異例の環境で好舞台 動画配信された3月歌舞伎

アートレビュー
2020/5/1 2:00
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国立劇場の無観客上演で3役を演じた尾上菊之助(左から源九郎狐、いがみの権太、平知盛)

国立劇場の無観客上演で3役を演じた尾上菊之助(左から源九郎狐、いがみの権太、平知盛)

新型コロナウイルスの影響で歌舞伎も休演が続いているが、3月は初日を政府の要請で3度に亘(わた)り順延、揚げ句に全面休演という、無念もひとしおの事態となった。歌舞伎座と国立劇場は、予定していた全演目の映像を動画配信ユーチューブで期間限定で配信。当然、観客なしの舞台だが、大相撲の無観客場所にも負けぬ熱のこもった舞台となった。

歌舞伎座は吉右衛門の伊賀守、仁左衛門の園部兵衛という大顔合わせの『新薄雪物語』が眼目の第一。期待に違(たが)わず、魁春の梅の方と三者揃(そろ)った「合腹」は当代歌舞伎の高峰として語り伝えるに足る舞台となった。「花見」「詮議」でも歌六の大膳等、好配役の生み出す量感が大歌舞伎の名に恥じない。

また自在の境地を見せる白鸚が、既に手中にある『石切梶原』に加え老け役『沼津』の平作に挑み、これが素敵にいい。幸四郎の十兵衛も情味と肚(はら)に和実の味を見せ、自身の芸の本領を示す。孝太郎のお米も実力発揮。更に幸四郎が爽やかに踊る『高坏(たかつき)』、福助が復活への歩みを示す『雛(ひな)祭り』など、本来なら陽春3月にふさわしい舞台の華やぎであったろう。

国立劇場は立役への意欲を見せる菊之助が『義経千本桜』の知盛、権太、忠信(源九郎狐)の三役を本来なら2日がかりでつとめる注目の舞台。最適役は忠信で隙のない充実した舞台だが、目を瞠(みは)るのが知盛だ。重量級の役どころだが、菊之助は気品において先人を凌駕(りょうが)し、今後の持ち役としてわが物にした。権太も演技としては申し分ないが、いがみの権太より菊之助の顔が前に出るのは是非もないか。梅枝がお柳(典侍局)、弥助(維盛)、四段目の静と三役すべてに相手をつとめトリプルスリー、とりわけ典侍局が推奨物。米吉も娘役の大役お里で将来への足場を築いた。「吉野山」は義経を鴈治郎、静を時蔵とベテランが重みをつける。

両劇場とも好舞台が揃ったのはもちろん出演各優の好演によるものだが、無観客の舞台で一日限りの上演という異例の環境の中という緊張感も、画像を通してひしひしと感じられる。先の見えない状況の中、歌舞伎健在の姿を見られる日を願わずにいられない。

(演劇評論家 上村 以和於)

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