小野美由紀 ジェンダー主題のSF短編集「ピュア」刊行

女たちが身長2メートルの強い身体を持ち、男を捕食することで子孫を残す。突拍子もない設定の表題作をはじめとするSF短編集「ピュア」(早川書房)を、文筆家の小野美由紀が発表した。「想像力を手掛かりに、一人の女性の生き方を描いた」と話す。
男女の肉体的な力関係が逆転し、あらゆる面で女が優位を得た世界では、為政者も戦場に向かうのも女。しかしそこに生きる少女たちが口にする言葉は、現代の女性が抱える悩みと重なり合う。いわく「なんで女が全部やんなきゃいけないのよ」。
「子どもを産み、育て、家事をし、いいお母さんでありながら女性としても魅力的で、仕事をして……。女性が負う役割の多さ、しんどさは今の世の中と変わらない」と小野。エッセー「傷口から人生。」や青春小説「メゾン刻の湯」など、これまで発表した作品からはSFの作風を想像しにくかった書き手だが「生きづらさ」を見つめるまなざしはすべてに通底している。
実は表題作こそが、4年前に初めて執筆した小説だという。文学賞に落選し、知り合いの編集者からも酷評された物語が、早川書房の投稿プラットフォーム「note」に2019年に掲載されると、20万ページビューという歴代1位のアクセスを得た。「チョ・ナムジュ『82年生まれ、キム・ジヨン』からの、フェミニズム文学の潮流とうまく重なった」としたうえで「はじめの4ページで世界観を示し、読者の心をつかむ書き方をしている」と自信を示す。その腕は「漫画っ子だったので、自然に身についた」。
女性同士の絆や性転換をテーマにした作品など、紋切り型のジェンダー観を揺さぶる5作品を収録。「ネットで表題作を読んだ読者も、全作を通じての世界にぜひ耽溺(たんでき)してほしい」と力を込めた。
(桂星子)