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ICU、43道府県で不足の恐れ コロナ重症者ピーク時

(更新)

新型コロナウイルスの重症者を救命する病院の集中治療室(ICU)が、患者の増加で機能不全に陥る恐れが高まっている。国の推計に基づき分析すると、ピーク時には43道府県で重症患者数がICU病床数を上回る可能性があることが分かった。日本は海外より人口当たりのICUが少なく、人材も不足している。設備集約や広域連携といった対策が急務だ。

国は2月29日時点で示した推計方法として、14歳以下、15~64歳、65歳以上の年代ごとに、ピーク時に見込まれる1日当たりの重症者の割合を示している。例えば65歳以上なら人口の0.018%が重症になると推計している。

これを都道府県別に当てはめた重症者数と、医療情報会社「日本アルトマーク」(東京・港)が調査したICU病床数を比べたところ、43道府県で重症者数が上回ることが分かった。

ICU病床数は全国計で5709床。これに対し重症者数は、全国同時に流行がピークを迎えたと仮定すると最大で7555人となる。東京、岡山、福岡、沖縄はICU病床数の方が多かったが、別の病気でICUを使用中なら新型コロナ用に使える数は減る。

日本と海外ではICUの整備状況に大きな差がある。人口10万人当たりのICU病床数は日本は約5床だが、米国は約35床、ドイツは約30床。多くの死者が出ているフランスやイタリア(約12床)、スペイン(約10床)も日本より多い。

専門医も少ない。日本集中治療医学会が認定した集中治療専門医は19年4月時点で約1820人。ICUのある病院だけでみると1病院当たり平均約3人だが、ICU専従の専門医は少ない。欧米ではICU専門医が、様々な職種の医療従事者と連携して治療成績の向上を図っているという。

同学会の西田修理事長は、3月末時点で死亡率が1.1%のドイツと、11.7%のイタリアについて「ICU体制の差」としたうえで「日本の集中治療の体制はパンデミック(世界的流行)には大変脆弱と言わざるを得ない」と警鐘を鳴らす。

ICUを備えた特定の病院を新型コロナの「専門病院」とし、ノウハウの豊富な人材や設備を集約することで、より円滑な対処を図るなどの対策が求められる。感染のピーク時期は地域ごとに違うとみられ、広域連携も重要になる。病院や地域単位で、あらかじめ役割分担の検討を急ぐ必要がある。

ICU、支える人材や設備確保を

ICUが43道府県で不足する恐れがあることが分かった。感染が拡大する中、ICUを支える人材を確保するとともに、設備の拡充も求められる。

最もICU病床が不足するのは埼玉県。230床に対し、ピーク時の重症者は1.8倍の418人に達するとみられ、188人分不足する。神奈川県も349床と病床は多いものの、重症者は1.4倍に上り154人分が不足する。

東京都は患者数よりもICU病床数の方が多かったが余力は乏しく、重症者の急増には対応できないとみられる。

ICUでの治療は患者への身体的負担が大きく、高齢者は対象外となることもある。このため高齢化による需要減を見越し、このところ削減が進んできた。厚生労働省によると、2018年にICUの基準を満たしたとして届け出があったのは635病院。14年と比べて50病院減った。今回はこうした「間隙」を突かれたともいえる。

ICUの専門人材が不足していることについて、亀田総合病院(千葉県鴨川市)の林淑朗・集中治療科部長は「大学医学部の診療科別医局の影響がある」と指摘する。日本では各診療科の医師がICUでも継続して治療する例が多く「専門医が育ちにくい」という。林部長によると、海外では専門医を中心とする多職種のチームが共同で治療するのが主流という。

人材の少なさは高度な機器の稼働率にも影響する。人工肺(エクモ)は国内に約1400台あるものの、専門人材不足のため同時利用できるのは300床分とみられる。

危機感が高まる中、現場では対応力を高める試みも広がる。厚生労働省はエクモの経験豊富な医師で構成する「エクモネット」を通じ、経験の浅い医師らに研修を実施することで同時利用800床を目指す。肺炎治療でのエクモ活用法を学んでもらうほか、医療機関にエクモネットから人材を派遣し支援する。

日本看護協会も看護師約5万6千人の早期復職を呼びかけるなどして人材確保を急いでいる。

多くの専門家が重要と指摘するのが、新型コロナの「専門病院」と位置付けた医療機関で、患者に集中対応することだ。限られた専門人材や高度な設備を集約すれば、ノウハウの蓄積も進み、より効率的な処置が可能になるとみられる。大阪府などはこうした施設の設置に動き出している。

ICUは人工呼吸器やエクモ、救急蘇生装置など多数の機器を備える。新型コロナへの対応が長期化する恐れもある中、一段の増設を図ることも重要になる。

クルーズ船「ダイヤモンド・プリンセス」で感染者が急増した際は、多くの医療機関が広域で連携して対処した。これまでに得られたこうした知見も生かし、重症者の増加に日本全体でどう備えるかが問われている。

(社会保障エディター=前村聡、鷺森弘)

新型肺炎

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前村 聡

カバージャンル

  • 医療・介護
  • 厚労行政
  • 災害

経歴

日経実力病院調査を企画したほか、がん、心臓、脳疾患、老衰、医療費の実態を公開データなどからデータジャーナリズムの手法で市区町村別に分析、「見える化」した記事を執筆しています。厚生労働省担当として医療安全、薬害、感染症対策、児童虐待、食品安全、過労死問題などのほか、阪神大震災、東日本大震災、熊本地震など災害取材も多く、安全・安心な社会のあり方を模索しています。現職は社会保障エディター。共著に「医療再生」「砂上の安心網」など。

活動実績

2021年3月27日 医療事故・紛争対応研究会で「医療安全対策をめぐる過去30年間の総括と今後の課題:社会の視点から」をテーマに講演
2020年12月26日 メディカルジャーナリズム勉強会「新型コロナ、メディアは責務を果たしたか」に登壇(オンライン開催)
2020年12月14日 東京大学大学院公衆衛生学講座で「新型コロナ政策の決定過程」を講義
2020年10月22日 日本公衆衛生学会シンポジウムで「医療計画とがん計画の中間評価 あるべきインパクト評価とEBPM普及への道」講演
2020年10月4日 医療事故・紛争対応研究会で「記者の立場から見た情報開示」をテーマに講演
2020年10月2日 国際医療福祉大大学院で「新型コロナウイルス対策とデータジャーナリズム」講義
2020年9月27日 日本ヘルスコミュニケーション学会特別シンポジウム「新型コロナウイルス感染症に関するリスクコミュニケーション」で指定発言
2020年8月25日 「日経実力病院調査 2020-2021年版 (日経ムック) 」を日経BPから出版
2020年6月19日 日経xTECHオンラインセミナー「新型コロナ死者数、本当は? 『超過死亡』で見えた政府統計システムの大問題」をテーマに講演
2020年5月22日 国際医療福祉大大学院で「政策評価と日本の医療の将来」をテーマにオンライン講義
2020年5月12日 共著「無駄だらけの社会保障」(日経プレミアシリーズ)を日経BPから出版
2020年4月20日 共著「新型インフルエンザパンデミックに日本はいかに立ち向かってきたか」を南山堂から出版
2020年3月28日 ヘルスケア発信塾「感染症危機の情報発信を考える~新型コロナウイルス感染症対応について」登壇(オンライン開催)
2020年2月2日 CancerX summit2020でパネルディスカッション「がんと言われても動揺しない社会に向かって」に登壇
2020年2月2日 患者の声協議会の勉強会で「公開データによる地域医療の現状の見方を講演
2019年12月16日 東京大学大学院公衆衛生学講座で「医療政策の決定過程」を講義
2019年11月29日 医療の質・安全学会で「市民に医療安全を伝えるには」をテーマに講演
2019年9月29日 日本遺伝看護学会で「あなたを支える医療情報の伝え方」をテーマに講演
2018年2月 共著「2030年からの警告 社会保障 砂上の安心網」を日本経済新聞出版社から出版

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