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氷河期世代、45歳の再出発 翻弄された経験を糧に

(更新)
「就職氷河期世代」を対象にした正規職員採用試験に合格し、宝塚市役所で働く木村直亮さん(兵庫県)

「少しでも前向きになってほしいと思いながら、市民一人ひとりの話をじっくり聞いている」。1月から兵庫県宝塚市役所の福祉関係の部署で働き始めた木村直亮さん(45)は、かみしめるように語る。

役所を訪れる人の中には、職員に声を荒らげる人もいる。それでも「何か特別な事情があるのかもしれない」と、その人の人生や家庭環境に思いを巡らせる。胸の奥には時代に翻弄された自身の経験がある。

初めて就職活動をしたのは1998年。いわゆる就職氷河期だった。バブル経済が崩壊し、企業は一斉に採用を絞った。街には内定をもらえない学生があふれた。

「大手志向でとりあえず受けた」のはメーカーや金融など約50社。1社から内定が出たものの、自分がそこで働く姿を想像できず、どうしても入社に踏み切れなかった。

翌年、改めて同じくらいの数を受けたが、今度は1社も内定がもらえない。2年をかけて何とかコンビニの正社員に採用され「やっと落ち着いて働ける」と安堵した。

だが、いざ働き始めると、想像もしない生活が待っていた。早朝、深夜問わず携帯電話が鳴り、担当の店舗に駆けつける。ノルマを達成するため、クリスマスケーキやお中元の商品を自分で大量に買うこともあった。

耐えきれずに退職し、契約社員などの職を転々とした。採用面接の途中で面接官が携帯で誰かと話し始めたことすらあった。結果はもちろん不採用。「まともに話すら聞いてもらえないのか」。就職難の時代を恨んだ。

その後、非正規の公務員に就いたが、常に「来年もここで働けるのだろうか……」と不安に駆られた。レールに乗り損ねた境遇を恥じ、正社員の座を射止めた高校や大学時代の友人と連絡を取ることもなかった。

「これに応募してみたら?」。2019年7月、妹が何気なく教えてくれたのが、宝塚市の就職氷河期世代対象の採用だった。調べると採用予定は3人程度。狭き門だとは分かっていたが、非正規の公務員だった経験もあり「自分にはやれる」と思い切って応募した。

最終倍率は約400倍。筆記試験には手応えがあったが、面接では思ったような受け答えができず「落ちたと思った」。最終面接の案内が来たときは信じられなかった。

「ついに最終まで来た。縁があるのかもしれない」。最終面接前、奈良県出身で宝塚市とはなじみのなかった木村さんは車で市内を回った。閑静な住宅街に緑いっぱいの田園風景を直接肌で感じ、自分がこの地で働く姿を強くイメージした。

公園のベンチで市民が笑顔でくつろいでいる様子に見入っていると「この街を支えたい」との思いが強くなった。「時代を恨んでも仕方がない。前向きに生きよう」。そんな気持ちで最終面接を終えると気持ちは晴れ晴れとしていた。「力は全て出し切った」

11月中旬、結果を知らせる封筒が届いた。おそるおそる開けてみると、そこには「合格」の二文字。うれしさもあったが、何よりほっとした。

働き始めて3カ月。過去、話すら聞いてもらえない時期があったからこそ「自分こそは市民の相談に親身に耳を傾けよう」と強く思う。住民からの電話に1時間かけて対応することもある。

初めての就職活動から20年がたった。時間はかかったが「自分の働く姿が、同世代の人が再挑戦するきっかけになるかもしれない」。45歳、折り返し付近で新たな人生が始まった。

文 札内僚

写真 目良友樹

無業者39万人、非正規50万人


 就職氷河期は一般に、バブル崩壊で新卒の就職が特に厳しかった1993年ごろから2004年ごろを指すことが多い。現在の30代半ば~40代半ばの世代が直面した。
 総務省によると19年の労働力調査で、35~44歳の無業者(家事も通学もしていない人)は約39万人に上る。正社員になりたいのに非正規で働く人も少なくとも45万人いるとみられている。
 政府は19年7月、氷河期世代の就労を後押しするため内閣官房に「支援推進室」を設置。正社員を3年間で30万人増やす目標を掲げる。自治体による採用支援の動きも広がり、総務省によると、20年3月までに氷河期世代に限った採用を実施・検討している自治体は神奈川県や京都市など40以上という。
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