米大統領選まで半年 危機下の攻防、支持拡大手探り

米大統領選
2020/5/3 2:00
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トランプ米大統領=ロイター

トランプ米大統領=ロイター

11月3日投開票の米大統領選まで6カ月。再選をめざす共和党のドナルド・トランプ大統領(73)に対し、民主党候補指名を確実にしたジョー・バイデン前副大統領(77)が挑む選挙戦は、新型コロナウイルスの感染拡大で様相が様変わりした。不透明感が増す中で双方は手探りの戦いを強いられている。

■トランプ氏、経済再生が再選のカギ

トランプ氏、経済再生が再選のカギ 「誰もが経済活動を再開し、仕事に戻ることを望んでいる」。トランプ氏は4月29日、ホワイトハウスで企業トップと会合を開き、経済の立て直しに強い意欲を示した。

1~3月期の実質国内総生産(速報値)は前期比年率換算で4.8%減と約11年ぶりの大幅マイナスとなった。再選に向けて最大の成果と位置づけていた戦後最長の好景気は終わりを告げ、一転して11月までに経済再生をどこまで進められるかが再選のカギを握る展開となった。

戦後の大統領選で2期目を逃したフォード、カーター、ブッシュ(父)各大統領に共通するのは景気の低迷や経済政策の不手際だった。トランプ氏が経済再建に注力するのは当然といえる。コロナ危機で異例のデジタル選挙を余儀なくされている両陣営だが、トランプ氏は現職の強みを最大限に生かそうと腐心する。

「戦時の大統領」として危機対応を国民にアピールするのはその一つだ。全米に非常事態を宣言した3月半ば以降、毎日のように記者会見を開いた。新型コロナ感染者への消毒液の注射を提案した会見での発言が批判を浴びると、4月末に連日の開催は取りやめた。ただ、その後も経済再開に向けた対策を練る会議などを報道陣に積極的に公開し、記者の質問にも応じる。

トランプ氏は1万人単位で支持者を集める大規模な集会を選挙運動の基軸にしてきた。「寝ぼけたジョー」「クレージー・バーニー(サンダース上院議員)」。民主党の候補を次々にこき下ろし、聴衆が「あと4年!あと4年!」などと喝采を送る――。こんな掛け合いが支持者との一体感を生み出す源泉でもあった。会見では「集会を再開したい。政治活動の中でとても重要だ」と未練を示す。

トランプ氏は複数のテレビ局が中継し、何百万人もの目に触れるコロナ対策会見やイベント公開を新たな集票装置と位置づける。英国など各国政府の会見の説明者は主に閣僚で、首脳が毎日のように登場するのは米国だけだ。

バイデン氏もオンラインを通じて記者会見や支持者との対話集会を定期的に開く。ただ大統領として日々の国民生活を左右する政策を仕切り、注目を集めやすい立場のトランプ氏と比べて埋没感は否めない。3月14日に初開催したテレビ会議システムを用いたオンラインイベントは2時間以上も開始が遅れ、音声や映像が途切れるなど混乱した。

バイデン氏が原稿に視線を落として読み上げる演説は、メディアや有権者の間で「退屈」(米紙ワシントン・ポスト)との評価が定着している。ツイッターのフォロワー数はトランプ氏の16分の1の約490万人にすぎない。

ただ、トランプ氏の積極的な発信も支持拡大に結びついていない。政治サイト、リアル・クリア・ポリティクスによると、トランプ氏の支持率は3月末にいったん過去最高を更新したが、その後は一進一退を繰り返す。

コロナ対応の成否が再選を左右することから大統領選は「トランプ氏の信任投票」(米外交誌フォーリン・ポリシー)の色合いを強めている。バイデン氏は全米の支持率では一貫してトランプ氏をリードする。危機下の選挙戦で、「平時への回帰」を訴えるバイデン氏の安定感が有権者に響く可能性もある。

バイデン前副大統領=ロイター

バイデン前副大統領=ロイター

■バイデン氏、左派取り込みに腐心

民主党の大統領候補指名を固めた穏健派のバイデン前副大統領は党内の挙党体制づくりを急ぐ。カギを握る左派の取り込みに向け、左派の代表格であるサンダース上院議員と医療など6分野で政策を擦り合わせる作業部会を設置した。ただ「大きな政府」を志向する左派の政策を取り入れるほど、トランプ大統領が「バイデン氏=社会主義者」とのレッテルを貼るジレンマを抱える。

「私はあなた方の話に耳を傾ける。(政権奪還には)あなた方が必要だ」。バイデン氏は4月13日、オンラインの生放送イベントで大統領候補を争ったサンダース氏の支持者にこう呼びかけた。イベントにはサンダース氏もサプライズ出演し「トランプ氏の再選を阻むためにできることは何でもやる」と強調。バイデン氏への結集を促した。

米調査会社ギャラップの2019年の政治思想調査によると「保守派」だと答えた米国人は37%、「リベラル(左派)」は24%、その中間の「穏健派」は35%だった。トランプ氏はキリスト教保守派に強い支持基盤を築く。穏健派とされるバイデン氏は都市部に多い左派と穏健派の支持をどちらも取り付ける戦略を描く。

その戦略の試金石がサンダース氏との6つの分野での政策協議だが調整は難航しそうだ。医療ではサンダース氏が民間医療保険を廃止し公的保険に一本化する国民皆保険構想を掲げた。新型コロナウイルスの感染拡大で高額医療費の請求への不安が広がり、同構想の人気が高まっている。だがバイデン氏はこれまで国民皆保険の実現に「中間層の増税が必要になる」などと反対してきた。

社会問題化する学生ローンの帳消しを巡ってもバイデン氏は対象を低・中所得層に限定する。一方でサンダース氏は全ての学生ローンを帳消しにすると訴える。外交・貿易政策ではバイデン氏が国際協調を重視する立場だが、サンダース氏は米軍の海外駐留に懐疑的で、反自由貿易を志向する言動が目立つ。

バイデン氏が党内の結束を重視するのは2016年大統領選での苦い教訓があるからだ。クリントン元国務長官とサンダース氏が予備選で激しい指名争いを繰り広げ、関係が完全に修復しないまま本選に突入した。クリントン氏に反感を持つサンダース氏の支持者が本戦で投票に行かない例が目立ち、トランプ氏の勝利の一因になったとの見方がある。

一方でバイデン氏が左傾化するほどトランプ氏に批判の隙を与えるリスクも高まる。トランプ氏は民主党を社会主義勢力とみなし、自身こそが資本主義を守る大統領候補だとアピールする。冷戦時に対立した旧ソ連のような社会主義のイメージが広がるほど、選挙では不利に働きやすい。

■激戦州が勝敗左右

トランプ大統領、バイデン前副大統領が注力するのは、選挙のたびに共和党、民主党と勝者が入れ替わる「スイング・ステート(揺れる州)」と呼ばれる激戦州だ。

激戦州は五大湖周辺の中西部に多い。自動車や鉄鋼など製造業の工場が多く、もともと労組を支持基盤とした民主党が強かった。しかし民主の移民政策などに不満を持つ白人労働者層の支持を集めたトランプ氏は16年、ウィスコンシンとミシガン、アイオワやオハイオ、東部ペンシルベニアを制した。いずれも08年、12年は民主党のオバマ・バイデン陣営が勝利した州だった。

特にバイデン氏の生まれ故郷であるペンシルベニアと、ミシガン、ウィスコンシンの3州は1992年以来民主党が勝ってきただけに、トランプ氏が僅差で勝ったのは大きかった。クリントン元大統領がブッシュ(父)元大統領の再選を阻んだ92年のように、バイデン氏がこれらの州を奪還できるかが勝敗を左右する。

選挙人が3番目に多い大票田で、いつも接戦となる南部フロリダ州も焦点だ。16年はトランプ氏が1.2ポイント差で勝利し、オバマ・バイデン陣営が勝った08年、12年も2.8ポイント、0.9ポイントの僅差だった。2000年は同率で並び、ブッシュ元大統領の勝利が決まるまで1カ月超の法廷闘争が繰り広げられた。ヒスパニック(中南米系)の人口が多く、多様な人種を取り込めるかどうかがカギとなる。

前回トランプ氏が勝利し、共和党が強い「レッド・ステート(赤い州)」ながら、今回は接戦となりそうな州もある。オバマ・バイデン陣営が08年に勝った南部ノースカロライナ州、都市部からリベラル層の移住が増えている西部アリゾナ州だ。人種構成が多様化している大票田の南部テキサス州にも民主党は望みをかけている。

■ 勝者が「選挙人」総取り

米大統領選挙は4年ごとに実施し、投票日は連邦法で11月の第1月曜日の次の火曜日と定められている。今年は3日。有権者は各党の正副大統領候補に投票するが、各州に割り当てられた「選挙人」を選び、選挙人が大統領を選ぶ「間接選挙」の体裁を取る。大統領を議会が選ぶか、国民が選ぶかの妥協策として作られた制度とされる。

間接選挙のため、全米での総得票数では当選が決まらない。州ごとに票を集計し、大半の州では1票でも多く得票した候補がその州に割り当てられた選挙人をすべて獲得する「勝者総取り」方式を取る。全米の選挙人538人の過半数270人以上を獲得した候補が当選となる。

各州の選挙人数は人口に応じて割り当てられており、選挙人数が多い「大票田」州で勝つことが重要だ。多くの州は民主、共和両党の色分けがはっきりしているので、両党の勢力が拮抗している10州前後の「激戦州」がカギを握る。

全米の総得票数で上回っても、激戦州を落とせば敗北することもある。2016年大統領選はクリントン元国務長官の得票数が2.1ポイント上回ったが、フロリダなどの激戦州を多く制したトランプ氏が306人の選挙人を獲得、232人のクリントン氏を圧倒した。選挙人制度は死票が多くなり、激戦州の影響力が過大になるなどの弊害も指摘され、民主党を中心に直接選挙にすべきだとの主張もある。

両候補の獲得選挙人数が269人でタイとなったり、第3党の候補が一定数を獲得したりしていずれの候補も過半数を得られない事態も起こり得る。その場合は大統領は下院、副大統領は上院が投票で選ぶ。新大統領の就任は来年1月20日。

(ワシントン=永沢毅、中村亮、鳳山太成、芦塚智子)

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