原油大減産、米国に近づくOPECの賭け
編集委員 松尾博文

2020/4/10 11:45

米テキサス州のシェールオイルの採掘現場=ロイター

米テキサス州のシェールオイルの採掘現場=ロイター

サウジアラビアを中心とする石油輸出国機構(OPEC)と、ロシアなどOPECに加盟しない産油国が9日、日量1000万バレルの減産で合意した。世界の供給の10%に相当するかつてない減産規模もさることながら、この枠組みの外の米国やブラジルなど、20カ国・地域(G20)に500万バレルの減産協力を求める行動は、生産カルテルとしてのOPECの限界と変質を映し出す。

新型コロナウイルスの感染拡大による原油需要の急減ぶりは、国際エネルギー機関(IEA)が毎月発表する石油市場月報から浮かび上がる。2020年に前年比110万バレルの増加を見込んでいた需要の伸びを2月に82万バレルに下方修正した。3月には前年比で9万バレルの減少へ修正した。

需要の前年割れは11年ぶり。これだけでも市場は動揺したが、3月下旬にはIEAのビロル事務局長が「需要は2000万バレル減少する可能性がある」と発言した。世界消費の2割に相当する規模だ。実際の需要減少は、これを上回る3000万バレルとの見方もある。

3カ月で世界需要の2~3割が消えた市場で、サウジやロシアが始めた増産競争が価格急落を招いたのは当然のことだ。

際限のない増産競争で動いたのは米国だった。トランプ大統領はロシアのプーチン大統領、サウジの実力者ムハンマド皇太子に電話をかけ、減産を迫った。

トランプ米大統領=AP

トランプ米大統領=AP

トランプ大統領はかねて、OPECの生産調整による価格操作を批判してきた。しかし、急激な原油安で大統領の有力な支持基盤であるエネルギー産業は打撃を受けている。特に米国の原油増産をけん引してきたシェールオイルの生産企業は財務が脆弱な中小企業も多く、経営破綻する企業も現れた。

サウジやロシアには産油国が減産しても、「減った分を米国のシェールオイルが埋めてしまう」(ロシア国営石油会社ロスネフチ)との不満がある。しかし、シェール潰しへ覚悟の上の安値競争とはいえ、石油収入の減少はサウジやロシアの国家運営を揺さぶる。原油安が長引くほど負う傷は深くなる。

ロシアのプーチン大統領=ロイター

ロシアのプーチン大統領=ロイター

協調減産に回帰し、原油市況を安定させたいのが本音だとしても、絶対条件は米国の参加だ。10日にはG20の緊急エネルギー相会合が開かれる。G20ではロシアやサウジのほか、米国やカナダ、ブラジル、オーストラリアなどのOPECに加盟しない有力産油国もメンバーだ。この場で減産協力が取り上げられる見込みだ。

巡り合わせとはいえ、OPECの盟主であるサウジが、今年のG20議長国であるのは象徴的だ。原油市場の構図が変わるきっかけになるかもしれないからだ。

1973年の第4次中東戦争にあわせてOPECが発動した石油戦略はカルテルとしてのOPECの存在感を高めた。石油危機を教訓に消費国の集まりとして誕生したのがIEAだ。

サウジを中心とするOPECと、ロシアやノルウェーなど非OPECという産油国内の"派閥"はあれど、石油市場は産油国対消費国という構図で動いてきた。この下で機能してきた、産油国が人為的に生産量を調整することで市況を安定させる枠組みを、シェール革命が壊した。

シェールオイルの増産は世界最大の石油消費国である米国を、最大の産油国に押し上げた。しかも、シェール企業による増産や減産は市況と企業判断に委ねられている。産油国が政策判断で生産量を調整しても、もはや市場をコントロールできない。新型コロナ危機は原油市場の根っこでじわじわ進んでいた構造変化を一気に暴いた。

米国や消費国を巻き込んだ新たな市況安定の仕組みをつくりたい。それが産油国としての地位と国の将来を守る。サウジやロシアにはそんな思いがあるのだろう。しかし、反トラスト法の下でカルテル行為が厳しく禁じられる米国で国が介入し、企業が横並びで生産量を調整するのは難しい。

G20に近づくのは大きな賭けだ。原油市場で今、起きているのは、20世紀型の人為的な生産調整が、需要と供給で価格が決まるシンプルな市場メカニズムに挑む最後の戦いである。

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