「国民とともに」陛下1年 令和初年、踏み出した旅路

令和の幕開けから1年がたった。天皇陛下は台風被災地を訪れて住民を励ますなど、上皇さまが貫いた「国民とともに歩む姿勢」を継承する一方、豊富な海外経験を生かした国際公務では新たな存在感も示されている。足元では新型コロナウイルスの影響で皇室行事も制約を受けているが、陛下は皇后さまとともに令和新時代の象徴像を模索されている。
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被災者目線でねぎらい

即位関連儀式の準備の最中だった2019年10月、東日本を襲った台風19号などで多くの犠牲者が出ると、両陛下は早い段階から被災地を訪れる意向を示された。代替わり行事が一段落した12月、即位後初めての被災地訪問が実現した。
両陛下は河川が氾濫するなどして甚大な被害を受けた宮城、福島両県の被災地で被災者らに励ましの言葉をかけて回り、復旧活動に携わった人々をねぎらわれた。
時に身をかがめ、被災者と同じ目線で語りかけるスタイルは、地震などの被災地訪問や国内外の戦没者追悼を通じて「国民とともに歩む象徴像」を確立した上皇ご夫妻の路線と重なる。
グローバルな活動も

陛下は学生時代に英オックスフォード大に留学された。元外交官で米ハーバード大で学んだ皇后さまも幼少期から海外生活が長く、いずれも国際経験が豊富だ。
両陛下は19年5月に国賓として来日した米国のトランプ大統領夫妻と通訳を介さず、英語で歓談された。トランプ氏が「陛下は英語が大変お上手ですが、どこで勉強されたのでしょうか」と尋ねる場面もあった。
多数の各国要人が出席した同10月の即位礼の祝宴「饗宴(きょうえん)の儀」でも、長年親交を深めてきた国王や王族らと親しくあいさつを交わし、食事をともにされた。ライフワークとする「水問題」に関する国際会議にも出席して海外の研究者らと意見交換するなど、グローバルに活動する新たな象徴として国際親善に取り組まれる姿を印象づけた。
「二重権威」問題化せず

江戸時代の光格天皇以来、約200年ぶりとなった退位による代替わりは近代では例がなく、当初は新旧天皇が並び立つ「二重権威」の問題を懸念する声もあった。
憲法は天皇を日本国および日本国民統合の象徴と位置付けるが、上皇の活動に関する定めはない。実際には代替わり後に上皇ご夫妻が公の場に姿を見せられる機会は少なく、1年を経ても二重権威問題は大きな議論になっていない。
代替わりを見届けた山本信一郎・前宮内庁長官は「二重権威については(上皇さま自身が)格別に配慮をされていた」と明かす。
スムーズな皇位継承
象徴天皇制に詳しい河西秀哉・名古屋大准教授(日本近現代史)の話 天皇陛下は国民に向け、平成の象徴天皇のあり方を継承していく考えを示されている。体調面で不安を抱える皇后さまも積極的に公務に同行することで注目も集まり、即位直後から祝賀ムードが続いた。
当然のように受け入れられている被災地訪問も、平成の代替わり間もない頃は反対論も多かった。だが今はかつてのような批判は少ない。盛んに論じられた二重権威への懸念も杞憂(きゆう)で、非常にスムーズな皇位継承だったといえる。
一方、世界が直面している新型コロナウイルスの問題は、地震や台風のように日本だけにとどまる問題ではない。象徴天皇ができることには限界があるが、時代に合った象徴像を築く上で、陛下はこうしたグローバルな課題でも自身の役割を探し、対応していかれるのではないか。