一斉休校、学力低下を防げ オンライン活用に濃淡
新型コロナ 変わる日常

新型コロナ
2020/5/5 2:00
保存
共有
印刷
その他

ビデオ通話アプリを活用して、始業式で2、3年生に向けて話す校長(福岡市の福岡西陵高)

ビデオ通話アプリを活用して、始業式で2、3年生に向けて話す校長(福岡市の福岡西陵高)

新型コロナウイルスの感染拡大に伴う休校は、子どもたちの学びの風景を一変させた。教室での一斉授業ができなくなる代わりに、オンライン学習が急速に拡大。学力低下を防ぐため、各地の教育委員会も手探りで工夫を始めた。一方で学童保育は縮小し、共働きやひとり親家庭を支える環境のもろさも浮き彫りにした。

■高校・大学でオンライン化加速

「ただ今より、令和2年度オンライン始業式を始めます」。4月13日、福岡市立福岡西陵高校の校長室で和田美千代校長はややぎこちなく、タブレット端末の画面に語りかけた。

この日は新型コロナ対策で同校が導入したオンライン学習の初日。普段は体育館で行う始業式を遠隔会議システムを使い、在宅の2、3年の生徒全約620人につないで実施した。

始業式後はさっそく授業開始。2年生を教えた国語科の吉本悟教諭は生徒が誰もいない教室で端末の前に座り、百人一首の和歌を解説。「全員で読んでみましょう」と呼びかけると、画面には一斉に声を出す生徒の姿が映った。吉本教諭は「黒板より見やすかったり動画の教材を使えたり、オンラインならではの強みもある。慣れれば授業の幅が広がる」と手応えを話す。

同校は全生徒がスマートフォンやタブレットなどの通信機器を持っていたことから、同市の市立校で初めて英数国3教科のオンライン学習に取り組んだ。参加は任意で授業ではなく学習支援という位置づけだが、毎朝ホームルームも行う。

オンラインで国語の授業をする教師(福岡市の福岡西陵高)

オンラインで国語の授業をする教師(福岡市の福岡西陵高)

こうしたオンライン学習の活用は大学が一歩進んでいる。早い段階で導入を決めたのが名古屋商科大だ。新型コロナ対策で香港の連携校が遠隔授業を検討していると知り、準備を開始。全学部・大学院の授業について、4月から通常の時間割と同じスケジュールで遠隔授業を始めた。教員は自身の研究室や学内のスタジオなどを使って授業を中継する。

三重大も前期のほぼ全ての授業をインターネット上で実施。講義はパソコンやスマホで視聴できる。早稲田大や一橋大も授業開始を5月の大型連休明けに繰り下げ、再開する授業をすべてオンラインで行う。

ただ、先進的な高校や大学でオンライン授業の活用が進む一方、公立の小中高校の多くは、環境も制度も整っていないのが実情だ。

全国約3万3千の公立小中高校、特別支援学校のうち、光回線が整備されていない学校は全体の1割弱にあたる2800校。文部科学省は2023年度までとしてきた1人1台の通信端末の整備を今年度中に前倒しするなど、ハード面の支援を進める。

単位認定の仕組みも、オンライン授業を想定したものになっていない。学校教育法施行規則は通信制を除く高校でオンラインで取得できる単位を、全課程の修了要件の5割弱と定めている。文科省はコロナによる休校期間は「上限を緩和してもいい」とする通知を出したものの、対面授業と同等の効果を得られるなどの原則は変えておらず、ハードルは高いままだ。

東京都などは、休校期間を5月いっぱいまで延長する方針。年間の学習課程を消化できない恐れもあり、9月入学の検討を求める声が上がっている。

コロナ禍が浮き彫りにした教育システムの遅れ。終息後を見据えた見直し議論が求められている。

■学童保育、足りぬ人手

名古屋市緑区の「あおぞら学童保育クラブ」は政府の要請を受け、近隣の小学校が臨時休校になった3月2日以降も、多いときで50人ほどの子どもが集まっていた。一軒家を活用した室内で、子どもたちはボードゲームや工作など思い思いのことをして遊んでいた。

厚生労働省によると、学童保育は全国に約2万6千カ所(2019年5月時点)。半分近くを占める公設民営のほか、公設公営、民間の3形態があり、約130万人の児童が登録している。

新型コロナウイルスの影響で一斉休校となり、行き場を失った共働きやひとり親家庭の児童にとって、この学童保育がほぼ唯一の受け皿となった。

民間のあおぞら学童クラブもそのひとつ。ただ、運営を継続するには悩みが2つあった。

学童保育クラブで勉強する小学生と見守るスタッフ(4月、名古屋市緑区)

学童保育クラブで勉強する小学生と見守るスタッフ(4月、名古屋市緑区)

まず人手不足だ。保護者が出勤前に子どもを預けられるように開所を午前7時半に早めたところ、アルバイトの大学生に声を掛けてもシフト表が埋まらない状況が続いた。施設責任者の田頭直樹さんは「保護者に臨時でボランティアを頼まないと、職員が休みを取れなかった」と話す。

厚労省が3月16日時点で調べたところ、学童を設置している自治体の7割にあたる1108市町村が子どもを午前中から受け入れていた。人手不足を補うため、893自治体が小学校の教職員や他施設の応援職員を受け入れていた。

もうひとつの悩みが感染リスクだ。狭い空間に子どもが密集するために、感染の恐れは強まる「3密」となりやすい。厚労省は手洗いの徹底や設備の消毒を求めたが、マスクや消毒液は不足し、新たに手に入らなかった。同様に「備蓄が足りない」という声は全国各地の施設で聞かれた。

4月に政府が緊急事態宣言を発令すると、厚労省は対象地域の学童について受け入れ縮小や臨時休業の検討を求めた。ただその場合でも、医療従事者や社会の機能を維持する仕事など、休めない家庭については対応を検討するように求めるなど、受け皿としての役割は変わらなかった。

■在宅学習、工夫凝らす

児童・生徒のオンライン学習はともすれば一方的な受け身になりがち。教育現場や家庭では子どもが自ら勉強に取り組めるよう、工夫を凝らしている。

「先生、答えは2番ですか」。4月中旬、東京都豊島区の小学4年、岸倫太朗くん(9)は手元に参考書を広げ、タブレット画面に話しかけた。小3から通う塾がこの日から双方向型のオンライン授業を始めた。画面には先生と友達の顔がずらりと並び、授業中は先生が児童一人ひとりに回答を促したり、児童が質問したり、教室のようなやり取りもある。

「動画やゲームをするおもちゃだったタブレットが、学習に不可欠な道具になった」と母親の香さん(37)は学習環境の変化に驚きをみせる。

学習塾の動画配信を利用して、自宅で勉強する小学生と保護者(東京都豊島区)

学習塾の動画配信を利用して、自宅で勉強する小学生と保護者(東京都豊島区)

東京都板橋区の女性(41)も無料のアプリや教材を駆使して長男(9)が飽きないよう試行錯誤する。タブレットでそろばんの暗算やローマ字のタイピングを特訓し、苦手な漢字をマスターするため宿題プリントはコピーして複数回取り組む。女性は「学校とは違うやり方でリラックスして楽しめている」と満足する。

各地の教育委員会も在宅学習の充実に役立ててもらおうと、オンライン教材の作成や配信を始めた。

板橋区は4月3日から、動画投稿サイト「ユーチューブ」で教員らが独自で作った映像を配信。音読や漢字ドリルなどの学習教材のほか、ヨガなどの特別授業を公開している。

児童らに飽きさせないために、教員以外の力も借りている。4月28日に同区の観光大使を務める腹話術師の「いっこく堂」さんの動画を投稿した。腹話術人形を使いながら、区内の町名などをクイズ形式で質問し、再生回数は5千回を超える。区教委の担当者は「楽しみながら学習を継続する習慣を身につけてほしい」と話す。

ただ、世界的にみると情報通信技術(ICT)の活用は遅れている。

経済協力開発機構(OECD)が2018年に48カ国・地域を対象に行った「国際教員指導環境調査」によれば、生徒に課題や学級活動でICTを積極的に活用させている教員の割合は、中学校は日本は17.9%で、OECD平均(51.3%)を大きく下回った。

新型コロナを機に活用が広がったオンライン学習。不登校などの子どもたちにも活用できる可能性があり、感染終息後も取り組みは続けていく必要がある。

保存
共有
印刷
その他

電子版トップ



[PR]