任天堂「スイッチ」、増産が簡単ではないワケ
グロービス経営大学院教授が「ボトルネック」で解説

ビジネススキルを学ぶ
2020/4/17 2:02
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「巣ごもり消費」の需要増で国内出荷を一時見合わせた「スイッチ」は出荷再開に

「巣ごもり消費」の需要増で国内出荷を一時見合わせた「スイッチ」は出荷再開に

任天堂が4月上旬、ゲーム機「ニンテンドースイッチ」の国内出荷を一時見合わせました。スイッチは新型コロナウイルスの感染拡大に伴う外出自粛で「巣ごもり需要」が高まる中、製品供給が間に合わずに品薄状態が続いているそうです。どうしてこのような販売機会ロスが起きるのか、グロービス経営大学院の嶋田毅教授が「ボトルネック」の観点から解説します。

【解説ポイント】
・工程全体を踏まえた供給計画が必要
・単純な増産や値上げはリスク

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■日常でも使える発想

特にグローバルな製造業や小売業において非常に重要な経営課題の1つが、モノやサービスを生み出して利用者に届けるまでのサプライチェーン・マネジメントです。トヨタ自動車や米アマゾン・ドット・コムなど、このサプライチェーンを効率的かつ柔軟に構築できた企業が、業界の中でも有利な地位に立てることが少なくありません。

そしてサプライチェーンを構築する際に考えるべき重要なポイントの1つが、「ボトルネックを作らないこと」です。ボトルネックは大企業が生産販売する大掛かりな仕組みのみならず、日常の業務プロセスでも使える非常に汎用的な発想です。

ボトルネックとは、もともと「瓶の首」を意味します。瓶の首の部分は、傾けた時に一気に中の液体が出ないように細くなっているのが一般的です。これにより、瓶の流量全体を抑えているのです。このことから、処理の速度や能力に限界があり、工程全体のスピードを制約してしまう所をボトルネックといいます。

図の例では、工程2がボトルネックになっており、このままではせっかく他の工程の処理能力が高くても無駄になってしまいます。ビジネスでいえば、売り上げが減少してしまうことや、固定費の稼働率が低くてコストアップになってしまうことを意味します。そこで工程2の生産能力を増強することで、全体のスループット(流量)を上げ、生産性を高めるのです。大がかりなサプライチェーンでも基本は同じです。

■スイッチはEMSがカギ?

今回の任天堂「スイッチ」のケースでは、巣ごもり需要が予想外に拡大したことで、サプライチェーンの中で生産面の供給力がボトルネックになったものと考えられます(部品調達もボトルネックになっている可能性はありますが、今回は生産に注目します)。国内出荷を再開するものの、一般的には品薄状態が続いているようですから、まずは稼働率をしっかり上げ、需要に応えることが必要です。

問題は稼働率が100%近くになった際に、それでも供給が追い付かない場合に生産能力を引き上げるのかということです。おそらく、小売店などの販売能力が足りずにボトルネックになるという可能性は低そうです。物流はボトルネックになる可能性もありますが、生産よりは解消しやすそうです。

スイッチの生産は電子機器の受託製造サービス(EMS)大手に外注している、すなわち外部委託によって変動費になっているということですから、生産能力を引き上げること自体のリスクは、社内の固定費増(設備投資など)で対応しようとするやり方に比べれば、かなり低いように思われます。また、ホテルなどのサービス業と違い、同時性(サービスの提供と消費が同時に起きる)はありません。つまり在庫を適度に持つことで、需要と供給の時間差のミスマッチはある程度解消できるということです。

携帯専用の「ニンテンドースイッチライト」の人気も引き続き高い

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■EMSの活用は長短あり

この状況だけ考えれば、仮にスイッチの需要増が続く場合、生産を請け負ってくれるEMSを探せば良さそうなものですが、それではいけないのでしょうか。

想定されるデメリットやリスクはどんなものでしょう。まずは単に管理が難しくなる、ということがあります。特に新しいEMSに委託すると、初期の生産ライン立ち上げや完成品の品質管理にかかる手間は少なくないでしょう。2つ目に、需要が予想通り続かなかった場合、EMSに迷惑をかけてしまう可能性があります。例えば生産人員を雇用したとたんに解雇したりしなくてはならない、などです。「それがEMSというビジネスだろう」「任天堂の方が立場は上だから大丈夫では?」という見方もありますが、長く商売をやっていくうえで重要なパートナーにそうしたリスクを押し付けることが好ましいとは言えません。

もちろん、雇用を創出するだけで感謝される可能性もありますが、それはしっかり見極める必要があります。任天堂が今後どのようにウィンウィンの体制を作ろうとしているのか、その構想が問われるでしょう。

3つ目は過剰在庫を抱えやすくなる点です。おそらく、商材の特性からしてかなりの比率は見込み生産を行うことになるでしょう。流通網に商品を潤沢に送るという側面では顧客に便益を提供することになるのですが、企業としては売れ残りなどのリスクを抱えてしまいます。

任天堂はこれらのデメリットやリスクを勘案したうえで、この「特需」とどう付き合うかを考えることが求められます。当然、効果的なサプライチェーンの要素でもある「しっかりした需要予測」もカギになってくるのですが、なにしろ過去にない状況での需要増です。ゲーム業界は昔から売上変動が激しい業界でしたが、その原因のほとんどはヒット作や端末のブームとその終焉(しゅうえん)でした。その意味では需要変動に対するノウハウがあるともいえますが、今回はそれとは多少異なる状況です。その中でどのような需要予測をするのか、非常に大事なポイントとなるでしょう。

■問われる評判マネジメント

ちなみに、需要増に対応するうえで、供給力増大以外の方法もあります。その最も手っ取り早い方法は「値上げ」による需要量の抑制です。これはサービス業では非常に多用されています。例えばホテルであれば、ゴールデンウイークなどのハイシーズンに、他の時期より価格を上げるのは常識です。航空会社なども同様です。値上げによって、売り上げや利益の最大化を図るのが、同時性のあるサービス業では鉄則です。

図はオーソドックスな需要供給曲線ですが、今は需要曲線が右側(上側)に動いた状況です。ここで値上げを行うことにより、需要量を抑える(左側に移動させる)というのは理にかなっているのです。

ただ、合理的ではあるのですが、やり方を間違えれば「火事場泥棒」的な非難を浴びて、長期的なブランドイメージを毀損しかねません。ホテルや航空会社といった一部のサービス業では「まあそういうものだろう」という消費者のコンセンサスがあります。今回は違います。しかもウイルスの感染拡大という、消費者の心も落ち着かない特殊な状況下です。そうした中で「供給が追い付かないので値上げします」はやはり多くの消費者に受け入れられない可能性が高いでしょう。

任天堂にとって、スイッチの需要増そのものはビジネスチャンスであることは間違いないですが、どう動くにせよ、短期的な課題解決のみならず、中期的な企業の評判マネジメントも大切になってくるのです。

しまだ・つよし
グロービス電子出版発行人兼編集長、出版局編集長、グロービス経営大学院教授。88年東大理学部卒業、90年同大学院理学系研究科修士課程修了。戦略系コンサルティングファーム、外資系メーカーを経て95年グロービスに入社。累計160万部を超えるベストセラー「グロービスMBAシリーズ」のプロデューサーも務める。動画サービス「グロービス学び放題」を監修

「ボトルネック」についてもっと知りたい方はこちら

https://hodai.globis.co.jp/courses/475fba24(「グロービス学び放題」のサイトに飛びます)

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