世界で猛威振るう新型コロナ 収束に向けた3つの課題

新型コロナウイルス感染症が全世界で猛威を振るっている。欧米だけでなくアフリカ大陸でも感染が拡大、1日当たり数千人が死亡する状況が続いている。新型コロナウイルス感染症はいつ、どのような形で収束に向かっていくのであろうか。現時点の情報に基づく分析を行った。
新型コロナウイルス感染症のまん延、課題は何か
新型コロナウイルス感染症の収束シナリオを論じる前に基本的な情報共有をし、なぜここまで感染が拡大し、世界中で猛威を振るっているのかを確認しておきたい。
まず挙げられるのはその感染力である。1人の感染者が新たに何人に感染させるかという「基本再生産数」が新型コロナウイルス感染症は1.4~2.5とされ、通常の季節性インフルエンザと同程度と考えられている。この数値は同じコロナウイルスによる重症急性呼吸器症候群(SARS)や中東呼吸器症候群(MERS)よりも高いが、麻疹(12~18)と比較すると、そこまで強くないように思われる。
しかし新型コロナウイルス感染症の厄介なところは、無症状・軽症の感染者が全体の8割程度いるとされており、そうした感染者からも感染する点だ。SARSやMERSでは行動力が低下した発症者からの感染が主であり、無症状・軽症の感染者が動き回って感染拡大することはまれであった。さらに、新型コロナウイルス感染症は症状発現の直前が感染力ピークを迎えているとのデータも報告されており、無症状・軽症の感染者によるウイルス伝播(でんぱ)が今の事態を招いたといえる。
加えて、高い重症化率・致死率を持っている点も問題を大きくしている。国ごとにばらつきはあるが、全世界平均でみると致死率は平均6.7%となっている(4月17日現在)。SARSの9.6%よりは若干低いものの、高い致死率である。また、糖尿病や慢性肺疾患などの基礎疾患をもつ人や高齢者の重症化率や致死率が高いことは当初から確認されていたが、基礎疾患がない若年層の重症化例・死亡例も確認されており、社会的不安を助長している。
このような性質を持つ新型コロナウイルス感染症だが、感染拡大による課題は大きく3つに分けられる。

医療資源が不足しやすい
1点目の課題としては、医療資源の不足が挙げられる。新型コロナウイルス感染症による肺炎が重症化した場合、呼吸困難に陥ることがある。そのため呼吸を補助する人工呼吸器や、肺の役割を代替する体外式膜型人工肺(ECMO=エクモ)が必要となってくる。重症患者が増加するに伴いこれらの機器もそれに対応した台数が必要になるが、爆発的な患者増加(オーバーシュート)が起こるとこれらの機器が不足する懸念が出てくる。
医療従事者の個人用防護具(PPE)についても同様だ。感染防止のために医師・看護師はマスク、ガウンなどのPPEを着用するのだが、PPEは新型コロナウイルス感染症患者を治療するたびに使い捨てが基本である。これらが不足してしまうと、医療従事者が感染のリスクにさらされることになり、治療に支障が出る。
医療機器や資材だけでなく人員も不足する。重症例は集中治療室(ICU)に入ることになるが、例えば通常の疾患ではICUにおいて患者2人に対し看護師1人で対応するところ、新型コロナウイルス感染症の場合は感染防御の観点から患者1人に対し看護師2人で対応することになり、通常疾患の約4倍必要になる。ECMOを扱う専門的な知識を持つ医師も必要だ。
医療資源が不足すると新型コロナウイルス感染症だけでなく、様々な傷病の治療ができなくなり医療が崩壊してしまう。そのため、医療資源の不足をいかにして防ぐか、各国政府は難しい対応を迫られている。
患者がどこにいるか分からない
2点目の課題としては、患者が可視化されていない点が挙げられる。前述のように新型コロナウイルス感染症は無症状・軽症者が8割程度いると推察されており、検査をしない限り全体の感染者数が見えない。
ただし、やみくもに検査対象を広げればいいわけではない。現在、感染の有無を調べるPCR検査に加えて抗体検査が開発されているが、十分なレベルで正しく診断できる検査方法はない。そのため、検査対象を選定しないと、感染していないのに陽性と判定する「偽陽性」が多く出てしまい、社会的混乱を拡大してしまう懸念がある。
また、基本再生産数を大きく超えた感染爆発を引き起こす「スーパースプレッダー」の存在も判明しており、感染経路が不明な感染者が急増して封じ込めなどの戦略が取れない状態になっている。
感染拡大を防ぐ方法が限られる
3点目の課題としては、感染拡大を防ぐ方法が限定的である点が挙げられる。現在世界各国で様々な治療薬・ワクチンが開発されているが、4月16日時点において、大規模臨床試験で有効性が証明された治療薬・ワクチンはない。
そのため、感染拡大の制御方法としては、外出規制などヒト・ヒト間の接触を制限するような対症療法的措置しか手段がない。例えば、中国においては厳しい外出禁止令が発令され、徹底的な監視の下で都市封鎖を実施し、強制的にウイルス感染の機会を断つ方法が選ばれた。個人のスマートフォンで健康管理・感染者追跡を実施し、感染の疑いがある人には外出許可を与えないなど、非常に強権的な措置が取られている。欧米諸国でも、中国ほどではないが都市封鎖や店舗封鎖を実施している他、国民に外出制限を課して違反者には罰金を科すなどの対策を行っている。
一方、日本においては外出を政府が制限することはできず、あくまで外出自粛要請という形での実施にとどまる。規制の程度は違うものの、外出規制は資本主義経済が前提としていた個人の自由な活動を阻害するため、経済へのインパクトが大きく、現在の社会システムにおいて永続的に続けられる策ではない。そのため、ワクチン開発などによる根本的な感染拡大制御策が求められている。
(アーサー・ディ・リトル・ジャパン プリンシパル 花村遼、同コンサルタント 田原健太朗)
[日経バイオテクオンライン 2020年4月27日掲載]
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