松田公太氏「コロナ後、飲食はチェーンばかりになる」

日経ビジネス
2020/5/7 2:00
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1968年生まれ。筑波大学卒業後、銀行員を経て97年にタリーズコーヒーの日本1号店を開業。翌年タリーズコーヒージャパン設立。2001年株式上場。320店舗超のチェーン店に育て上げ、07年、同社社長を退任。10年、参議院議員選挙で初当選。16年に議員の任期が満了した後は、ハワイ発祥のパンケーキ店「エッグスンシングス」の店舗展開や自然エネルギー事業などを手掛ける

1968年生まれ。筑波大学卒業後、銀行員を経て97年にタリーズコーヒーの日本1号店を開業。翌年タリーズコーヒージャパン設立。2001年株式上場。320店舗超のチェーン店に育て上げ、07年、同社社長を退任。10年、参議院議員選挙で初当選。16年に議員の任期が満了した後は、ハワイ発祥のパンケーキ店「エッグスンシングス」の店舗展開や自然エネルギー事業などを手掛ける

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新型コロナウイルスの感染拡大で最も影響を受けている業種の一つが外食産業だ。外出自粛要請で来店客は激減しており、各企業はテークアウトやデリバリーに力を入れているが、売り上げへの貢献は限られる。タリーズコーヒージャパン創業者の松田公太氏が現在トップを務め、国内に約20店舗を構えるパンケーキ店「エッグスンシングス」も甚大な影響を受けている。厳しい環境に置かれている外食の現状と課題を松田氏に聞いた。

――新型コロナウイルスの感染拡大を受けた外出自粛要請が外食産業に大きな影響を与えています。自身が経営される持ち株会社傘下の外食企業の社長にこの4月、復帰しました。今はどのような取り組みをしているのですか。

「今は100万円でも200万円でも多くのお金を集めなければいけない状況です。借り入れを増やさないと、会社が立ち行かなくなってしまいます。でも、この状況がいつ終わるか見えないので、どこまで借金を増やしたらいいのかも分かりません」

「緊急事態宣言が仮に1カ月延びて6月6日までとなっても、お客様はすぐに戻ってきません。平常化されても、完全に元通りになるには1年はかかるのではないでしょうか」

「いくらまでなら借金をしてもいいのか、どこかの時点で判断はしなければなりません。今回の借金は、なくなった売り上げをカバーするための借金であって、設備投資をして売り上げを増やすためのものではない。平常に戻ったとして、これから何年もかけて、失った売り上げの分を現金で返済していかなければなりません」

――売上高への影響はいつごろから表れ始めましたか

「2月の最終週でガクッと落ちて、3月に入ると、週を重ねるごとに10%ほど減少していきました。もともとは別の人に社長を任せていましたが、借金を増やしていかないといけない状況では、責任を取れるのは自分しかいないと判断して、社長に就きました」

――お客が来ないことには、外食は成り立ちませんね。

「この状況は、ある意味、営業をするなと言われているようなものです。お店を開いてもよいと言いながら、裏では銃を突きつけられて、お客を呼ぶなと。店を開けてもお客様を呼べない状況では、まともに戦うことはできません。両手両足を押さえられているようなもので、自由に活動していいよと言われても、無理じゃないですか。何も積極的にできないんです」

「もちろん、私も外出自粛は必要だと思っています。自分の肉親も感染していますし、これ以上感染者を増やしてはいけない。肉親の容体について病院から1日1回だけ連絡が来ますが、熱が下がって治ってきたと思ったら、翌日にはまた呼吸が苦しくなって熱が上がる。一度、陰性になったのに、再び陽性になる。謎だらけのウイルスで、本当に恐ろしい。こんなウイルスの感染が広がっている状況で外食に行くのは無理です」

――松田さんが中心となって、飲食店の経営者らが集まった「外食産業の声」委員会を立ち上げました。

「皆さんは簡単に借り入れを増やせばいいと言いますが、実際は申請をしてもなかなか返事が来なかったり、応じてもらえる金額が小さかったりして、どうしていいか分からない経営者は多いです。私がブログで政府に求める支援策などを書き込むと、多くの中小企業経営者や個人事業主から連絡が来るようになりました」

「東京都内のあるすし店は、店主とおかみさん、修行中の若い見習いの3人でやっています。先日、心配になって店主に連絡をすると、「解雇するとは言いたくない。給与はポケットマネーから払っている」とのことでした。人気のお店で、外出自粛要請があるまでは満席が続いていましたが、今は週に1組か2組、多くても3組が来るくらいだそうです。事前に予約の連絡を受けて、市場に食材を買いに行って、限られた客に料理を出している。今まで貯蓄をしながら堅実に商売をしてきたような人が、1000万円単位で借金を増やしていくのはとても不安だと思います」

――「外食産業の声」委員会は、「家賃支払いモラトリアム法案」を提言し、不動産オーナーが家賃交渉に応じることの義務化や政府系金融機関による家賃の一時的な肩代わりなどを求めています。

「多くの飲食店で負担になっているのが家賃の支払いです。さきほどのすし店も同様で、家賃をどうやって交渉すればいいのかと相談がありました。誰から借りたかと聞くと不動産仲介業者とおっしゃるので、まず仲介業者に話してくださいと言ったのですが、仲介業者は不動産オーナー側に立っていて、話が進まない。では今度は、仲介業者に不動産オーナーを紹介してもらってくださいと言ったのですが、無理です、仲介業者の私を通してください、という答えが返ってきた。こんなふうに不動産オーナーが出てきてくれないので、交渉ができないのです」

「中には、テナントに出ていってもらってもいいと思っている不動産オーナーもいます。例えば、何年も前から入居している場合、当時の相場を反映した安い家賃になっています。人気の高い一等地であれば、そのテナントへの入居を望む他の大手が高い家賃を提示してきたら、不動産オーナーにすれば、大手に貸したい。そういったこともあって、こんな状況でもびた一文も減額しない、まったく交渉に応じない不動産オーナーもあります。料理一筋でやってきた飲食店の店主がこのような交渉をするのは相当難しいです」

■売り上げ回復の見込みが立たなければ廃業が増える

――個人事業主という立場で営業している飲食店も多いと思います。その道一筋でやってきたような腕のいい料理人の店がなくなってしまわないか心配です。

「今から約20年前、私は個人事業主としてタリーズコーヒージャパンを立ち上げました。国民生活金融公庫(現在の日本政策金融公庫)や親戚、友人などに7000万円を借りて、銀座に1号店をオープンしました。もし返済できなくなったらどうしようと、とても不安でした。独立する前は銀行員でしたので、借金を返済できなくなった人がどういう末路をたどっているかもよく知っていました。日本はセカンドチャンスがほとんどない国です。借金を返せなくなるとブラックリストに載って、当分の間、社会復帰できなくなってしまう」

「自分が独立したときに個人事業主だったこともあり、今不安になっている個人事業主の気持ちはよく分かります。7000万円の借金を抱える前に、私は自宅近くのコンビニを見て回り、アルバイトの時給を調べました。もし事業が失敗したら、1日20時間を何十年と働き続ければ、なんとか借金は返せる。そう思うと少し安心感が生まれました。自分の中で、最悪の場合でもどうすれば返せるかというめどが立たなければ、何千万もの借金なんて怖くてできません。いま個人で何千万円もの借金をしなければいけない状況に置かれている人は本当に不安だと思います」

――借りたお金を本当に返済できるのかと考え、自ら店をたたむ判断をする経営者も数多く出てきそうです。

「売り上げの回復の見込みもなく借金をし続けなければいけないとなれば、倒産より廃業が増えると思います。自分の資産をすべて売っても返せなくなってしまうわけですから、もうやめようかとなってしまいます」

「私たちのようなイートインの飲食店は非常に厳しい。長期でみると、ライフスタイルが変わるので、デリバリーやテークアウトを中心にする会社でなければなかなか伸びなくなるでしょう。このままだと、半分くらいの店がバタバタとつぶれていく。やがてはチェーン店ばかりになる可能性もあります」

――外食産業のあり方も大きく変わるのでしょうか

「外食産業そのものが大きく変革しなければ生き残れない時代が来てしまいました。外出自粛でライフスタイルが変わり、もう嫌だと言う人がいる一方で、実はこのライフスタイルの方がいいと考える人が非常に増えている。例えば、在宅勤務などもそうです。インターネットで買い物した方が楽であることに気付いた人もいるでしょう。そのあたりはあまり語られることはありませんが、いろいろな人からそういった話は聞きます。今後、景気が悪くなれば、自炊や中食が増える。食材が送られてきて料理するキットなども伸びるでしょう」

――店内飲食のお客が来店しない状況で、多くの飲食店がテークアウトやデリバリーを始めています。

「私たちのパンケーキのお店でもテークアウトを始めましたが、売上高への貢献度は5%程度に過ぎません。イートインとテークアウトとでは、そもそも店のつくりが異なっています。テークアウトの店ならば、会計をして商品を受け取る流れにする必要がある。簡単なように思うかもしれませんが、改装するのにも、何千万円とかかります。今は生き残っていくために必要なお金だけを借りているわけですから、これ以上、新しいことをする余裕はありません。今の状況が落ち着いて、売上高が従来の半分程度まで回復したら、次にどう手を打っていくか考えなければいけません」

(日経ビジネス 中山玲子)

[日経ビジネス電子版 2020年4月30日の記事を再構成]

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