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ファン待望のライブサッカー 無観客でも残る課題

サッカージャーナリスト 大住良之

「この段階にくれば、無観客開催も想定しなければならない」。4月23日、サッカーJリーグの村井満チェアマンはそう語った。

「ときに制裁などでクラブに対して無観客試合を科すことはあるが、試合日程を変更し、場合によっては大会方式をチューニングしても、お客さまの前で試合を行うべきだと考えている。(無観客は)最後の最後に慎重に考えるべきだと思っている」

2月25日にリーグ戦全試合の中断を宣言したとき、村井チェアマンはこう話した。「ファン、サポーターあってのJリーグ」という重要な根本思想を確認したことは、急速に迫り来る新型コロナウイルス禍の脅威に対し欧州や南米で無造作に無観客試合が行われているなか、非常に高い見識と感じた。

オンラインで行われた「新型コロナウイルス対策連絡会議」の第6回会議で発言するJリーグの村井チェアマン(23日)=共同

だが中断は当初予定した3週間にとどまらず、1カ月、2カ月と延びて、現時点では希望的観測でも再開は夏という状況にある。それはもちろん、Jリーグに限ったことではなく、オリンピックや欧州選手権、南米選手権など今夏に予定されていた世界的なビッグイベントもことごとく1年延期され、現在世界中のスポーツが完全中断状態だ。

そんななか、開幕が延期されていた韓国のプロサッカー「Kリーグ」が5月8日に開幕することが発表され、世界的に大きな反響を呼んでいる。

欧州では、ベルギーとオランダのリーグが2019~20年シーズンの「終了」を宣言、優勝も順位も決めないことにした。4月上旬にはその決定を認めず、「7月以降でもシーズン再開を目指すように」と加盟協会に指示を出していた欧州サッカー連盟(UEFA)も、4月23日にはそれを承認した。その一方で、ドイツのブンデスリーガやイタリアのセリエAは再開への動きを始めているという。

だが、韓国のKリーグもブンデスリーガもセリエAも、もちろん「無観客」である。

再認識されるライブスポーツの魅力

前回のコラムでも説明したように、現代のプロサッカークラブの収入は「ホームゲームの入場料収入」「放映権」「スポンサー」の3本柱で成り立っている。入場料収入を失っても、残りの2つの柱の契約義務を果たせばなんとか生き残ることができる。無観客に踏み切る重要な要素がそこにある。

しかしそれだけではない。

世界中ですべてといっていい大会がストップしている現在、メディアは「スポーツの生中継」という最もスリリングなコンテンツを失い、途方に暮れている。「伝説の試合」や「伝説のスーパースター」などの企画でお茶を濁していても、もうすっかり飽きられている。

「ライブスポーツ」の魅力がこれほど再認識されているときはない。「筋書きのないドラマ」などといわれるが、結果的にドラマチックな展開などなくても、勝敗がわかっておらず、試合の過程でどんなパフォーマンスが見られるか、選手たちの奮闘や失敗がどんな思いがけない結果につながるのか、ライブスポーツは、視聴者の心拍数を急上昇させ、陶酔感を与える。こうした現象を「新しい恋」にたとえた人さえいる。

一般非公開で行われた鹿島と札幌の練習試合。生中継されて多くのファンを喜ばせた=共同

3月21日、Jリーグが中断してほぼ1カ月が過ぎたころ、Jリーグの全試合の生中継の権利をもつ動画配信サービス「DAZN(ダゾーン)」が鹿島アントラーズ対コンサドーレ札幌の「練習試合」を生中継した。このころは、各クラブは練習も、練習試合も行っていた。ただし札幌戦は鹿島のトレーニンググラウンドではなくカシマスタジアムを使い、両チームとも公式のユニホームをつけてプレーしたのである。

もちろん、観客は入れていない。だがこれが非常に好評だった。1カ月ぶりの「ライブサッカー」は多くのファンを喜ばせ、ダゾーンは翌週にも2試合を企画し、放映した。

試合では「密」の状況を避けられず

「無観客でも、ファンが求めているライブサッカーを提供するのはプロサッカークラブ、リーグとして意義のあることではないか」

4月23日の村井チェアマンの発言の背景には、クラブやリーグの経営面の問題解決もさることながら、「活気あふれるプレーを見せることで社会に元気を与えたい」という強い思いがあるのも間違いない。

だが、無観客だからといって、問題がないわけではない。

試合をするには、まず各クラブのトレーニングを再開しなければならない。「ステイホーム」「社会的距離」を要請されているなかで、「密集」も「密接」もするサッカーの練習をどうオーガナイズするのか。試合でも、当然、競り合いがあり、ぶつかり合いがあり、「密」の状況を避けることはできない。チーム内にひとりでも感染者を出したクラブは、その時点で試合ができなくなってしまうだろう。チームの移動の問題もある。

さらに、無観客だからといってファンやサポーターへの対応で問題がないわけではない。

2014年3月に無観客で行われた浦和―清水戦=共同

14年に浦和レッズが清水エスパルスとの試合を無観客にする制裁を受けたときには、「無観客試合制裁」の意味を考えた浦和が、サポーターがスタジアム外に集まることを懸念し、スタジアムやチームバス周辺での応援を禁止した。今回も、当然そのような措置が必要になる。

試合の生中継を仲間といっしょに見ようと、スポーツバーなどにファンが密集する可能性もある。それでは無観客にする意味はなくなってしまう。

無観客開催といっても、選手、審判員とともに運営スタッフ、中継スタッフなど安全を守りながら試合を開催するのはけっして簡単な課題ではない。慎重な検討とシミュレーション、そしてファン、サポーターへの告知など周到な準備が必要なのは当然だ。

熟慮のうえ、もしJリーグが無観客開催に踏み切るなら、その困難な戦いがポジティブな成果を生むことを心から願わずにいられない。

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