ハイイールド債投信救うFRBの奇策 長期では弊害も

高井宏章
編集委員
コラム
2020/4/16 2:00
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リスクの比較的高い「ハイイールド債」を組み入れた投資信託の価格が回復しています。米当局がハイイールド債を含む大規模な資金供給策に乗り出したのがきっかけで、日本の主要ファンドの運用も最悪期を脱しつつあります。市場関係者の間で「こうした流れは続く」と悲観論は後退しつつある半面、長い目では「何でもアリ」の救済には弊害も懸念されます。

欧米のハイイールド債市場では、相場の動向の目安になる「スプレッド(基準金利に対する金利の上乗せ幅)」が急速に小さくなっています。これは国債などに比べてハイイールド債の金利低下ペースが速い、価格で見ると値上がりが急ピッチなことを意味します。

ハイイールド債やスプレッドという用語、債券の価格と利回りの関係になじみの薄い方は、先に末尾のミニ解説と動画をご覧ください。

ハイイールド債市場が早期回復に向かったのは、米連邦準備理事会(FRB)の政策が最大の要因です。日経ヴェリタス最新号の特集「信用危機 薄氷の封じ込め」ではその背景と影響を詳報しました。

グラフのように、米インターコンチネンタル取引所(ICE)の米ハイイールド債のスプレッドは、3月下旬の最悪期には10%を大きく超えていましたが、足元では8%を切るところまで戻しました。欧州も傾向は同じです。

世界的な連鎖株安や新型コロナウイルスの影響を受ける前と比べればなお高水準とはいえ、悲観論は大きく後退しています。オランダのINGは14日のリポートでFRBの新手法を評価し、「手元資金確保のための社債発行が増えるなかでも、投資マネーはハイイールド債を含む社債市場に流れこみ続けるだろう」と指摘。スプレッドのさらなる縮小を予想しています。

こうした流れを映して、日本の投信でハイイールド債に投資するタイプの商品の基準価格の下落にも歯止めがかかっています。

運用資産が最大の「フィデリティ・USハイ・イールド・ファンド」は3月月間で14%下落しましたが、4月14日時点で下落率は11%まで縮小しました。外貨建て債券に投資しているため、円高・ドル安の影響などで戻りが鈍い商品もあるようです。

FRBによるハイイールド債の買い入れや関連ETFへの支援は、市場関係者の意表を突いた奇策でした。日本を含む主要国の中央銀行は金融緩和の一環として、債券を大量に買い入れる「量的緩和」を導入してきました。しかし、対象は原則として国債で、社債を買う場合も信用力の高いものに限定してきました。「通貨の番人」たる中銀がデフォルト(債務不履行)で損失を被ると、通貨の信用そのものが揺らぐ懸念があるためです。

FRBが「禁じ手」まで踏み込んだのは、金融システムが動揺するリスクを未然に摘むためと考えられます。リスクが高めのローンを手掛けるファンドや中小企業向けの間接融資のような支援も決めており、FRBは「最後の貸し手」として経済のあらゆる層に手を広げようとしています。

異例の対応は、コロナ・ショックという異例のリスクに応じるものです。それを象徴するのが、FRBのハイイールド債支援策が採用した「堕天使の救済」です。

「堕天使」は、債券の格付けがトリプルBからそれ以下に格下げされた、つまり安全資産とされる投資適格債からハイイールド債に「堕落」した債券を指す慣用表現です。FRBは今回、現状がハイイールド債のダブルBであっても、3月22日以前にトリプルB以上だった債券は、投資適格債並みに扱うという基準を示しました。「コロナという異常事態による格下げは大目に見よう」というわけです。

FRBが手を差し伸べる「堕天使」の中には、自動車大手フォード・モーターやデルタ航空などのほか、エネルギー関連の大手企業などが含まれる見込みです。いずれもコロナ・ショックと原油急落で痛手を被っている企業です。

コロナ・ショックという未曽有の事態に対し、政策総動員の決意を示したFRBの姿勢には、批判もあります。

米オークツリー・キャピタルの著名投資家ハワード・マークス氏は14日の顧客向けレターで、「金融システム上、重要性が低い借り手まで救う必要があるのか」「果実だけ得て代償を払わなくて良いなら、過剰なリスクテークを助長しかねない」と指摘し、「投資家が『健全な損失への恐怖心』を持ってこそ、市場は正しく機能する。政府やFRBはそれを台無しにするべきではない」と警鐘を鳴らしました。

いずれにせよ、FRBの「禁じ手」が市場の安定にどこまで効果を発揮するかは、コロナ・ショックの「長さ」と「深さ」で左右されます。いくら資金繰りを支えても、経済の低迷が長引けば経営が行き詰まる企業が増えるのは避けられないからです。

ハイイールド債や関連商品の投資家にとっては一息つけるサポートが出てきましたが、まだ気が抜けない状況が続きそうです。

ハイイールド債
 安全性の尺度である格付けが低い債券を指す。直訳は「高い利回り(イールド)の債券」で、日本語では低格付け債と呼ぶことが多い。
 かつてはデフォルト(債務不履行)リスクの高さから「ジャンク(くず)」とも呼ばれたが、リスクに見合った高利回りが得られる投資先として定着。欧米では盛んに発行されて巨大な市場を作っている。日本では投資家の安全志向が強く、まだごく少数にとどまる。
 線引きとなる格付けはトリプルBで、それ以上を「投資適格債」、それ未満がハイイールド債と呼ばれる。
マネーの世界 教えて高井さん 債券編

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