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優しさマーケティング、有事で支持 お湯や「置きピザ」

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NIKKEI MJ

新型コロナウイルスの感染拡大に翻弄される日本の消費シーン。買いだめ・品薄の商品ばかりが注目されがちだが、今年、話題を集めたのはそれだけではない。コロナ禍にかかわらず人々の関心を呼んだのは、悩み事や困り事にそっと寄り添うような、優しさが込められた商品・サービスだ。

「外出自粛地域なのでとっても助かりました」「安心感があり良かった」

新型コロナウイルスの感染拡大で食事の宅配需要が高まるなか、今ネット上で高評価を得ているのが、日本ピザハット(横浜市)が手掛ける「置きピザ」だ。

事前にキャッシュレス決済を済ませた客の在宅を確認した上で玄関先に商品を置く仕組み。配達員と注文客はインターホン越しなどで会話し、対面はしない。利用数は「日を追うごとに伸びている」(同社)。ドミノ・ピザジャパン(東京・千代田)も同様のサービスを手掛ける。感染拡大を気にする顧客への気配り、優しさが消費者の心を捉える。

未曽有のできごとは時に人々の価値観を変える。東日本大震災の際は、東北地方の人の生活を支えようと多くの人が現地の産品を買ったり、ボランティアツアーに応募したりした。人とのつながりを求めてフェイスブックが普及するきっかけにもなった。共感を得た言葉が「絆」や「応援消費」だった。

新型コロナウイルス下では、「置きピザ」のように「気遣い」「優しさ」を感じられる消費・サービスが注目されたり、見直されたりする可能性がある。実際、コロナ禍が深刻化する前から、優しさが感じられる商品は消費者の支持を集めつつあったからだ。

「妊娠中でカフェインとれないから助かる」「粉ミルク溶かせるからうれしい!」「薬飲むとき重宝する」――。

1月下旬。ツイッター上で自動販売機に収まるペットボトルの写真が話題を呼んだ。オレンジを基調にしたデザインに筆文字で「湯」。ボトルには「ただのお湯です」のコメントが。1万を超えるリツイートを生んだ。

ペットボトル入り白湯を売り出したのは中堅飲料メーカーのチェリオコーポレーション(京都市)。1月16日から「天然水□湯~(ラブユー)」を、関西と中部地方の自販機約5000台で限定販売した。

「コカ・コーラと同じことやってもだめだ。なんか面白いことできないか」。2019年11月、大阪府高槻市の事務所に幹部20人が集まった企画会議。「お湯ならいいんじゃないですか」。1人のつぶやきが、新商品の端緒となった。

マーケティング部門の西絵里香課長は「中国人が水ではなくお湯を飲んでいたのを見て、白湯が意外に需要があるのでは、と考えた」。滋賀工場(滋賀県東近江市)で使う鈴鹿山系の天然水には自信がある。お湯をセ氏50度程度にして試験販売を始めたところ、女子校など若い女性が多く集まる場所や病院の近くなどに設置した自販機の売れ行きが好調だった。

身体を冷やしたくない若い女性や、外出先で粉ミルクを溶かしたい子育てママへの「気配り」が支持されているようだ。「そこそこ売れた」(座間隆史取締役)ということで、20年秋冬商品としての展開も検討中だ。

健康への優しさが感じられる取り組みを始めたのが明星食品だ。2月発売の商品から、内側に新たに入れた線までスープを残した際に摂取した食塩相当量が分かる「しおケアカップ」を導入した。

マーケティング部の原弘一ブランドマネージャーは「食べ残しを推奨するのには抵抗があったが、スープを全部飲まない消費者もいる」とカップ内側に線を入れた理由を語る。減塩商品を「おいしくない」とのイメージで捉える消費者も少なくないが、「しおケアカップ」は従来商品と食塩相当量は変えずに消費者に調整してもらう。

例えば「チャルメラどんぶり コーンとんこつラーメン」はスープまで全て飲んだ際の食塩相当量は5.4グラムだが、線までスープを残すと2.8グラムと約半分に減らせる。

発売後、消費者からは「使ってみたい」「夫が高血圧なので勧めたい」など好意的な声が多く寄せられたという。3月からは順次、「塩分25%カット」をうたったカップ麺「評判屋」シリーズ5品も「しおケアカップ」に切り替えて製造している。秋以降には他の商品にも対象を拡大していく予定という。

新型コロナ対策で学校が軒並み休校となるなか、家で勉強する学生に支持を集めそうなのが、コクヨのカラーマーカー「マークタス」(1本税別150円)だ。

1本のペンに2色のペン先をつけたマーカーで、昨年12月に開かれた展示会「文具女子博2019」で話題に。SNSの勉強法を紹介するアカウントでも反響がある。

元来「ペンを持ち替える手間を省く」ことをテーマとした先行商品があったが、マークタスは学生の利用に照準を合わせた。開発を担当したマーケティング本部商品企画部の飯田康平氏は「社会人の資料作りでも、様々な色を使いすぎるとわかりにくくなる。学生のノートも同じだ」と話す。

そこで、情報の重要度を2色の強弱で示せるよう、同系色でまとめた「カラータイプ」と、カラーとグレーを合わせた「グレータイプ」を開発した。カラーの色は、ブルーやピンクなど5種類。

インクの色味にこだわり、1年弱の開発期間中、2~3カ月をかけた。蛍光色は目がチカチカしてきついというユーザーの声を反映し、落ち着いた色を使った。多機能より単機能な優しい家電が支持され始めているように、文具も多色キラキラよりも、マイルドな優しさが求められているのかもしれない。

新型コロナの感染拡大が続くなか、次にどんな商品、サービスが話題となるのか。景気の先行きが厳しい中、家計に「優しい」ものも重要なキーワードとなりそうだ。

(赤間建哉、川原聡史、古澤健、堀沢里奈、小林宏行)

    ◇

喜劇王の志村けんさんの新型コロナウイルスによる死去に、多くの人が深い喪失感を覚えた。数々の追悼番組を見ると理由が分かる。笑いの中に他者への深い優しさが練り込まれているからだ。

名優の故・高倉健さんの名言も話題になった。「ビートたけしさんの笑いは狂気で、志村さんは哀愁がある」と。そのたけしさんはかつてこんな発言をしている。ダウンタウンの松本人志さんと比較して「俺の方が凶暴で、俺の方が優しい」。

一時代を築いたコメディアンたちはどこか共通している。面白さを提供する人々は必ずしも社交的というわけではなく、シャイで内省的だ。自分の存在理由をとことん考えるから、逆に利他的になれる。この結果口当たりのいい優しさではないので、深く、長く愛されるアイデアが生まれる。

経済の分野では、やはり米アップルを作ったスティーブ・ジョブズ氏だろう。電機メーカーはやたらとリモコンのボタンを増やしたがるが、iPhoneは一つにした。実に使いやすく、美しいスマートフォンは世界を変えた。これが利他的な優しさマーケティングではないか。

ジョブズ氏の伝記を読むとやはり狂気をはらんだ性格のようだ。その強烈な「自分探し」がアップルというコアファンを引き寄せるブランドを作り上げた。

かなり究極の話をしたが、新型コロナ以降、消費者はさらに慎重になるだろう。危機に見舞われ、人々は「なんとか自分は助かりたい」という利己的な思いと、「つらい人をなんとか助けたい」という利他的な気持ちが日々交錯している。

だからこそ、優しさと気遣いという言葉が重みを持つ。言い方を変えると、「顧客のため」ではなく、「顧客の立場に立つ」という姿勢だ。

顧客のためというのは多くはお仕着せが多い。売り上げを優先した余計な機能や無駄なパッケージなど売り上げを優先した付加価値だ。一方で、顧客の立場に立つとは、顧客のニーズから逆算する経営姿勢に他ならない。近年の米ウーバーテクノロジーズや米エアビーアンドビーなどはその代表だろう。

コインパーキングやカーシェアアリングのパーク24の西川光一社長に「カーシェアの会員、やめる手続きが簡単ですぐやめられますね」と質問したことがある。すると「自分自身がやめにくいようなサービスは嫌いだから」と答えてくれた。当たり前だがビジネスでも自分が嫌なことを他人にしてはいけないのだ。

大量生産・大量販売の20世紀型モデルの転換が急務と企業は口をそろえながらも、なかなか量より質の21世紀型モデルへのシフトは進まなかった。こんなウイルスは本当に勘弁してほしいが、せめて何が必要で、何が要らないのか、価値ある社会とは何かを考えるきっかけにしたいところだ。

志村さんはこんなことを語っている。「人を笑わせるのではなく、笑われるのが好きなんだ」。自分を誰よりも下に置き、顧客の喜びを優先する希代の喜劇王の言葉はまさに優しさマーケティングの神髄だ。

(編集委員 中村直文)

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