給付金10万円の使われ方は? 家計に忍び寄る劣化
知っ得 お金のトリセツ(6)

お金のトリセツ
コラム
2020/4/21 2:00
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2009年には一律1万2000円の定額給付金が配られた

2009年には一律1万2000円の定額給付金が配られた

朝令暮改の末、国民一人ひとりに10万円が配られることになった新型コロナウイルス緊急対策。10万円は大きな額だが価値は相対的なもの。「私の友人に聞くと『我々はもらっちゃいかん』と言う人はいる」と自己申告制を説く、ザ・富裕層の財務大臣もいれば、今日を生き延びるためにどうしても10万円が必要な人も少なくない。昭和の「一億総中流」は今は昔。はるかに多様化しながら、方向としては貧しくなっているのが令和ニッポンの家計だ。リーマン・ショック後の緊急対策として2009年に配られた前回の定額給付金から11年――。確実に姿を変えた家計を捉える視点が必要だ。

■前回の轍(てつ)とは…

「あれは失敗だった。同じことをやったら学習効果がないと言われる」。どんでん返しの末、一律10万円支給で決着した給付金だが、一度はターゲットを絞った所得制限付きに決まっていた。迷走原因の一つが麻生太郎財務相の"反省"だ。

「あれ」とは、自身の首相時代に実施した総額2兆円に及ぶ定額給付金。住民基本台帳などを基に新生児や外国人も含む個人に、原則1人一律1万2000円(65歳以上と18歳以下は2万円)を09年の3月から5月にかけて配った。リーマン・ショックを受けた不況で日比谷公園に「年越し派遣村」ができるなど困窮者があふれたことへの対応だった。

ところが困窮者には不十分な額の上、配られた給付金の多くが貯蓄に回り景気浮揚効果にも乏しかった、というのが反省理由だ。

確かに内閣府のリポート「定額給付金は家計消費にどのような影響を及ぼしたか」によると、消費の押し上げ効果はおよそ25%。1万2000円のうち3000円しか使わず、残り9000円は貯蓄されたイメージだ。財政政策の効果を計るモノサシが、政府支出がどれだけ最終需要を押し上げたかという「乗数効果」にあるとすると、3割弱しか経済活動に回らなかったのでは費用対効果からして失敗という評価だ。

■消費は二の次 まずは生活保障

反省を基に所得減少世帯に限った給付金を主導した麻生氏と財務省だったが、噴出する不満を前に撤回に追い込まれた。見誤ったのは前回の09年とは違う「2つの切迫度」だ。

1つ目の切迫度は当然、新型コロナの感染拡大という未曽有の事態。ワクチンが開発されるまでは、「自ら経済活動を停止させるというコロナ版ディスインターミディエーション(仲介機能中断)」(岡三証券グローバル・リサーチ・センターの高田創理事長)が唯一の対処法である以上、消費刺激は二の次三の次。最初から目の前の収入が蒸発した人に対する迅速な生活保障に特化して制度設計すべきだった。

■雇用、貯蓄……増す家計の切迫度

実際、安全網で守られた正社員を中心とする働き方は姿を変えている。非正規雇用者の割合は昭和には1割台だったが、昨年には38.3%と4割近くに上昇。09年(33.7%)以降でみても5ポイント近く上がった。特に今回苦境に立つ小売業や外食では非正規雇用者が多い。

給付金をもらっても使わずためるだけ、とされた貯蓄はどうか? 1世帯あたりの平均貯蓄高は18年に1752万円(総務省「家計調査」)。多額にみえるが平均なので一部富裕層の影響が大きい。より実態を表す、真ん中に位置する人の中央値では1036万円とガクンと減る。ただ、これでも「貯蓄ゼロ」の人を含まない。その数は結構多い。

金融広報中央委員会の「家計の金融行動に関する世論調査」によると、タンス預金などは別として「金融資産を保有していない」と答えた割合は、2人以上の世帯で24%弱とほぼ4人に1人。単身世帯では4割近くに達する。この割合も09年から8ポイント以上上昇している。

■不要不急マネーの還流を

さて今回、10万円はどう使われるか。BNPパリバ証券の河野龍太郎チーフエコノミストは、貯蓄に回る割合を「今回は経済的打撃を受ける人が09年当時より広範囲にわたることを考慮して4割程度」とみる。

経済システムに回るお金は前回より増えるかもしれない。だが、それは過去11年で進んだ家計の劣化の映し鏡でもある。

バラマキに終始する余裕はもう、この国にはない。10万円が不要不急と感じられる余裕のある家計から、本当に必要とする家計へと還流を促すシステムづくりが欠かせない。幸い11年前には本格稼働していなかった「ふるさと納税」やクラウドファンディングの仕組みがある。官民で知恵を絞る時だ。

山本由里(やまもと・ゆり)


1993年日本経済新聞社入社。証券部、テレビ東京、日経ヴェリタスなど「お金周り」の担当が長い。2020年1月からマネー編集センターのマネー・エディター。「1円単位の節約から1兆円単位のマーケットまで」をキャッチフレーズに幅広くカバーする。

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