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監督業に学ぶ、新型コロナに対する心得「7つのS」

新型コロナウイルスの感染拡大によって4月7日に緊急事態宣言が東京、大阪など7都府県に出された。新型コロナという「見えない敵」との戦いは「いつまで」という先もはっきりと見通せず、神経戦の様相を呈している。巣ごもりのような生活を長く強いられるほど、身体とともに、それを支えるメンタルの力も問われるようになるのだろう。

常とは違う行動を強いられると人間はイライラが募るものだ。新型コロナで在宅勤務が増え、外出もままならず、それとともにドメスティックバイオレンス(DV)が増えているというニュースには、身につまされる思いがする。

緊急事態宣言が出された東京都などでは外出もままならず、人々のストレスが心配される(11日、人通りがまばらなJR渋谷駅前のスクランブル交差点)

ストレスフルな日常という意味ではプロサッカーの監督もそうだ。監督の座にある間、心休まる時間はほとんどない。スペインでは、そんな厳しい指導者の道を志す者に対して、7つの「S」の必要性が説かれるという。昨今の情勢を鑑みれば、今を生きる我々にも通じるかと思い、簡単に紹介してみたい。

監督の仕事で最も大事なことは、いかに感情をコントロールするかということ。それができないと良い仕事はできない。7つのSもそこに足場があり、(1)Salud(健康)(2)Serenidad(落ち着き、静けさ)(3)Sinceridad(誠実)(4)Sencillez(簡潔、シンプルさ)(5)Simpatia(同情、思いやり)(6)Servicio(奉仕)(7)Sinergia(相乗効果)と並んでいる。

(1)の健康は言わずもがなか。病気を抱えて監督という激務はこなせない。高名なジョゼ・モウリーニョ(現トットナム監督)は夜9時以降は水分しか取らないとされる。監督もアスリートの一人という考えで、選手以上に健康管理に厳しいのだろう。

モウリーニョ監督は自らの健康管理を選手以上に厳しくしているといわれる=ロイター

(2)はリーダーの常に落ち着いた言動がチームに安定をもたらすということだろう。怒りや負の感情に任せた言動、方針のぶれはチーム迷走の一因になる。(3)は言動で誠実さを伝える努力を怠らないこと。チーム運営に明確な倫理観、正直さ、正義を体現することが大事で、えこひいきなどの不実が立ちこめるとチームはあっという間にダメになってしまう。

(4)の簡潔さは、リーダーたるもの傲慢であってはならず、自信と謙虚さを同時に示すということ。選手との間に壁は築かず、近い距離感と対等な関係であることを心がける。(5)の思いやりはメンターとして当然の資質であり、(6)の奉仕の心は自分の成功だけを追い求めてはダメだということ。選手の成長をどれだけサポートできるかが大事で、いくら試合に勝っても選手のためになっていなければ価値は半減する。

(7)の相乗効果は、個人ではなく「チーム・ファースト」の考えを基盤に置くということ。チームの良い結果が個人に反映されるのと同時に、選手を個人プレーに走らせないマネジメントも重要。チームも個も皆、ハッピーという高い境地を目指す。

個人個人の創造力発揮が生む相乗効果

どうだろうか。(1)健康については家でストレッチや近所を散歩することくらいしかできないが、(2)落ち着き(3)誠実さ(4)簡潔さ(5)思いやり(6)奉仕の精神は、心がけ一つで、家の中でも、誰に対しても、体現できるのではないだろうか。むしろ、こんな状況だからこそ、今はより必要とされるかもしれない。

対新型コロナという意味では(7)相乗効果は特に重要な気がする。監督(この場合は首相や自治体の首長になるのだろう)が、いくらゲームの進め方と戦うスタイルを決めても、個々の選手がそれを無視すれば、底の抜けたバケツに水をくむようなことになる。監督の指示で足りないものがあると思えば、個人個人がそこは創造力を発揮して隙間を埋めなければならない。そうやって初めて相乗効果は生まれる。

「日本」というチームは、監督が強権を発動し、すべての動きを縛る戦い方を取りにくい。強制的にやらされるスタイルとは異なる勝ち筋を探らなければならないとしたら、個々の成員はかなり高度な要求をされることになる。本当にそんなことができるのか、疑問に思う向きもあるかもしれないが、それができたら「より創造的なプレーでチームとして勝利したよね」と言われるのだろう。

今は命を守ることが何よりも最優先だ。スポーツの出番はなく、五輪がどう、Jリーグやプロ野球がどうと言っている場合ではないのだろう。

どんなに苦しくても、プレーで感動してもらえる日が必ずやってくるというイメージをしっかり持っておくことが選手にとって大切だ=共同

活躍する機会を失った選手に言いたいのは、望む成功のイメージをしっかり持ち続けることの大切さだ。自分たちの手に負えないウイルスのことをあれこれ思い悩んでも仕方ない。そこはドクターや製薬会社に解決策を見いだしてもらう。それよりも今は手洗いとうがいを励行し、人との接触を8割減らすこと、つまり自分でコントロールできることに専念する。

その上で、どんなに苦しくても、プレーで感動してもらえる日が必ずやってくるというイメージはしっかり持っておく。自分の望むことを明確に、自分の言葉で文字にし、時には声に出してもいい。

新型コロナが終息に向かうと、人々の価値観や生きがいが変わっていく感じがする。あらためて命の大切さを思い、人間らしく、健康でおいしいものが食べられる、平和で安心安全な暮らしに勝るものはないことをかみしめる。そしてスポーツの出番がやってくる。スポーツの価値が見直される。

そういうV字回復のイメージに自分をしっかり重ね合わせて、その時に備えておいてほしい。

(サッカー解説者)

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