強まる偏見、感染防止の妨げに 専門家「敵はウイルス」

2020/4/22 10:50
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差別の撤廃を呼びかける日本赤十字社のガイド

差別の撤廃を呼びかける日本赤十字社のガイド

新型コロナウイルスの感染拡大が続く中、感染者に対する根拠のない偏見や中傷が広がっている。不安感が原因とみられ、インターネット上で個人を特定しようとする動きもある。しかし、強まる差別を恐れるあまり、感染の可能性があっても隠すことにつながりかねない。専門家は「感染防止の妨げになる。敵は感染者ではなくウイルスだ」と訴える。

「正直驚きもし、大変憤りも感じた」。赤羽一嘉国土交通相は14日の閣議後記者会見で語気を強めた。愛媛県内のある小学校が4月上旬、新型コロナの感染拡大地域を往来するトラック運転手の子どもに自宅待機を求めていたためだ。

文部科学省は16日付で通知を出し、社会機能を維持するために働く人や家族への差別や偏見を防ぐよう都道府県教育委員会などに求めた。通知は医療や物流、交通分野などの職業を想定し、差別や偏見につながる行為は「不適切で、あってはならない」と指摘した。

「感染者の行動履歴を教えろ」。学生らの間で集団感染が起きた京都産業大(京都市)は抗議や中傷に悩まされた。感染発覚を受けて同大学が記者会見した3月29日からの1週間で寄せられたメールや電話は数百件。「大学に火をつける」「学生を殺す」など過激な内容もあった。

同大学では、3月中旬に欧州の卒業旅行から帰国した学生らが出席したゼミの懇親会などで感染が広がった。旅行は国の渡航制限の前だったが、ツイッターなどのSNS(交流サイト)に学生や大学の管理体制を非難する投稿が相次いだ。大学関係者の子どもが保育園から登園を拒否されるケースもあったという。

大学側は早くから感染防止を呼びかけ、3月初めに学生に対して大勢が集まるイベントの中止も要請していた。同大学の担当者は「拡大防止が最優先と考え、感染を積極的に公表してきた。中傷行為に学生も職員も心を痛めている」と訴える。

感染者がいるという嘘の情報が拡散され、実害を生んだケースもある。

茨城県神栖市の飲食店をめぐって3月末ごろ、「感染者が店に立ち寄り休業している」という嘘がSNS上で流された。「従業員も感染した」「保健所が消毒にきた」などと噂が拡散。店に問い合わせが相次ぎ、予約キャンセルが殺到した。事実ではなかったが、店は休業に追い込まれ、経営者の男性(50)は「内容が正しいか、店名を特定する必要があったか、よく考えてほしかった」とうなだれる。

「病気が不安を呼び、不安が差別を生み、差別がさらなる病気の拡散につながります」。日本赤十字社は3月下旬、新型コロナが生み出す「負の連鎖」を断ち切るためのガイドを作成し、差別を撤廃することの重要性を指摘した。

不安や恐怖に振り回されないため、▽自分自身の感情などを客観的に見つめ直す▽ウイルスに関する情報から距離を置く時間を作る▽趣味の時間や親しい人との交流を保つ――などを提案した。

作成に関わった日赤災害医療統括監の丸山嘉一医師は「敵は感染者ではなくウイルス。感染者を差別して遠ざけ一時的な安心を得ても、結果的に患者が感染を隠すきっかけになりかねず、感染拡大防止の妨げにもなる」と警鐘を鳴らす。

2009年の新型インフルエンザ流行時も感染者への中傷は相次いだ。東京女子大の広瀬弘忠名誉教授(災害・リスク心理学)によると、感染症への偏見は歴史的に根深く、過去にも患者の勤め先などが発覚し、集団パニックになった事例があるという。

広瀬教授は「感染者の自宅や勤務先などの個人情報は近しい関係者以外、直接関係ない」と指摘。「大切なのは一人ひとりが不要な外出をしないなどの予防策を徹底し、噂などに過度に反応せず冷静に対応することだ」と求めた。

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