に停止し、再開のめどは立っていない。

世界で再開の動き、米でも「6月に」

そんな中で、まずは無観客興行限定だが、ボクシングは比較的早い段階で再開できるのではないかという見方がある。すでにニカラグアでは4月25日、韓国では同26日に小イベントが開催され、特にニカラグアでは1000人以下という小規模ながら観客も入れて行われた。5月下旬にはメキシコ、6月にはポーランドでの無観客興行の実施が発表されている。コロナによる死亡者の多いアメリカでも、一部のプロモーターは6、7月の再開を目指しているという。

ニカラグアでは4月25日に観客を入れてのボクシング興行が行われた=AP

ニカラグアでは4月25日に観客を入れてのボクシング興行が行われた=AP

「医療関係者、ネバダ州、カリフォルニア州のコミッションと話し合い、6月の興行再開に向けて動いている。(スポーツ専門テレビ局の)ESPNとも話し合い、1週間に2、3回の無観客興行を行えるようなスケジュールを作っていきたい」

井上尚弥(大橋)や村田諒太(帝拳)も契約するトップランク社のボブ・アラム・プロモーターは、5月1日に公開されたスポーツ・イラストレイテッド誌のポッドキャストでそう述べていた。

もちろん今は人々の健康が最優先。アラムが言及したカリフォルニア州はロックダウン(都市封鎖)が続いているが、それでも少し先を見て準備を進めておいて損はない。関係者の話を総合する限り、ウイルスの検査技術が進歩した上での無観客興行という条件付きで、トップランクが考える6月再開プランは不可能ではないようだ。

米国内で野球、バスケットボールなどよりもボクシングの動きが早い理由は、端的にいって3つある。まず、団体スポーツと比べてかかわる人数がはるかに少なくて済むこと。スポーツイベント挙行のためには関係者を一定期間隔離する必要があるが、ボクシング興行ではテストや宿泊の負担が比較的小さくて済む。現在のアメリカでは米疫病対策センター(CDC)によって50人以上が参加するイベントの自粛が要請されているが、ボクシングでは開催試合数を減らせば、50人以下での興行開催も不可能ではない。

また、米国には国全体のボクシングを統括するコミッショナーが存在せず、興行は個々のプロモーターと州コミッションの裁量に委ねられていることも大きい。おかげでMLBやNBAなどのように全体が足並みをそろえる必要はない。それぞれの都合と判断で単発興行が可能になる。

3つ目として、テレビ局&動画配信サービスのサポートを受けたボクシングイベントは、無観客でも十分に興行が成り立つという背景も重要だ。2018年夏にESPNと7年契約を結んだトップランクの場合、年間9000万ドルの放映権料が保証されていると伝えられる。テレビ局にはゲート(チケット売り上げ)収入が分配されるわけではなく、観客の有無は基本的に無関係。あとはプロモーター側が入場料分の減収を覚悟すれば、興行再開は視界に入ってくる。

放映権料が得られれば無観客でも

「もともとラスベガスで開催される予定だった井上対カシメロ戦のゲート収入は20万~30万ドルぐらいだったでしょう。経費の大半はテレビが支払う放映権料で賄われるのだから、その額がなくなることは死活問題ではありません」

4月25日の井上戦が延期になった世界ボクシング機構(WBO)バンタム級王者、ジョンリール・カシメロ(フィリピン)のプロモーター、ショーン・ギボンズは電話取材でそう語っていた。20万~30万ドルの減収は小さくはないが、テレビマネーの基盤があれば致命傷ではない。そんな背景から、ギボンズは井上対カシメロの7~8月ごろの実現をまだ諦めていないのだという。

もちろん無観客興行はあくまで苦肉の策だ。1試合で1000万ドル以上のゲート収入をたたき出すサウル・"カネロ"・アルバレス(メキシコ)、アンソニー・ジョシュア(イギリス)といったスーパースターが無観客試合に出るとは考えにくく、世界が注目するビッグファイトの挙行はしばらく先か。

4月25日のラスベガスデビュー戦は延期になったが、井上尚は練習を続けている(大橋ジム提供)

4月25日のラスベガスデビュー戦は延期になったが、井上尚は練習を続けている(大橋ジム提供)

また、井上のような海外選手には渡航制限という難題がついてくるため、早期の米国内戦挙行には疑問符がつく。6~7月の興行再開はあくまで希望的観測の上でのプランであり、コロナがアメリカ国内で再び広がりを見せた場合、ボクシングどころではなくなる可能性は否定できない。医療や検査体制が欠乏している状況下で、そちらの方向に進んでも誰も驚きはしないはずだ。

ただ今後、米国内の情勢が少しずつでも好転していけば、ボクシングが遠からずのうちにお茶の間に戻ってきても不思議はない。選手たちの調整の難しさはあるが、戦わねば収入源が絶たれる多くのボクサーは出場に踏み切るだろう。何とかコンテンツを確保し、視聴率低下、加入者の激減を避けたい放送局側にとっても、他のスポーツに先駆けての早期開催は歓迎に違いない。

そうなった場合、近年は影の薄い競技となっていたボクシングが、意外な形ではあるが注目を集めるはずだ。同じく6月には再開と伝えられる男子ゴルフのPGAツアー、一足先に5月9日には再開興行を行う総合格闘技のUFCなどと同様、ボクシングは米国内で久々に大きな脚光を浴びることになるかもしれない。

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