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いっせーのー「で」が大阪流 由来は?

とことん調査隊

ある日、息子が公園で友達と声を合わせてジャンプしたとき、聞き慣れない言葉を耳にした。正確にいうと語尾に違和感がある。彼らが叫んだのは「いっせーのーで!」。耳の奥に引っかかる、この言葉の謎を探った。

重い荷物を複数人で運ぶとき、動作を合わせて何かをするとき、掛け声を発するのは全国共通だ。ただ、横浜育ちの記者(52)になじみがあるのは「いっせーのーせ」。転勤族で大阪も計10年以上になるが、恥ずかしながら語尾の「で」には初めて気づいた。

大阪育ちの妻いわく、「子どもの頃から『いっせーのーで』が普通だよ」。関西出身の知人らに聞くと「せーのーで」という言い方も。関西では「で」が付くんだ、と膝を打ち、前任地の福岡の知人にこの話をすると、「こっちでは『さんのーがーはい』だよ」。少し混乱してきた。

地域差に驚きつつ辞典に手を伸ばすが、「広辞苑」「大辞林」でもこれらの言葉は見当たらない。載っている言葉で近いのは「せえの」。広辞苑には「皆が同時に動作を起こす場合に、その始まりの合図に発する掛け声」とある。

「せえの」の由来を探ろうと調べると、京都府立大教授などを務めた国語学者、故寿岳章子さんが書いた「『せーの』報告書」(国語語彙史の研究16、1996年、和泉書院)という文書を見つけた。

24年生まれで当時は70歳すぎ。「せーの」に関心を持ちつつも、「私にとって理解語ではあっても使用語ではない」と述べる。「せーの」系と分類した掛け声の例に、「せーのーで」「いっせいのーでー」を挙げ、語尾に「で」が付いているのは興味深い。

語源についても考察しているが、「せーの」が登場する文献はほとんどなく、解明を断念している。口承で広がるタイプの言葉の語源の探求はなかなか難しいようだ。

途方に暮れる心に光が差したのは、20年以上前に寿岳さんの報告に触れ、「ずっと関心を持っていた」という京都先端科学大の丸田博之教授の話を聞いてからだ。

語源研究の専門家である丸田教授によると、口承で伝わる言葉の語源は単独ではなく、複数が重なり合うケースが多い。その語源の一つの私見として「『せーの』は『塞ノ神』から来ている」という説を教えてくれた。

塞ノ神は道祖神、つまり地蔵である。「重い物を持つときに、塞ノ神の力を借りたい。さいの来い、せーの来い、と変化し、それが『せーの』になった」との解説。「さい」から「せえ」への変化だ。

さらに福岡の「さんのーがーはい」についても、「い」と「ん」で変化する言葉の例を挙げ、「『さいの』から『さんの』への変化はあり得る」と語る。

「いっせーの」の掛け声は、明治時代の海軍が使ったフランス語の号令「イセー(引き揚げろ)」に由来し、日本語の「一斉」も関係するとの説がある。丸田教授はそれらの説を積極的に支持しつつ、中核の「せーの」はより古い語源、塞ノ神が有力と見る。

ただ、語尾に付く「で」の由来には、丸田教授も首をかしげる。「木やり歌などに由来する各地の掛け声は、『やっとこせ』『どっこいせ』など、言葉を止めやすいサ行の音で終わることが多い」。つまり、語尾の一般形は「せ」である可能性が高いという。

考えられるのは「いっせーのーでー行くよ!」などの原型から、「行くよ」が落ちたパターン。掛け声は4音節、3音節などに分類できるが、語尾に「で」が付く言い方は、力を入れるタイミングが他と微妙に異なるそうだ。大阪出身の知人は「『で』と同時ではなく、『で』の次の瞬間で動く」と語る。つまり「で」の後の「行くよ」で動いていた? 少しだけ視界が開けた気がした。(影井幹夫)

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