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メルカリ、「脱・印鑑宣言」から10日で見えた課題

日経ビジネス電子版

「電子署名サービスでの契約締結に切り替えていく方針を決定いたしました」

フリマアプリのメルカリと子会社のメルペイ(東京・港)は4月8日、取引先など社外との契約で印鑑による押印ではなく、電子署名サービスを導入していく方針を示した。新型コロナウイルスの感染防止で完全在宅勤務体制を整備するうえで不可欠だったのが、印鑑の廃止だ。脱・印鑑宣言から約10日で、取引先や現場からはいろいろな声が上がってきているという。見えてきた課題とは――。

IT(情報技術)企業の雄として多数のエンジニアを抱えるメルカリ。社内の決済などはほとんど電子化していたため、在宅勤務への移行はスムーズに進んでいた。だが、取引先との契約では「9割以上が紙のものだった」とメルカリの櫻井由章・執行役員CLO(最高法務責任者)は打ち明ける。

メルカリでは2月途中から原則在宅勤務としていたが、櫻井氏をはじめとする約10人の法務担当社員は3月末まで、契約などでの押印のためにローテーションでの出社を余儀なくされていた。緊急事態宣言発令もあって完全在宅勤務へと移行する中で会社として社外に示したのが、電子署名による契約締結の方針だ。

脱・印鑑の宣言後は、「取引先からポジティブな反響が多い」(大坪くるみ・法務部マネージャー)という。契約の押印のために出社を余儀なくされた社員は取引先にもいる。電子署名によってそれがなくなり、歓迎する声が多かった。

一方で、課題も見えてきたという。現場からあがってくる声で最も多いのが、電子署名サービスを導入していない取引先への対応だ。

電子署名サービスは、契約する片方の企業だけが導入しても意味がない。契約する企業がそれぞれ導入する必要がある。「当社だけ契約は電子署名で」とはできないのだ。

理解のある取引先や、先進的に電子署名サービスを導入している企業であれば話は早いが、まだ未導入の企業や団体では契約自体が膠着してしまいがちだという。

これまでサービスを使ったことがない企業からすれば、電子署名は未知のものという印象が強い。法的効力の有無や導入に向けてどれくらいのコストが発生するかも分からない。電子署名のスキームがなく、「一度持ち帰る」として先方の担当者が社内で検討するための時間がかかるなど、かえって契約までの期間を長期化してしまう負の側面も出ている。

電子署名でも契約の証拠としての効力はある。だが新しいサービスのため、裁判所でその効力の有無を争った判例がなく、企業の法務担当者が導入に慎重になるケースも少なくない。取引先企業の社内調整にどうしても時間がかかってしまうのだ。

ただ、電子化の波は着実に進んでいる。企業が従業員との雇用契約時に必要な「労働条件通知書」は従来、書面で交付する義務があったが、19年4月に電子化が可能になるなど、規制緩和が続く。不動産賃貸での「重要事項説明書」などごく一部の書類は消費者(弱者)保護の観点から書面での交付が義務付けられているが、多くは電子署名でも問題ないとされる。

「歴史のある企業や大企業、金融機関など印鑑文化が長きにわたって続く企業や団体においては、導入のハードルが高そう」とメルカリの櫻井氏はみる。取引相手が自社よりも大きな企業だったり、発注主だったりすると、発言力の強弱が生まれて取引先に導入を強く言えない部分もある。こうした点も脱・印鑑を遅らせる要因になりそうだ。

メルカリは取引先に向けて電子署名を強制はしない。ただ、導入で得られるメリットをまとめた資料を作成するなど、導入を促す策を取る。

例えば、紙の契約書の場合、内容によって収入印紙による「印紙税」が発生するが、電子契約ではそれが不要となりコスト削減ができる(電子署名サービスの利用料は発生する)。また、従来は製本して双方に送って押印して保管するなど手間がかかっていたが、製本や発送はなくなるうえに保管する場所も不要になるため時間や場所の節約につながる。メルカリはこうした利点を丁寧に説明することで、契約の電子化を促す構えだ。

15日にはGMOインターネットの熊谷正寿会長兼社長がグループでの印鑑廃止を宣言し、サイバーエージェントの藤田晋社長が同意する発言で応じるなど、IT企業を中心に脱・印鑑の輪は広がりつつある。

新型コロナウイルスの感染拡大は人類や経済に大きな打撃を与える。一方で、これまで見直されることなく続いた企業の慣習や仕事のフローを改める気づきにもなっている。コロナショックを企業の改革に結び付けられるか。withコロナを生き抜き、アフターコロナで勝つためには、経営者の判断力と実行力が問われる。

(日経ビジネス 白壁達久)

[日経ビジネス電子版 2020年4月20日の記事を再構成]

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