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東南アジア、異例の財政措置 積立金活用や規律緩和

新型コロナ対策 格付け低下や通貨安も

【シンガポール=中野貴司】東南アジアの政府が大規模な新型コロナウイルス対策のため、異例の財政措置を打ち出している。シンガポールが11年ぶりに積立金を取り崩すほか、インドネシアはアジア通貨危機後に設けた財政ルールを棚上げする。経済への打撃を緩和するための財政出動を可能にする目的だが、格付け低下や通貨安などにつながる恐れもある。

シンガポールは政府系機関が蓄積した積立金を取り崩す。新型コロナ対策として国内総生産(GDP)の12%に相当する約600億シンガポールドル(約4兆5千億円)の財政出動に踏み切るが、財源の3分の1を実質的に積立金で賄う。取り崩しはリーマン危機の影響が出た2009年以来、2度目だ。ハリマ・ヤコブ大統領は「企業や国民の生死に関わる問題で、最大限、迅速に支援すべきだ」とする。

インドネシアは財政赤字をGDP比で3%以内に抑えるルール運用を3年間限定で緩和する。1990年代後半のアジア通貨危機の反省から、03年に法律をつくった。しかし、年間GDPの2.5%に相当する新型コロナ対策を打ち出し、GDP比の財政赤字が5%程度に膨らむことが避けられなくなった。

タイのGDP比の公的債務も20年中に57%と、アジア通貨危機後に定めたルールの上限の60%に近づく見通しだ。タイの20年の経済成長率は大幅なマイナスに転落するのが確実となっている。一段の財政出動が必要になれば、財政規律に関するルールの見直しを迫られる可能性がある。

インドネシアやタイが設けている財政悪化の歯止め措置は、政府債務の水準を低く抑える役割を果たしてきた。国際通貨基金(IMF)によると両国を含む東南アジア主要5カ国の19年のGDP比の政府債務は約40%。先進国の平均(103%)や新興国(53%)に比べ健全性が高い。ただ、新型コロナ対策でルールが守られなくなり、財政悪化が進むリスクに直面している。

新型コロナが招いた資源安も財政に響く。産油国のマレーシアなどは歳入減少に直面するのが避けられない。マレーシアのザフルル・アジズ財務相は21日、20年のGDP比の財政赤字が当初見通しの3.2%から4%以上に拡大する見通しを明らかにした。マハティール前政権は20~22年の同比率を2.8%に下げる目標を掲げていたが、実現は風前のともしびだ。

格付け大手のフィッチ・レーティングスは4月に入り、マレーシアとベトナムの格付け見通しを「弱含み」と「安定的」にそれぞれ引き下げた。財政再建の遅れなどが理由だ。インドネシアの通貨ルピアは既にアジア通貨危機時以来の安値圏で推移しているが、市場の信認を確保できなければ通貨安が進むリスクが高まる。東南アジア各国の政府は、経済の悪影響の緩和と市場の信認維持の両立という難しい課題に直面している。

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