千の凹凸、響きに奥行き 国内唯一のシンバル製作所
匠と巧

関西タイムライン
2020/4/20 2:01
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青銅板をハンマーマシンでたたく小出さん=目良友樹撮影

青銅板をハンマーマシンでたたく小出さん=目良友樹撮影

バンドもオーケストラも打楽器の位置は決まって奥だ。リズムやアクセントを担う重要なパートであるものの裏方のイメージが強い。だが、シンバルの一撃が会場の空気を一変させることがある。クライマックスでの響きは、聴衆の高揚感を最高潮へと導く。

そのシンバルを国内で唯一製作するメーカーが大阪市平野区の住宅街にある。金属加工業の「小出製作所」だ。小さな町工場を訪れると、ハンマーマシンで金属板を黙々と打つ小出俊雄社長(71)の背中があった。

会社は1947年、小出さんの父、茂雄さんが立ち上げた。当時は鍋や釜など戦後の需要があった日用品を作っていた。その後、業務用洗濯機や鉄道の金属部品などが主力に。本格的にシンバルに着手したのは20年ほど前。ドラム経験があった若手社員の「日本にはメーカーがない。自分たちでプロ向けを作りましょう」との言葉がきっかけだ。

材質の分析から始まった。銅とスズの合金、青銅と分かると素材を海外から取り寄せ、試作を重ねた。だが、音はなかなか響かない。外国製品を研究し、ハンマーで凹凸をつけると音が良くなった。たたく技術が重要だと分かると、好きなゴルフ返上で休日に金工工房へ通い、腕を磨いた。

約4年で商品として販売できる品質にまでもっていけた。だが、もっといい音を求めたい。そう思案していた時だ。小出さんの熱意に共鳴した福井県の合金メーカーが、スズの含有率を23%まで高めた青銅の供給を申し出た。一般的なシンバルのスズは20%程度。割合が増えるほど音の響きは良くなるが、硬さが増すため加工は難しくなる。

「ゴン、ゴン、ゴン」。ゆがんだ青銅板に機械ハンマーを打ちつけ整形する。すぐに次の工程に移るのかと思いきや、ここで1カ月以上寝かせるという。金属組織が変化し、音に伸びが生まれるそうだ。そして再びたたき、表面に凹凸をつける。たたいて硬化した部分とそうでないところで振動が変わり、複雑で深みのある音になる。どこをたたくかやへこみの浅深、大小で、明るく華やかな音、暗く不気味な音などを生みだす。目指す音を探り1000回以上打ち込む。薄い箇所では厚さは0.6ミリ。狙いを誤ると素材が割れる。一打一打が真剣勝負だ。

10年以上、同社製シンバルを愛用する日本フィルハーモニー交響楽団の福島喜裕さん(64)は、「音の広がり、響きの輝かしさが秀逸。チャイコフスキーの交響曲第4番第4楽章のような曲で、他の楽器に埋もれず響く」と絶賛する。

海外の愛好者もさらに増やしたい考えだ。だが、米国やカナダなどの大手が圧倒的シェアを占める業界。規模ではかなわず、きめ細かい音創りを武器に、米国の楽器展示会に出品するなど販路拡大を狙う。

「なにがいい音か正解がないから挑みがいがある。これまでにない音を生みだしていきたい」と小出さんの製作意欲は尽きない。これからも従業員4人の小さな町工場から小出ブランドを世界に響き渡らせる。まさにステージ奥から存在感をアピールするシンバルのように。(目良友樹)

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