映画を全編リモート制作 「カメ止め」監督の挑戦
「自分にできることは明るいエンターテインメントを届けること。下を向いている誰かの希望になればうれしい」
「カメ止め」の愛称で知られ、社会的ブームになったコメディー映画「カメラを止めるな!」(2017年)の上田慎一郎監督が、スタッフや俳優と顔を合わせないまま映画を制作する新たな試みを始めた。集団制作する映画の常識を覆す挑戦だ。新型コロナウイルスの感染拡大で外出自粛が叫ばれ、映画制作も相次ぎ中止に追い込まれている。「生活の危機にひんしているクリエーターに『知恵と工夫でもの作りはできる』と前を向くきっかけになる作品にしたい」と意気込んでいる。
制作中の「カメラを止めるな!リモート大作戦!」は約20分の短編映画。4月末をめどに完成させ、動画サイトのユーチューブで無料公開する。外出自粛で自宅待機中の映像ディレクターのもとに「今月中に再現ドラマを1本作ってほしい」とプロデューサーから無理難題が舞い込む。すべてリモート(遠隔)で撮影する羽目になった制作現場のドタバタ物語を、リモートで制作するという趣向だ。
上田監督が今回の短編の制作を思いついたのは4月3日。「暗いニュースが毎日流れ、僕の周りのクリエーターが次々と仕事を失っていった。『カメラを回せない』『カメラが止まった』という声が上がり、『カメラを止めるな!』と映画のタイトルが自分自身に迫ってきた思いがした」と監督は語る。
翌日から「カメ止め」のスタッフと俳優に連絡。急いで日程調整し、濱津隆之、真魚、しゅはまはるみ、どんぐりらおなじみの俳優たちが顔をそろえた。プロットと脚本はともにわずか1日で書き上げたという。ビデオ通話でやりとりする画面や、俳優がスマホで自撮りした映像を集め、上田監督が短編に仕上げる。「今はビデオ会議もあるし、スマホの映像も解像度が高い。僕がリモートで演出し、それをつなげれば(映画が)できるのではないかと。もっとも確信は持てないまま走り出した」と監督は笑う。「今までの演出のやり方とは勝手が違う。だが、(俳優の自撮りした映像のレベルの)統一感のなさもむしろ面白くなるのではないか」と期待する。苦境にある小規模映画館を支援するクラウドファンディング「ミニシアター・エイド基金」に、今回の作品の未公開映像を提供する予定という。
(関原のり子)