うどん屋の前で考える信用危機(編集長コラム)

2020/4/10 22:00

7日夜、政府の緊急事態宣言を受けて、街は火が消えたように静かになりました。

寄り道先のなじみのうどん屋も、立ち飲みビール屋もドアをぴしゃりと閉め、「休業のお知らせ」を張り出しています。

うどん屋の窓をコツコツとたたくと、店の中で計算機をたたいていた親父さんが、力なく苦笑いして肩をすくめました。売り上げが急減するなか、電気代やガス代、バイト代の支払いの工面を考え込んでいたのかもしれません。会社も在宅ワークに本格移行し、日々顔を合わせてきた同僚たちの姿も消えました。

やるせない気持ちをどこにぶつけていいのか、鬱々としたまま、週末を迎えています。

政府が宣言の発令と同時にまとめた緊急経済対策の事業規模は108兆円。うち45兆円が企業の資金繰り対策に投入されます。ウイルスの感染拡大を抑えるため、ヒトとヒトとの接触を抑えなければならない現実は、製造業から小売り・サービス業までかつてない深刻さで企業を追い詰め、そこで働く人々の雇用を脅かしています。

3月の急落後、ひとまず小康状態を保っているように見える株式市場とは裏腹に、危機の度合いを敏感に映し出しているのが、企業の信用力が取引される社債市場(クレジット市場)です。

米自動車大手フォード・モーターの信用力を示す格付けは、投資適格だった「トリプルBマイナス」から、投機的水準である「ダブルBプラス」に引き下げられました。格下げは、2008年のリーマン・ショックを上回るペースで広がっています。

この窮地を打開するため、米連邦準備理事会(FRB)は9日、2.3兆ドルの新たな緊急資金供給を発表し、社債の買い入れ対象に、リスクの高い「ダブルB」を組み込みました。一般企業への間接融資も始める見通しで、なりふり構わぬ戦時モードとなっています。

こうした欧米クレジット市場の動向は、日本の個人投資家の保有資産にも大きく影響しています。ポートフォリオにハイイールドファンドを組み入れていれば、価格変動の波を受けている可能性があります。

今回のカバー特集では「信用危機 薄氷の封じ込め」として、金融市場で最も色濃く危機を映し出す「炭鉱のカナリア」としての社債市場の最前線に迫りました。危機時には株、クレジット、為替。警戒を怠らず、複数の市場を見渡して保有資産を守る慎重さが肝要です。

金融市場から危機が世界に広がったリーマン・ショックとは異なり、コロナ危機は、世界で消費と雇用を奪おうとしています。企業と働く人々を守るため、かつてないスピードと柔軟さが政府と金融機関に求められていることを重ねて強調したいと思います。

(日経ヴェリタス編集長 塚本奈津美)

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