「ポストコロナ」共感がカギ BNPパリバ・河野氏
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コラム
2020/5/1 2:00
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BNPパリバ証券チーフエコノミスト・河野龍太郎氏

今回の新型コロナ禍は、日本の伝統的な社会システムや資本主義経済のあり方を問い直しています。人同士の接触を避けるためテレワークの導入が奨励されていますが、まだ多くの国内企業で対応が遅れています。日本企業がこれまでIT(情報技術)やデジタル化への投資を単にコストカットの手段と捉え、本腰を入れてその普及に取り組んでこなかった結果ではないでしょうか。

諸富徹著
岩波書店

諸富徹著
岩波書店

モノを生み出す「物質的な資本主義」から、ITなど情報に価値を置く「知識経済」への変遷は今に始まったことではありません。諸富徹・京都大学教授は『資本主義の新しい形』(岩波書店)のなかで、モノが中心の資本主義はこの30年で大きく変わったと説いています。米アップルのスマートフォンは商品を売って終わりではなく、それを媒介してサービスを売っているのです。日本企業が製造業の現場にこだわる姿勢を改めなければ産業に未来はないと説いています。

中央銀行が金融緩和を続けても景気刺激効果が乏しくなりました。モノの生産が経済の主役だった時代は金利が下がれば企業は物的投資を増やしましたが、今の中心は無形資産という形のないものだからです。

生産手段や土地は所有が明確で、得られる利益の帰属先もはっきりしています。これがアイデアなどとなると話は別です。いまは大手IT企業が稼いだ利益は彼らが独占していますが、その利益の源泉は我々一人ひとりの個人情報です。情報の提供者と、利益を得る側が必ずしも一致しません。資本主義の変容が経済格差解決の糸口になるかもしれません。

アダム・スミス著
日経BP

アダム・スミス著
日経BP

少し先の社会を読み解くために、あと2冊紹介したいと思います。まずはアダム・スミスの『道徳感情論』(日経BP)です。『国富論』で市場メカニズムを研究した元祖であるアダム・スミスですが、実はそれよりも先にこの本で「他者に共感するヒトの能力が、人類の繁栄につながる」と論じています。

いまの諸問題をみると、地球温暖化や公的債務など世代間で利害が対立する課題ばかりです。将来世代のために社会保障を削るなどして財政を立て直そうとすれば、現役世代がしわ寄せを受けます。一見解決困難な課題でも、この本で取り上げている他者への「共感能力」を応用すれば今後改善できるのではないかと希望を持っています。

ジョセフ・ヘンリック著
白揚社

ジョセフ・ヘンリック著
白揚社

その私の展望を一歩先に進めてくれたのが、ジョセフ・ヘンリックによる『文化がヒトを進化させた』(白揚社)です。人間の進歩が文化を生み出しただけではなく、むしろ文化に適応する形で進化を遂げてきたというのがそのテーマです。多くの生物が自分の命を犠牲にできる相手は血縁関係の狭い範囲に限られる一方、ヒトは血縁に縛られずに利他性を発揮するように進化してきたというのです。経済学が前提条件とする「自らの効用最大化を目的とする利己的な個人」とは必ずしも一致しないことが分かります。

私たちが、経済学が想定する利己的な個人であるならば、将来世代のために自分を犠牲にする財政健全化などは無理かもしれません。しかし幸いにしてヘンリックは、ヒトはまだ進化の途上にあるとも説きます。今後さらなる利他性や共感能力を発揮できた共同体は、より良い社会を生きることができるのでしょう。

(聞き手は井口耕佑)

[日経ヴェリタス2020年5月3日付]

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