コロナがもたらす米中対立の新局面 日本にはプラスも?
エミン・ユルマズの未来観測

日経マネー連載
2020/5/2 2:00
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混迷を深める世界経済や国際秩序。時代の先を読み解くヒントを、トルコ出身のエコノミスト、エミン・ユルマズ氏が独自の視点から解説する。

■都市封鎖による経済打撃は長期化

新型コロナウイルスの感染拡大が世界経済に影響を及ぼしつつあります。欧米では都市封鎖(ロックダウン)の解除に向けた動きが出ているものの、封鎖に伴う経済への打撃から回復するだけでも半年は必要でしょう。本格的な収束は特効薬かワクチンの開発と普及を待たねばならず、どんなに早くても1年はかかるとみています。

そして、新型コロナが収束したとしても、世界は大きくその形を変えざるを得ないでしょう。米国と中国との対立という「新冷戦構造」が、コロナショックを機に決定的な対立へと深刻化する可能性があるからです。

■欧米で高まる反中感情の行方

米国の中国に対する反発は強まっています。ある米調査会社の調査結果では、新型コロナの感染拡大に対し中国に責任があると考える米国人が約8割に達したというものもあります。新型コロナの流行拡大には中国の隠蔽体質があるとする見方は米国では強いのです。

エコノミストのエミン・ユルマズ氏

エコノミストのエミン・ユルマズ氏

現在の米国は新型コロナの感染拡大に歯止めをかけるのに注力している段階ですが、仮に収束に向かえば中国に対して強硬姿勢を求める世論は一段と高まるでしょう。そして、ポピュリストであるトランプ大統領が大統領選挙でこの流れを利用しないとは到底思えません。

もともと、米中両国は新時代の覇権を争う「新冷戦」の最中にありました。制裁関税をかけるなどトランプ政権の対中強硬姿勢については国内でも批判がありましたが、新型コロナ感染拡大に伴う反中世論の高まりは、こうした政策を正当化することになるはずです。

中国に対して何らかの「償い」をさせようとする世論の高まりに応じて、収束が見えてくるであろう6月ごろからトランプ大統領も本格的な反中キャンペーンを張ってくるでしょう。それは「新型コロナを『武漢ウイルス』と呼ぶな」と発言し、「中国寄り」というイメージを国民に与えた民主党の大統領候補、バイデン氏にとっては打撃となるはずです。秋の大統領選挙でトランプ大統領が再選される可能性は高まったと私はみています。

仮にトランプ大統領が再選された場合、どのようなことが起きるのでしょうか。新型コロナの発生前からあった通商対立は激化し、さらなる制裁関税が課されることになるでしょう。中国国籍の保有者に対するビザ(査証)の更新停止といった移動の制限も行われるかもしれません。

その結果起きるのは、米経済と中国経済のデカップリング(非連動)です。米企業は中国から引き揚げ、中国との関係は大きく冷え込むでしょう。

同様のことは欧州でも起きるとみています。これまで比較的中国に対して融和的な姿勢を取ってきたドイツやフランスも、政策をより強硬的なものに変えるはずです。新型コロナが、東西の溝を大きく深めることになるのです。

■内向き志向を強める中国

コロナ禍からいち早く立ち直ったとされている中国が、新興国を取り込むのではないかとする見解もあります。ただ、私が見るにそれはうまくいかないでしょう。中国は世界各国に新型コロナの検査キットやマスクをばらまき「救世主」たらんとしていますが、これは現状逆に反発を生んでいます。製品の質が低く、使い物にならないケースが多いためです。

これはむしろ、国内向けのパフォーマンスの側面が強いとみています。かつての中国なら、もっとしたたかで反発が出ないように、弱った国を取り込みにかかったはずです。それができないのは、中国国内の体制が思いのほか揺らいでいるからではないでしょうか。

実際、武漢市の封鎖解除などにもみられるように、中国は「中国共産党による監視体制のおかけで新型コロナに勝てた」とする言説を国内向けに強烈に流しています。中国国内の状況はブラックボックスの面があるので何とも言えませんが、ある程度の成功を収めている可能性はあります。ただ、中国が一般的に思われるよりも、ずっと内向き志向になっていることには注意しなければなりません。

■コロナ収束後に顕在化する新たなリスク

背景にあるのは台湾の問題です。反中姿勢を強める米国が、台湾の国際社会での発言権を認めるよう求めるかもしれないからです。特に米国が新型コロナの防疫で最も成功した台湾をWHOの加盟国とすべきだと主張したなら、「一つの中国」にこだわる中国は極めて強硬に反発するでしょう。

その際、台湾に対する軍事行動といった形で地政学リスクが一気に高まる可能性があります。トランプ大統領は中国の体制崩壊まで求めていないとみられるため、「冷戦」が「熱戦」になる危険性は現状高いとは言えません。しかし、新型コロナの収束が見えてくるとともに、米中対立の激化が顕在化することになると私はみています。

株式市場は現状、このリスクをまだ織り込んではいません。しかし、金地金の店頭販売価格が40年ぶりの高値となるなど、商品市場は早くも投資家の安全志向を反映しつつあります。新型コロナの収束が見えてくるとともに、米中対立は再び株式市場の波乱要因として意識されることになるでしょう。

もっとも、日本にとってこれは逆風とは言い切れない面もあります。新型コロナにおける脱中国の動きは、米国が信頼できる国家としての日本の存在感を高めることになるからです。高付加価値で戦略的に重要な部品や機材の生産が中国から日本に移転されるなどの動きが出てくれば、日本にとってはチャンスにもなるのです。

エミン・ユルマズ
トルコ出身のエコノミスト。16歳で国際生物学オリンピックで優勝した後、奨学金で日本に留学。留学後わずか1年で、日本語で東京大学を受験し合格。卒業後は野村証券でM&A関連業務などに従事。2016年から複眼経済塾の取締役。ポーカープレーヤーの顔も持つ

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