たおやかな「上方舞」男性記者が悪戦苦闘
とことん調査隊

2020/4/14 2:01
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関西で発展してきた日本舞踊「上方舞」。花街の華やかな雰囲気を伝える京都の春の風物詩「都をどり」などでその魅力を目にすることができる。日舞といえば「ええとこのお嬢さん」のお稽古事といった印象も強いが、どんな世界なのだろうか。39歳男性記者が体験してみた。

今回、手ほどきをお願いしたのは上方舞を代表する流派の一つ山村流宗家山村友五郎さん。歌舞伎や宝塚歌劇団の振付や指導でも活躍中だ。山村流はかつて大阪・ミナミで「山村へ行く」が「舞踊のお稽古に行く」という意味で通じたほどに親しまれてきた流派。谷崎潤一郎の「細雪」にも山村流の舞いが登場する。

大阪・谷町の稽古場を訪ね、上方舞は他の日本舞踊とはどう違うのか聞いてみた。「関東では歌舞伎舞踊と表裏一体の舞台芸術として続いてきた『踊り』。それに対して上方舞は能や歌舞伎の影響を受けつつも、料亭などお座敷で楽しまれる『舞い』であると言えます」。そうした性格の差を反映し、上方舞は「抑制された細やかな動きで心情を表現するのが特徴です」。

お稽古は「動きをまねて体に染み込ませるのが一番」(友五郎さん)。ということで和服に着替えた後、先生と横並びになって結婚式などで目にすることのある「高砂」の序盤をやってみることに。

まずは正座して床に扇を置いてのお辞儀から。手を床に沿わせて引いていき手が膝の前まで来たら静止する。扇を手に持ったら、一度膝立ちになって背筋を伸ばし、膝を折って身体の角度を右斜めに向けて手を前へ。

ほんの数秒の動きだが、目線や手の角度など意識を置くポイントが多すぎて、体と意識がバラバラに。先生の動きをまねするだけなのに全身に無駄な力が入って悲しいほど体が言うことを聞かない。

山村流の舞いは「水の流れ」「やまと仮名」と形容される。先生の動きはその言葉通り床に置いた扇を取る動き一つでも、すっと外側を回るようによどみなく柔らかな曲線を描いて扇にたどりつく。

和装の機会が少ない記者には和服で美しく歩くための「すり足」も難関。すり足に集中すると上半身が上下動なく、腰のあたりから水平に押し出される感覚で前に進める。ただ、付け焼き刃のすり足を振りと組み合わせた途端、頭も体もオーバーフロー。「初めてにしては上出来」と慰めていただきつつ、高砂の序盤4分の1ほどを習う1時間強のお稽古は幕を閉じた。

日本舞踊に象徴される女性的な美とは何か。今回の取材を思い立ったのにはそんな疑問もあったが、さすがに1時間のお稽古でわかるほど甘い世界ではなかった。まず和服を着た時の自然な動きを身につけることで、徐々に美しい動きに近づいていくのかもしれない、そんな予感だけでも得られたのは収穫だった。

自分で体得するのは難しくとも、この道50年以上の友五郎さんなら答えを知っているかもしれない。上方舞の美とは、すなわち女性になりきることなのだろうか。友五郎さんに聞いてみると、歌舞伎の女形でも舞踊家でも人それぞれだろうがと前置きしつつ「女性になりきるという感覚はありません。それでも男の自分が、あたかも女性が舞っているように見せる。そこは完全に技術の領域」とのこと。

思えば、山村流の流祖は歌舞伎の振付師。女性の踊りが男性の芸能に転じた歌舞伎、歌舞伎の動きを取り入れて女性が中心の芸となった日本舞踊、その日舞を男性が舞う。性別を往復しながら展開してきた舞踊の歴史をたどるような不思議な体験だった。

関西圏なら各地のカルチャーセンターで1回4千円程度でもお稽古を始められる。まずは気軽に問い合わせてみてはいかがだろうか。(佐藤洋輔)

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