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ぎっくり腰で安静はNG 腰痛に「ハリ胸&プリけつ」

腰痛・肩こり対策(下)

(イラスト 平井さくら)
日経Gooday(グッデイ)

ぎっくり腰を起こしたら安静にしなければ…と思うが、「ほとんどの腰痛にとって安静は百害あって一利なし。ぎっくり腰直後でも可能な範囲で適切に動いて、なるべく早く日常生活に戻ったほうがいい」と言うのは、東京大学医学部附属病院特任教授・松平浩さんだ。前回記事「あっ…『ぎっくり腰』 その直後、激痛でも動ける裏技」では、発症直後のまったく動けない状態を切り抜けるための「ぎっくり腰体操」などを紹介したが、今回は、ぎっくり腰発症後の激しい痛みへの対処法や、ぎっくり腰をきっかけに腰痛持ちにならないための生活術について伺った。

痛み止めは使っていい

ぎっくり腰は激しい痛みを伴うことが多い。初めてぎっくり腰を起こすとパニックになりがちで、ぎっくり腰以外の悪い病気ではないか? 救急車を呼ぶべき? 病院に行くならどの科? 接骨院のほうがいいの? などと迷うこともある。

しかし、「『こうしていれば楽』という姿勢がある場合は、たいていはぎっくり腰以外の悪い病気ではないので、骨粗しょう症がある可能性が高いシニア層や、がんの既往がある方以外は、基本的にはすぐに病院へ行く必要はないと思います」(松平さん)

では、自宅で様子を見る場合、市販の痛み止め薬を飲んでいいだろうか。

「痛み止め薬は、痛みを抑えるだけの対症療法で、根本的な治療にならない」などと、薬を飲むことに抵抗を感じる人も多いようだが、「薬を飲んだほうが早く日常生活に戻れるし、痛みからくる不安や恐れなどのストレスを感じにくくなり、痛みをやり過ごすことができる。また、薬を上手に飲むことで、腰痛の慢性化リスクを下げることができます」と松平さんは言う。

「ぎっくり腰の初期、強い痛みを感じているときは、薬で早く痛みを抑えたほうがいいでしょう。診療ガイドラインで推奨しているのはNSAIDs(エヌセイズ)という非ステロイド性抗炎症薬で、ロキソプロフェン(ロキソニンなど)が有名です。ただし、過去にNSAIDsで副作用が出たことのある方や、もともと副作用の出やすい高齢の方は、医療機関に相談してください。また、胃腸が弱い、高齢で腎機能が低下している、気管支喘息や心筋梗塞の経験があるといった場合は、アセトアミノフェン(カロナールや市販の『ラックル』など)のほうがいいでしょう」(松平さん)

松平さんは、「痛み止め薬は、痛いときに1回だけ飲むのではなく、痛い痛くないにかかわらず2~3日でよいので用法・用量に沿って定期的に飲み続け、薬の効果が途切れないようにするのがいい」と言う。なぜなら、個人差はあるものの、脳が苦痛を感じる程度や頻度が増えると、痛みに注意を向ける機会が増え、脳機能が変化し痛みが過敏化しやすくなることが医学的に分かっているからだ。

「不安や恐怖感を持たずに、通常通りに過ごせば薬を使わなくても多くの人が自然に良くなることも分かっていますが、慢性化するリスクを確実に減らすためには、痛みが一番つらい時期に限ってでよいので、薬の効果が切れないようにして、痛みに注意を向け過ぎないようにすることが肝要と考えます」(松平さん)

気持ちよければ湿布もあり

腰痛の手当てといえば湿布を思い浮かべる人が多いだろうが、使ってもいいのだろうか。また、冷湿布と温湿布ではどちらがいいのだろう。

「市販の湿布にも、飲み薬のところで紹介したNSAIDs(非ステロイド性抗炎症薬)が配合されているものが増えています。しかし、腰痛の炎症部位は皮膚から遠いこともあり、一般的には飲み薬より作用が得られにくいといえます。しかし、湿布を貼ると気持ちがいい、痛みがやわらぐと感じるなら、NSAIDs配合の有無にかかわらず、冷湿布でも温湿布でもどちらでも、あるいは、薄くて粘着力のあるテープ剤でも厚くて貼るときにひんやりするパップ剤でも、好きな種類を選べばよいと思います。脳が気持ちいいと感じていることは痛みの軽減につながります。それによってできるだけ通常通りに活動できるなら、使ったほうがいいでしょう」(松平さん)

しかし、冷やすことには若干注意が必要だ、と松平さんは言う。

「ぎっくり腰の痛みを強めているのは背中のアウターマッスルの緊張で、背中の表面を捻挫や打撲のときのように氷枕で冷やすと、筋肉の収縮が強まり痛みが増す可能性があります。冷湿布や温湿布は、それぞれメンソール成分や唐辛子成分などで冷感、温感を感じさせる要素が大きく、皮膚温の変化にそれほど影響を及ぼさないので気持ちよければどちらを使っても構いませんが、氷枕で冷やす行為はあまり勧められません」(松平さん)

コルセットには頼らない

次に、コルセットや腰ベルトの使用はどうだろう。

「使ってもいいですが、私は患者さんに2日までと言っています。ぎっくり腰の直後、腰を固定したほうが痛みが軽減され日常生活を送りやすい、という場合は使ってもいいでしょう。しかし、『4週間使用すると腰を支える筋肉が衰える』という研究があるので、長期間の使用はお勧めしません」(松平さん)

コルセットなどを常用し腰を動かさなくなると、腰の血流が悪くなり発痛物質が増えるともいわれており、コルセットや腰ベルトにはできるだけ頼らないほうがよさそうだ。

腰痛は体を動かすほど良くなる

この記事や前回記事「あっ…『ぎっくり腰』 その直後、激痛でも動ける裏技」で何度か、「痛みを恐れたり、不安になったりすると痛みが増す」と言ってきたが、ここではそのメカニズムについて少し解説しよう。

ぎっくり腰は明確な原因となる病気がない腰痛だが、ぎっくり腰を繰り返す人や、腰の傷は治っているのに腰痛持ちになってしまう人が多いという。

「ぎっくり腰は、前かがみの姿勢に、荷物を持ち上げる、くしゃみをするなどの負荷が重なった結果起こりますが、この負荷の問題に加えて、さまざまな心理的な要因が脳機能に影響して腰痛の慢性化に関与することが明らかになってきました」(松平さん)

例えばぎっくり腰を経験した人は、「あの痛みは、もう経験したくない」と思うものだが、「その『ぎっくり腰トラウマ』は腰痛に対する不安や恐怖、悲観的な考えを生みます。すると、腰をかばわなければという過剰な警戒心から体を動かさなくなります。すると、うつ気味になってさらに体を動かさなくなり、筋力が衰え、脳が痛みに過敏になってしまいます。こうした悪循環を『恐怖回避思考』といいますが、これを断ち切らない限り腰痛からは解放されませんし、再発を繰り返すことになってしまいます」(松平さん)

つまり、「ぎっくり腰は痛い、怖い」と思わずに、「動かすほど腰痛は良くなる」と思うことがポイントだ。こういった正しい知識を得ただけで慢性腰痛が改善した人もいるという。「さらに、前かがみの姿勢の積み重ねでいわゆる『腰痛借金(負荷)』をためてしまわないよう、普段から『これだけ体操』(第1回記事「デスクワークでたまる『腰痛借金』 3秒体操で解消」を参照)を行う習慣をつけると効果的です。腰痛は体を動かして治しましょう」(松平さん)

腰痛を防ぐ「ハリ胸&プリけつ」

今述べた通り、腰痛持ちにならないためには、腰に腰痛借金(負荷)をためないことが肝心だ。

「そのために、洗顔や掃除機がけなど前かがみの姿勢をとるときに日ごろから意識したいのが、胸を張ると同時に、骨盤を前に傾けてお尻をプリッと出す『ハリ胸&プリけつ』です。高齢者を中心に、日常生活で骨盤が後傾した姿勢をとりがちな日本人は多く、特に洗顔をしたり重いものを持ち上げたりするとき無防備にそのまま前かがみになる人は結構います。そうした姿勢だと大きな負荷がウエストライン付近の椎間板に一気にかかり、ぎっくり腰という事故が起こります」(松平さん)

ただ、いきなり骨盤だけを前傾させる(プリけつ)のは難しいため、先に胸を張る(ハリ胸)と、しっかり「プリけつ」ができるそうだ。「普段から前かがみになるときは『ハリ胸&プリけつ』を心がけるといいでしょう」(松平さん)

「ハリ胸&プリけつ」

ぎっくり腰を防ぐ「くしゃみの仕方」

最後に、ぎっくり腰を防ぐくしゃみや咳(せき)の仕方をお教えしよう。意外に思うかもしれないが、くしゃみや咳はぎっくり腰と関係が深い。

「無防備にくしゃみや咳をすると、瞬間的に前かがみになるため、腰に大きな負担がかかり、ぎっくり腰が発生しやすくなります。机や壁に手をついてするだけで、腰にかかる瞬間的な負担をかなり減らすことができます」(松平さん)

手をつく所がないときは、自分の太ももに手をつけばいいそうだ。座っているときだけでなく、立っているときもハリ胸で膝を少し曲げた姿勢で太ももに手をつくとよい。なお、咳やくしゃみをする際は、咳エチケットも忘れないように気を付けよう。

(文 村山真由美、イラスト 平井さくら)

[日経Gooday2020年4月28日付記事を再構成]
松平浩さん
東京大学医学部附属病院22世紀医療センター特任教授。1992年順天堂大学医学部卒業、1998年東京大学医学部附属病院整形外科。同大学にて博士号取得。英国サウサンプトン大学疫学リサーチセンター、関東労災病院勤労者筋・骨格系疾患研究センター長等を経て2016年より、現職。2019年Bipoji Lab開設。2015年NHKスペシャル「腰痛・治療革命」出演、監修。『3秒から始める 腰痛体操&肩こり体操』(NHK出版)など著書多数。現在、体操動画をTwitter、YouTube(https://youtu.be/KJvmhyZtPAE)、インスタグラムで配信中。

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