サムスンバイオ、時価総額国内3位に 「現代自」超え
受注増で「第4工場」建設へ

アジアBiz
2020/4/24 0:00
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バイオ医薬品の工場では、サムスングループの半導体工場で培ったクリーンルームの設計ノウハウが生きている(韓国仁川市)=サムスンバイオ提供

バイオ医薬品の工場では、サムスングループの半導体工場で培ったクリーンルームの設計ノウハウが生きている(韓国仁川市)=サムスンバイオ提供

【ソウル=細川幸太郎】バイオ医薬品受託生産大手の韓国サムスンバイオロジクスが急成長を見せている。世界の製薬大手からの受注に続き、今月には米有力ベンチャーから新型コロナウイルスの治療薬の受託生産で約400億円の大型受注を獲得した。株式市場全体が低迷するなか同社株は上場来最高値を更新。時価総額は韓国を代表する現代自動車を抜き、サムスン電子、SKハイニックスに続く国内3位の座につけた。

サムスンバイオは世界の製薬会社からの受注増を受け、このほど首都ソウルに近い仁川(インチョン)市に新工場「第4工場」の建設を決めた。米企業からの大型受注で、1年前倒しで生産能力の拡大に動いた。生産能力は培養タンク容量で20万リットル規模。投資額は1000億円程度の見込み。これで生産能力は50万リットルを超え、競合のスイスのロンザやドイツのベーリンガーインゲルハイムを大きく引き離す。

新工場建設前倒しを決定づけたのは、米創薬ベンチャー「Virバイオテクノロジー」からの3億6000万ドル(約390億円)の受注だ。同社には米マイクロソフト創業者のビル・ゲイツ氏の財団、ソフトバンクグループなどが出資。有望企業として知られ、感染症薬開発に特化しているのが特徴だ。サムスンバイオはそこから過去最大の受注を取り付けた。

契約条件も、前例のないものだった。Vir社が開発するコロナ治療薬は、現段階ではまだ米食品医薬品局(FDA)の承認手続きの最中にある。ただ、契約では仮に当局からコロナ治療薬としての承認が得られなくても「契約金を無条件で支払う」という条項が盛り込まれた。

もっとも、トランプ米大統領のコロナ対応の号令のもと、同治療薬は早期承認が可能な特例制度の対象薬になっている。年内に人に投与する臨床実験に入り、来年、量産に移行する計画だ。

こうした状況にあるのだが、Vir社側があえて「契約金を無条件で支払う」との破格の条件を今回の契約に盛り込んだのには理由がある。「いち早く治療薬を患者に届けるには、国の承認手続きと同時並行で工場での量産準備を進める必要がある」(同社)ためだ。

有効成分が、たんぱく質や生物由来のバイオ医薬品は、品質を安定させながら量産するのが特に難しい。製薬会社と受託生産企業の双方で培養技術を擦り合わせる準備作業には時間がかかる。容易ではないが、Vir社のジョージ・スキャンゴス最高経営責任者(CEO)は「高い生産能力を有するサムスンバイオなら素早く生産量を高めていける」と評価した。

契約金額の390億円は、サムスンバイオの19年の年間売上高の6割にあたる。好条件でコロナ治療薬の量産を獲得したことで同社株価は急騰。契約を発表した10日終値は前日比で16.8%上昇し、上場来最高値を2年ぶりに更新した。

業績も好調だ。20日発表の1~3月期売上高は、前年同期比65%増の2072億ウォン(約180億円)、純利益は390億ウォンと前年同期の380億ウォンの赤字から黒字に転換した。時価総額も38兆ウォン(約3兆3000億円)に達し、売上高で150倍の現代自を抜いた。

サムスンバイオロジクスは、バイオ医薬品の生産能力で世界一の規模を誇る(韓国仁川市の工場)=同社提供

サムスンバイオロジクスは、バイオ医薬品の生産能力で世界一の規模を誇る(韓国仁川市の工場)=同社提供

新薬の開発・生産コストが巨額化するバイオ医薬品の分野では、製薬会社は開発に特化し、生産は外部に委託する流れが強まっている。これは、サムスングループの中核であるサムスン電子が得意な半導体業界で「設計開発」と「受託生産」で、それぞれに特化した企業が大きく成長した構図によく似ている。

半導体業界の「受託生産」では世界の過半のシェアを握る巨大企業の台湾積体電路製造(TSMC)が誕生した。まさにサムスンバイオは、バイオ医薬品の「受託生産」で、TSMCのポジション取りを狙う。

長期的な視点での果敢な投資、これは半導体やディスプレーで、世界首位に駆け上がったサムスン電子の「成功方程式」でもある。さらにバイオ医薬品の生産には、サムスン電子が半導体で培った高度なクリーンルームの設計ノウハウの活用など、グループ力も生かせる。

付加価値を高めるため今後、培養技術の上流工程にも踏み込む。今夏をメドに米カリフォルニア州に研究拠点を開設。Vir社のような有力な創薬ベンチャーとの提携を進め、さらなる受注増につなげる狙いだ。

 「10年で既存事業の大部分はなくなる」。サムスングループの創業家2代目の李健熙(イ・ゴンヒ)サムスン電子会長はこう訴え、社内に危機感を植え付けてきた。かつて仰ぎ見た日本の電機大手の衰退を子細に分析し、事業の新陳代謝の必要性を説いた。
 半導体やスマートフォンなど多くの世界首位の事業を抱えるサムスングループにとっても新規事業の育成は常に課題だった。そこで2010年、李会長が「次代の柱」にバイオ医薬品、太陽電池、車載電池、発光ダイオード(LED)、医療機器の新規5分野を掲げた。その中から10年の時を経て、ようやく花開いたのがサムスンバイオだ。
 そして今、3代目の李在鎔(イ・ジェヨン)副会長はバイオ医薬品とともに次世代通信網「5G」と人工知能(AI)、車載部品の4分野を「未来成長事業」に据える。自ら陣頭指揮を執り、売上高20兆円の巨大グループの次の成長エンジンを育てていく考えだ。
 ただ成長軌道に乗ったサムスンバイオにも、韓国特有の政治リスクが影をさす。15年のグループ内再編の際、創業家に有利になるように当時非上場だったサムスンバイオ株の価値を過大評価したとして、捜査当局は問題視した。そして現政権の財閥改革の号令のもと捜査が始まり、粉飾に関わる裁判はサムスンバイオの現在の成長とは別問題だが、長期化している。
 医薬品業界はコンプライアンスを特に重視する傾向にある。思わぬ形で足をすくわれる可能性も否定はできない。
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