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「皆がサバイブ」原則に コロナ禍、痛み分かち合う

スポーツコンサルタント 杉原海太

新型コロナウイルスの感染拡大で日常の活動が厳しく制限される日々が続く。スポーツ界も例外ではなく、最大の商品である、あらゆる競技の試合が世界的規模で開催できていない。こんな事態は第2次世界大戦後、おそらく初めてのことだろう。

天変地異も日常に大きな打撃を与えるけれど、被害の大きさが確定した段階である程度、先の見通しは立つ。新型コロナ禍は今のところ終息の時期も形も不透明なまま。そういう中で、アスリートたちが動画配信などを通じて「今、できること」を懸命に人々に訴えかける姿は尊敬に値すると思う。

吉田麻也ら著名選手たちは動画で独自の情報を発信している=共同

国際サッカー連盟(FIFA)は加盟する国・地域の協会に対し、新型コロナ対策に関するレターを4月7日付で送付した。

送り主はファトマ・サムラFIFA事務総長で、「CC」として各大陸連盟、国際プロサッカー選手会(FIFPRO)、欧州クラブ協会(ECA)、ワールドリーグス・フォーラム(WLF)といったステークホルダー(利害関係者)の名前が併記されている。この難局を各国・地域の協会が医学の専門家やステークホルダーと協力しながら乗り越えていくことを訴える内容だった。

アジアサッカー連盟(AFC)で8年間働き、FIFAと6年間ともに仕事をした私からすると、FIFAからこんなレターが"連名"で送られることに感慨を覚える。かつては、もう少しトップダウン色が強い意思決定スタイルであったからだ。

対話で解決探る機運に期待

新型コロナ対策は独力でどうこうできる問題ではないことはもちろんあるが、現実問題として、ステークホルダーの利害・損得が複雑に絡み合う現在のスポーツ界では、独立独歩で何かを決めるなど不可能であることも反映したものなのだろう。

実際、レターではFIFAが3月26日から4月2日までステークホルダーの代表者とビデオ会議を持ったことが記されている。そこでシーズンの再開も終わりのメドも立たない状況に追い込まれた選手、クラブ、リーグが今後直面するであろう問題と救済策が話し合われた。FIFAはこの後、選手の契約や移籍に今季は柔軟に対応する新たな指針を打ち出したが、これもステークホルダーとの対話を受けたものだろう。

インファンティノ氏が会長を務める現在のFIFAはトップダウン色が薄まっている=ロイター

日本のスポーツ界でも、今回の未曽有の事態を前にして期待できることがあるとすれば、いろいろなステークホルダーが寄り合い、対話を重ねて解決を探る機運が盛り上がることである。日本プロ野球機構(NPB)とJリーグが協働で新型コロナ対策の会合を持つようになったのはその好例だろう。こういう対話の輪をもっともっとあちこちに広げられたらと願う。

というのも、今は人命最優先でお金の話はしにくいけれど、このままでは経営の危機にひんするクラブも出てくるだろう。それは選手、スタッフ、社員の雇用を直撃する。「貧すれば鈍す」ということもまた間接的に人命に関わる問題になってくる。そうなると痛みなしに終わらせるのは難しく、どこかのタイミングで、どう痛みを分け合うかという話が大きなテーマになるはずだ。

強欲な者同士がプラスをシェアするのは難しいが、マイナスのシェアリングは損の押しつけ合いになってそれ以上に難しい。これを対話を経ずに「つぶれるものは仕方ない」「プロ選手なんだから解雇は当たり前」などと乱暴に進めたら一大事になるだろう。

Jリーグはプロ野球とともに「新型コロナウイルス対策連絡会議」を重ねている(代表撮影)=共同

対話の際には基本方針、基本原則という軸がないと議論は前に進まない。最初から「How to」に走ると、まとまるものもまとまらない。今回でいえば、原理原則は「皆がサバイブする」ということだろう。「全員で生き残る」という覚悟を前提にして対策を練る。言い方を変えれば、特定のステークホルダーだけが満足するような解決策でないことが基本になる。

試合ができないと収入源は細る。苦しいのは放映権料を払うメディア企業やスポンサーフィーを払う企業も同じ。意地悪をしてクラブやリーグへの資金を止めるわけではない。それを踏まえて、リーグ、クラブ、選手、スタッフ、社員、放送会社、スポンサー企業、代理店、ファン、サポーターが対話の機会を持ち、痛みを分け合いながら生き残りの道を探るしかない。

関係者の多い五輪の調整は至難

対話と交渉、そして調整には根源的な難しさがある。「言うは易く行うは難し」の典型というか。対話では柔らかさ、傾聴がマストになる。しかし、原理原則を明確にし、それに基づく方向性に導くのは柔らかいだけでは難しい。日本人の強みとも言える空気を読む能力は、対話の段階では大変有効だが、交渉に移ると空気を読み過ぎ、相手の立場をおもんばかり過ぎて、自分たちの事情を十分に主張できなかったり、最終的に、決まったことにただ従うだけになりがちな側面もある。

国際レベルの対話はステークホルダーが格段に増えるから難易度はさらに上がる。その最たる例が1年の延期が決まった東京五輪・パラリンピックだろう。想像を絶する作業がこの後、待ち受けているように思う。スポーツ界内部だけではなく、外部の多岐にわたるステークホルダーとの対話も要するからだ。

首都東京でやることで経済へのインパクトを期待する日本の政財界、ビジネスパートナーも国際オリンピック委員会(IOC)、大会組織員会、各競技団体にそれぞれついていて、莫大な放送権料を支払う米国のテレビ局の思惑も絡んでくる。ステークホルダーの入り乱れ具合も世界のトップイベントにふさわしく、加えて日本国民の立場も一様ではない。延期による莫大な費用が最終的に税金でまかなわれるとなれば、日本国民全員が立派なステークホルダーといえる。

スポーツの外と中で利害が複雑に入り組む中、対話と交渉と調整を、この新型コロナ禍の下で1年で本当に可能なのか。真剣に心配している。

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