不条理な病 カミュの「ペスト」が描いた人間の誠実さ
疫病の文明論(2) 沼野充義(スラブ文学者)
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感染症の流行は今に始まったことではなく、古来人間社会を繰り返し襲っては大きな爪痕を残して現代に至っている。
古代ギリシャのトゥキュディデスによる『戦史』は、紀元前5世紀のペロポネソス戦争を扱った歴史書だが、ここにも、当時アテナイの町を襲って膨大な死者を出した疫病が詳細に記録されている。トゥキュディデスは医師でないが、いかにも歴史家らしく客観的に、感染した人々の症状を描き出す。罹病(りびょう)者が...
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