国立競技場の抜本改装、東京五輪延期の間に議論すべし
ドーム 安田秀一CEO

日経ビジネス
2020/4/22 2:00
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安田秀一(やすだ・しゅういち)氏。ドーム代表取締役CEO。1969年東京生まれ。92年法政大文学部卒、三菱商事に入社。96年退社し、ドーム創業。98年に米アンダーアーマーと日本の総代理店契約を結んだ。現在はドーム代表取締役CEO。アメリカンフットボールは法政二高時代から始め、キャプテンとして同校を全国ベスト8に導く。大学時代は大学全日本選抜チームの主将も経験。2016年から18年春まで法政大アメフト部の監督(後に総監督)。スポーツ庁の「日本版NCAA創設に向けた学産官連携協議会」の委員を務めたほか、筑波大の客員教授として同大の運動部改革にも携わる(写真提供:ドーム)

安田秀一(やすだ・しゅういち)氏。ドーム代表取締役CEO。1969年東京生まれ。92年法政大文学部卒、三菱商事に入社。96年退社し、ドーム創業。98年に米アンダーアーマーと日本の総代理店契約を結んだ。現在はドーム代表取締役CEO。アメリカンフットボールは法政二高時代から始め、キャプテンとして同校を全国ベスト8に導く。大学時代は大学全日本選抜チームの主将も経験。2016年から18年春まで法政大アメフト部の監督(後に総監督)。スポーツ庁の「日本版NCAA創設に向けた学産官連携協議会」の委員を務めたほか、筑波大の客員教授として同大の運動部改革にも携わる(写真提供:ドーム)

日経ビジネス電子版

新型コロナウイルスの世界的な感染拡大によって、東京五輪・パラリンピックの開催が1年延期された。スポーツ観戦やライブなど人が集まるイベントは、事態の収束が見えるまで難しい状況だ。この停滞を奇貨に「日本は競技場の有効活用を真剣に考えるべきだ」と唱える人物がいる。スポーツブランドとして認知度の高い米アンダーアーマー社の日本総代理店を務めるドーム(東京・江東)の安田秀一最高経営責任者(CEO)だ。日本のプロ・アマチュアスポーツ界に豊富な人脈を持つ同氏は、故ザハ・ハディド氏の設計による新国立競技場の旧整備計画が進む中、「新国立競技場を五輪後に改修して読売ジャイアンツを誘致する」との計画を政府関係者に説いて回った。これからの日本に必要なスポーツ施設の在り方について安田CEOに聞いた。

――以前から東京五輪・パラリンピックの競技場について、「開催後の利用を考えていない」と批判的な意見を述べてきた。新型コロナウイルスの影響で五輪開催が延期されたが、改めて競技場をどのように活用すればよいと考えるか。

残念ながら、完成した五輪競技場の多くは「威厳を示すためのオブジェ」になっている。これでは発展途上国型のプロジェクトだ。例えば、国立競技場は「単なる巨大な陸上競技場」だ。約7万人のキャパシティーを埋めるような陸上イベントはほとんどない。東京五輪に間に合うよう急いで建設を進めたため、開催後にどう利用するかの仕掛けがない。

国立競技場の年間維持費用は約24億円となる。約1529億円の建設費を50年で減価償却する想定では、年間の経費が50億円ほどになる。しかし、コンサートなどでの利用が難しいため、稼働率が上げづらい構造になっている。つまり、稼げない施設なのだ。プロジェクトのために一生懸命に頑張った人たちの気分を害するのは分かっているが、明確な失敗だろう。私は新型コロナウイルスによる東京五輪の延期を、「本当にこんな施設をつくってよかったのか」と考え直すきっかけにすべきだと考える。

経済合理性の観点から思考すれば、国立競技場は解体に近い抜本的な改装が必要だ。せっかく建てたが、赤字を垂れ流すほうがもったいない。日本ならば最新技術を用いて本当に機能的な施設をつくれるし、それこそがレガシーになると信じている。

――なぜ日本の競技施設は世界と比較して機能性に乏しくなってしまうのか。

日本はこれまでピークに照準を合わせた建設計画を進めてきた。人口が増え続けるフェーズでは機能する考え方だが、人口構成が変化してきた今日では通用しない。五輪という観客数のピークを目指して過剰な設備投資したから後に余ってしまう。これは民間事業も同じで、海外からの旅行客の増加に合わせてタクシー事業者がこぞって投資をしたから、コロナ禍を受けてドライバーを大量解雇する必要に迫られる。世界では一時的なピークにシェアリングで対応している。米ウーバー・テクノロジーズが運営する自動車配車サービスのウーバーなどがそれだ。シェアリングエコノミーを促進する規制緩和でピークに対応するのが世界の常識だ。

サッカーのドイツ・ブンデスリーガは売り上げ規模が5000億円超の巨大リーグだが、発展のきっかけは2006年に同国で開催されたワールドカップ(W杯)だった。ドイツサッカーリーグ機構は00年にW杯の自国開催が決まってから、老朽化した陸上競技場の改修計画を立案した。カスタマー・エクスペリエンスを最上位価値として、VIP用スイートルーム設置や魅力ある飲食店の充実を図り、収益増加を実現するスタジアム改革を断行した。日本はどうか? 08年北京五輪のメイン会場で、大会後ほとんど使われなくなった北京国家体育場(通称・鳥の巣)と同じようなものをつくってしまっているのではないか。

■アトランタ五輪に開発のヒントあり

――日本が参考とするような海外の開発手法の事例はあるか。

ザハ・ハディド案の新国立競技場整備計画が進行していた時、10人ほどの閣僚に会って提言したのが「アトランタ五輪方式」の競技場整備だった。1996年開催のアトランタ五輪では、メイン会場となった「センテニアル・オリンピックスタジアム」を野球場に改修して、メジャーリーグ、アトランタ・ブレーブスのスタジアムに改修した。競技場の建設前からアトランタ市と球団、大会組織委員会が協議して五輪後の利用方法を決め、陸上競技場なのにフィールドの一部が観客席側にせり出した設計にしていた。このせり出し部分は後に野球場の内野グラウンドに改修された。見た目より機能を重視した計画だった。

米国では多くのスタジアムが機能性を追求している。「いかにもうけるか」を主眼に、動線計画や飲食スペースを配置している。だから競技場はオブジェではなく、人を引き寄せる施設となる。

国立競技場の立地は破格だ。世界的大都市のど真ん中にあり、もうかるに決まっている奇跡の立地と言える。建ててしまったスタジアムを十分に活用することもままならず、置いておくだけにするのは非常にもったいない話だ。

負の遺産にしないために、例えば、ショッピングセンターやホテルなどを併設して複合商業施設にすれば莫大な経済効果が期待できる。プロスポーツチームを誘致して収益を上げるほか、ネーミングライツやスタジアム内の広告でも稼ぐ。オフシーズンには大型のコンサートやイベントを開催する。

騒音の問題などを解消するため屋根をつけてドームスタジアムに作り替える必要があるなど、抜本的な改装には追加費用がかかる。だが、毎年十億円単位の赤字を垂れ流し続けるような事態を回避し、稼げる施設とするために、五輪延期によって生まれた1年間という時間を使って議論を深めるべきだ。

――著書「スポーツ立国論」では、「米国のスポーツ産業の市場規模が約60兆円、一方で日本は約4兆円にとどまる」と指摘している。日本市場は伸び代があるとも言えるが、どのような改革が必要と考えるか。

日本は規模を追う国ではなくなったと認識を改める必要がある。内需を維持するために建設と政治が結託してハコモノをつくる時代は終わった。変わって必要になるのがサステナビリティ(持続可能性)だろう。本来、競技場は五輪のための短期的な目標で建設してはいけない。長期的な視点から国に利益のあるものをつくる。それにはソフト主導の競技場計画が欠かせない。米国では興行主であるスポーツチームが競技場を整備する。観客の満足度を最大に高める機能を追求して収益を最大化できる施設にしなければならない。

日本でも日本野球機構(NPB)で改革が進んでいる。球団がスタジアムを所有して運営する一体経営が増えてきた。パ・リーグの福岡ソフトバンク・ホークスや埼玉西武ライオンズなどが一体経営を実現している。セ・リーグでは広島東洋カープが09年に開場した広島市民球場「MAZDA Zoom-Zoom スタジアム広島」を活用して収益を上げている。

五輪を1年延期しなければならなくなったことで、ここで日本のサステナビリティを考える機会としてはどうか。本当に私たちが必要とするものは何なのか。「そもそも」を問い直すきっかけになればと思う。

(日経ビジネス 江村英哲)

[日経ビジネス電子版 2020年4月20日の記事を再構成]

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