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3メガ銀、ESGシフト 物言うNGO株主を意識

編集委員 小平龍四郎

日本の大手銀行グループがESG(環境、社会、ガバナンス)を重視した投融資方針を競うように打ち出している。なぜ、このタイミングなのか。短期、中期、長期の3つの市場の時間軸で見ると背景がはっきり見えてくる。

NGO変貌 今や「物言う株主」に

メガバンクは相次ぎESG重視の姿勢を打ち出している

4月15日にみずほフィナンシャルグループ(FG)が「サステナビリティへの取り組み強化について」を公表し、石炭火力発電事業への新規融資をやめる方針を示した。翌16日は三井住友FGが「ESGに関するリスクの考え方について」のなかで、原則として新設石炭火力は支援しないと明言した。市場では三菱UFJFGも昨年5月につくった「MUFG環境・社会ポリシーフレームワーク」の見直しに動く、との観測が浮上している。

メガバンクがESG、特に「環境重視」の姿勢を競うように打ち出すのはなぜか。短期、中期、長期の3つの市場の時間軸で考えてみる。

短期的には、新型コロナウイルスの感染拡大が引き起こす市場の動乱で、環境問題を中心とするESGの重要性が高まっている背景がある。

コロナ危機のなかでもESG投資のうねりは止まらない。国際金融協会(IIF)によれば、ESG格付けなどに基づいて投資する株式上場投資信託(ETF)への資金流入額は、2020年1月~4月8日までに510億ドル(約5兆5000億円)と、すでに昨年1年間を30%ほど上回った。

企業の立場からすれば、ESG重視の姿勢はマネーをひきつけ、市場の乱高下を耐え抜く力を備えることにつながる。かねて日本のメガバンクは、温暖化ガスを排出する石炭火力発電事業向けの融資が多いと批判されてきた。ESG重視の流れがさらに強まれば、株式市場で一段と厳しい評価をくだされかねない。それだけに環境重視を打ち出すことはコロナに揺れる市場への有効なメッセージとなる。

もちろん、ESGを株価対策と矮小(わいしょう)化することはできない。ただ、環境問題をきっかけにメガバンクと市場との対話が深まれば、日本の銀行株の再評価にもつながる可能性はある。現にみずほFGの方針発表をきっかけに、欧州の資産運用会社のなかで3メガを再調査する動きがある。

メガバンクがESG重視の姿勢を強めるもう1つの背景は、市場参加者の顔ぶれが変わりつつあるという現実だ。具体的には非政府組織(NGO)や非営利団体(NPO)の存在感が、中期的に高まりそうだ。

米人権NGOヒューマン・ライツ・ウォッチの日本代表を務める土井香苗氏は「欧米では伝統的な機関投資家が環境や人権問題の実態について情報提供を求めてくる」と言う。投資家とNGO・NPOが連携する流れが日本に伝わるのは時間の問題だ。

石炭火力発電への投融資は環境破壊につながるとの認識が広がり始めている=ロイター

みずほFGは環境NPOの「気候ネットワーク」から、脱炭素に向けた方針を年次報告書で開示する定款変更の株主提案を受けている。気候ネットはみずほFG株を3万1000株保有する、れっきとした株主だ。どちらかと言えば市場の枠外にいると思われてきたNGO・NPOという存在が、ESG時代の「物言う株主」として立ちあらわれた格好だ。

新顔の言動はなかなかに手厳しい。三井住友FGの新方針の発表を受け、気候ネットを含む6つのNGO・NPOが「みずほの新方針と比べて低水準」とする共同声明を出した。新設の石炭火力への支援について、「超々臨界圧など環境へ配慮した技術を有する案件」への投融資が例外的に行われる可能性などを問題視している。

方針の表現の細かい点をついている観も否めないが、無視を決め込めば公の場で批判され、ブランドが毀損する恐れがある。過去にNGOと対立し、ネガティブキャンペーンを張られた経験を持つ大手米銀の担当者は邦銀への助言として「丁寧な粘り強い対話が欠かせない」と語る。三井住友FGは外部の声を参考の1つとして、石炭火力向け融資残高の削減などに向けさらに議論を進める。ESGの時代にあって銀行の投資家向け広報(IR)は変わっていかざるをえない。

緑の自己資本規制 欧州の遠謀

欧州に目を転じれば、銀行規制に環境の要素が入る可能性が浮上している。これが、メガバンクのESG重視を読み解く長期の視点だ。

コロナ危機の前から欧州連合(EU)は代替エネルギー投資を成長戦略の柱とする「グリーンディール」を掲げてきた。10年間で官民あわせ1兆ユーロ(110兆円強)の資金を必要とする壮大な構想だ。そのために、環境保護に資する事業・資産(グリーン)と環境破壊につながるもの(ブラウン)を分類する「タクソノミー」を開発。これを銀行の自己資本比率規制に取り入れ、投融資をグリーンに誘導する考えが浮上している。

欧州銀行監督機構(EBA)の行動計画によれば、22年から25年にかけて欧州委員会などにいくつかの報告書が提出される。最も注目すべきは自己資本比率規制の第1の柱へのESG要素の組み込みの是非だ。

ごく簡単に言えば、自己資本比率の分母計算で、グリーン資産への与信のリスクウエートを低くしたり、ブラウン与信の危険度を高く見積もったりする。規制上のグリーン・ブラウンの区別には、欧州連合(EU)が議論を進めるタクソノミーが当てはめられる。一般的に銀行は自己資本比率を高く維持したいので、グリーンを増やしブラウンを減らす行動に出ると予想される。今のところ石炭火力向け融資は「ブラウン」とされており、現状よりも高リスク資産と扱われる。規制を先取りするなら、該当する与信残高を早めに減らし始めておこうとするのも合理的な行動だ。

EBAが欧州委に検討結果を報告するのは25年であり、仮に実施されるとしても30年ごろの話になりそうだ。さらに、これは欧州の話だから日本に直接の関係はない。とはいえ、国際会計基準(IFRS)づくりの例からも分かるとおり、金融市場におけるEUのスタンダード設定力は侮りがたい。日本勢にとっても「投融資ポリシーに関連して、常に頭の隅で意識している動き」(邦銀のサステナビリティ関連部門幹部)であることは間違いない。

「みんなのESG」は日経ヴェリタスとの連動企画。世界的に関心が高まるESGについて、知っておきたい最新トレンド、投資マネーの動き、先進企業など様々な観点から取り上げます。
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