埋もれた作家に光当てる 金沢、独自路線で出版20年

2020/4/10 11:29
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たった一人で20年近く本の編集や販売を続ける版元が金沢市にある。世にあまり知られていない小説家や詩人に光を当て、埋もれた作品をまとめるなど、これまでに約50冊を刊行した。勝井隆則さん(65)は「出版社が作るような本をうちで出しても意味がない」と独自路線を貫いている。

1人で本の編集や販売を続ける「亀鳴屋」の勝井隆則さん。書棚にはこれまでに読んだ多数の本が並ぶ(金沢市)=共同

住宅街にある勝井さんの自宅が、版元「亀鳴屋」の仕事場だ。店舗は持たず、注文販売が中心。2階のこたつに入りながらパソコンで本の編集を手掛け、1階のリビングでは装丁や発送準備を進める。今は年3、4冊を刊行し、1冊当たり500部ほどしか刷らない。

勝井さんのこだわりは、初めて売り出した「藤澤清造貧困小説集」に凝縮されている。石川県七尾市出身の作家藤澤清造の小説を集めた本で、貧しさについての世界観を表現するため、好きな漫画家つげ義春さんの絵を表紙に使用。本を収める木箱も作り、古びた雰囲気を出そうとエゴマにすすなどを混ぜた塗料を使った。

不遇な晩年を送った作家の作品に共感するという勝井さん。その次の本は、消息不明になったとされる小説家倉田啓明の作品で、表紙に使う赤い布を全部染めるのに30万円ほどかかった。「最初は原価を考えず、手間を掛けていた」と振り返る。

勝井さんは同県羽咋市出身。東京の大学を中退後、金沢市の印刷会社に入り、雑誌の編集に携わった。30代前半で同僚と出版社を立ち上げたが、資金難などから10年ほどで行き詰まった。

「一から十まで好き勝手やりたい」。2000年にインターネットで販売を始め、年に数冊を地道に仕上げた。最近は人とのつながりの中で、面白いと感じるものも取り上げる。最新刊は、中国・北京の道端で見かける椅子に焦点を当てたエッセー集。過去に仕事を頼んだ女性が執筆、撮影した写真をまとめた。

かろうじて採算が取れるようになったのは、ここ5年ほど。会社員として働く妻の収入が生活の支えで「家計は火の車だ」と苦笑いを浮かべる。出版から10年たっても売れないものが多い。

それでも勝井さんの姿勢にぶれはない。「良い作品を世の中に知ってもらいたい」。一人での作業には限界もあるが、できるだけ形に残すつもりだ。

〔共同〕

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