急拡大するESG債市場 発行額100兆円に迫る

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2020/4/14 2:00
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環境関連の事業に資金用途を絞ったグリーンボンドへの投資需要は強い=AP

環境関連の事業に資金用途を絞ったグリーンボンドへの投資需要は強い=AP

環境事業や社会貢献事業などに資金使途を絞った債券、「ESG債」の発行が急増している。国内では日本電産東北電力が発行。一般的な債券と比較しても発行条件に差はない。市場は今後さらに拡大しそうだ。

■ブラウン企業も発行

「ESG債」と総称される債券の世界での累計発行額は1兆ドル(約100兆円)に迫り、債券市場全体の1%の規模に成長している。日本におけるESGの債券分野への広がりに一役買ったのは年金積立金管理運用独立行政法人(GPIF)。2017年にそれまで株式だけとしていたESG投資の対象を債券など運用資産全体に広げた。20年2月には、国家公務員共済年金基金などほかの公的年金に対しても運用資産全体でESGを考慮することを求める指針の改正が告示され、今後、拡大に拍車がかかりそうだ。

ESG債には主として、環境関連の事業に資金使途を絞った「グリーンボンド(環境債)」、社会貢献事業に資金を充てることを目的とした「ソーシャルボンド(社会貢献債)」、環境・社会貢献の両方を目的とした「サステナビリティボンド」の3種類がある。

一般的な債券と違い、ESG債は外部評価機関からESG債としての認証を取った上で、債券を発行した企業は調達目的とした事業の進捗や資金の充当状況を毎年報告する必要がある。発行体にとっては投資家に対してESGに積極的なことをアピールできる一方、資金使途が限定されるだけでなく認証や報告のコストがかかるデメリットもある。

ESG債の中でも、もっとも発行が多いのがグリーンボンドだ。国際資本市場協会(ICMA)の「グリーンボンド原則」では、再生可能エネルギーや生物多様性の保全などを対象事業としている。07年に欧州投資銀行(EIB)が出したのが最初とされる。気候変動リスクの高まりが意識されるなか、発行額は毎年過去最高を更新。英非営利団体のクライメートボンド・イニシアチブ(CBI)によると、19年の発行額は2577億ドルと18年から5割増えた。20年の発行額は35%多い3500億ドルになると見込む。

日本企業による発行も増えている。金融情報会社リフィニティブによると、19年は前年比74%増の7300億円と過去最高を更新した。日本電産(6594)が電気自動車(EV)向け駆動用モーターの研究開発費などに充てる目的で1000億円を発行したほか、トヨタファイナンスも600億円を出した。今年に入って注目を集めたのは東北電力(9506)だ。温暖化ガス排出量の多い電力会社は、環境に良い「グリーン」と対局にある「ブラウン」企業の代表だが、洋上風力発電や地熱発電などに充てる資金として調達した。

資金使途が厳格に定められているグリーンボンドに比べて、ソーシャルボンドやサステナビリティボンドは自由度が高いと注目されている。20年に入り、学研ホールディングス(9470)がソーシャルボンドを発行。認知症高齢者向けグループホームを運営するメディカル・ケア・サービスの株式の追加取得などに充てる。また、JR東日本(9020)はバリアフリー設備を充実させた車両や蓄電池を動力源とする電車の製造のための資金を、サステナビリティボンドで調達した。

ESG債は同じ企業が発行した一般的な債券と比較しても金利など発行条件に大きな差はない。だが、債券市場でもESG投資が広がる一方、発行量は不足しており、ESG債への投資需要は通常の債券よりも強い。CBIが3月末に出したリポートによると、2019年7~12月に発行されたドル建てのグリーンボンドへの投資需要は平均で発行額の2.7倍と、通常の債券(1.9倍)を上回った。ユーロ建てでも同様で投資家の需要は2.8倍と一般的な債券(2.0倍)を上回った。

グリーンボンドの発行時の金利が通常の債券よりも低くなる「グリーンプレミアム」を指摘する声もあるが、「資金使途を環境関連に限定しているだけで、低利回りを許容するのは難しい」(国内運用会社)との意見も。ESG債の投資家は年金基金や保険会社など、いったん買うとそのまま償還まで持ち続けるタイプも多く、流通市場で売買しづらいデメリットもある。

ESG債市場の拡大ペースは今後、さらに加速しそうだ。1兆ドル規模になるまで約10年かかったが、「次の1兆ドルの起債は3年程度で達成し、数年以内には四半期ごとに1兆ドルずつ増える状況になる」と国際金融公社(IFC)のジョン・ガンドルフォ副総裁は話している。

■CO2削減で「移行債」に脚光

ESG債市場の中でも昨年来、注目を集めているのが「トランジション(移行)ボンド」だ。二酸化炭素(CO2)排出量の多い企業などが、将来の排出量削減につながる事業に資金を充てる目的で発行する債券を指す。まだ明確な定義はないものの、仏アクサ・インベストメント・マネージャーズ(アクサIM)が2019年6月に、自社のガイドラインを出し話題を呼んだ。アクサIMでは炭素回収や貯留、石炭からガスへの切り替えなどをトランジションボンドの該当事業としている。

起債例も出始めた。19年11月には仏クレディ・アグリコルが低炭素社会への移行を進めるプロジェクト向けの融資資金として1億ユーロ(約120億円)をトランジションボンドで調達した。英国のガス大手カデントは20年3月に、低炭素ガスなどのためのパイプライン整備に5億ユーロを調達した。日本の社債市場でも「今年のテーマの1つ」(国内大手証券)との声が多い。

石炭火力発電が重要なエネルギー源の1つである日本では政府も後押ししている。経済産業省は3月末にトランジションボンドを含む「クライメート・トランジション・ファイナンスの考え方」をまとめ、脱炭素化を進める取り組みにも資金が流れるようにすべきだと提案。環境省も3月に改訂したグリーンボンドガイドラインでトランジションボンドは「必要に応じて、枠組みの明確化の検討を行う」とした。

もっとも、トランジションボンドを投資対象にするかどうかは投資家の間でも判断が分かれている。アクサIMなどが積極的に投資を検討しているのに対し、オランダの生命保険会社傘下のNNインベストメント・パートナーズは「環境に配慮したように見せかけるグリーンウオッシュを増やしかねない」と懸念を示す。仏ナティクシスが19年に実施したアンケート調査でも、75社のうち4割にあたる32社が「基準や参照とする脱炭素化シナリオなどの定義が曖昧なため、投資に前向きではない」と回答した。

現在、国際資本市場協会(ICMA)がトランジションボンドの原則作りに乗り出している。浸透には、ルール整備も欠かせない。

(ESGエディター 松本裕子)

「みんなのESG」は日経ヴェリタスとの連動企画。世界的に関心が高まるESGについて、知っておきたい最新トレンド、投資マネーの動き、先進企業など様々な観点から取り上げます。

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