主要中銀「禁じ手」踏み込む FRBが低格付け債購入

2020/4/10 4:21 (2020/4/10 8:14更新)
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未踏の政策領域に踏み出した米連邦準備理事会(FRB)のパウエル議長=ロイター

未踏の政策領域に踏み出した米連邦準備理事会(FRB)のパウエル議長=ロイター

【ワシントン=河浪武史】新型コロナウイルスにより金融危機を上回る経済悪化が想定され、世界の中央銀行が前例のない資金供給策を連発する。米連邦準備理事会(FRB)は一般企業に間接融資する緊急措置を発動。「禁じ手」とされた低格付け債の購入にも着手する。英中銀も英政府に短期資金を直接融通する。中銀による自国国債の買い入れはカナダやオーストラリアなどに広がり、新興国中銀も社債などの資産購入を決断。財政も市場も今や中銀マネーなしで成立しない。

9日の米社債市場では、買い手がつかなかった低格付け債の価格が急反発した。FRBは同日朝、2兆3000億ドルもの新たな緊急資金供給を発表したが、柱の社債購入策にリスクの高い「ダブルB」まで対象として組み込んだ。低格付け債に投資する上場投資信託(ETF)は、価格が7%も上昇し、新型コロナウイルスの影響が深刻化する前の2月の水準まで一気に近づいた。

FRBは08年の金融危機時も企業金融に踏み込んだが、購入対象は償還期間が短く格付けの高いコマーシャルペーパー(CP)にとどまっていた。中銀が損失を出せば基軸通貨ドルの信認が揺らぐだけに、高リスクの投融資は禁じ手だ。今回の社債購入では、償還期間が最大5年と長い商品も対象となり、低格付け債にも中銀マネーを供給。FRBは一気に2重のリスクをとりに動いた。

9日には6000億ドルの枠を上限に、一般企業に間接融資する措置も打ち出した。民間銀行がいったんは融資するものの、FRBがその95%分を買い取る仕組みだ。08年の金融危機時にもなかった異例の策で、FRBの責務は伝統的な金融システムの安定から、商業銀行のような「産業金融」にまで広がってきた。

パウエル議長は9日の講演で「政策を総動員する」と改めて主張した。米経済は「4~6月期に30%超のマイナス成長になる」(イエレンFRB前議長)と予想される。国際通貨基金(IMF)のゲオルギエバ専務理事も「20年の世界経済は大恐慌以来の落ち込み」と警鐘を鳴らし、政策当局に時間の猶予はない。

米量的緩和は「無制限」となり、FRBは3月だけで米国債を8380億ドルも買い上げた。FRBの総資産は3月に1兆6500億ドル拡大。4月に入っても膨らみ、8日時点で6兆ドルを突破した。今回の支援策で総資産の増加ピッチはさらに加速しそうだ。

米連邦政府は年1兆ドルの財政赤字を抱えるが、その資金供給は事実上、FRBが担う。米議会が決めた2兆ドルの景気対策には現金給付が盛り込まれたが、間接的とはいえ、中銀が家計に資金供給する「ヘリコプターマネー」と同じ構図だ。

緊急措置を繰り出すのはFRBだけではない。英中銀も9日、英政府に短期資金を直接融通できるようにすると発表した。カナダやオーストラリア、ニュージーランドなど主要中銀も、こぞって自国国債を買い取る量的緩和を開始。IMFは9日、世界各国の財政出動が8兆ドルに達するとの分析を公表。世界の国内総生産(GDP)の9%分に相当するが、その巨額の財政出動は中銀マネーで支えざるをえない。

中銀の「非伝統的手段」とされる資産購入は、政策金利の引き下げ余地のある新興国にすら拡大する。3月下旬に全土封鎖に踏み切ったインドでは、中銀が3兆7千億ルピー(約5兆4千億円)の資金を用意して社債やCPなどの購入に乗り出した。

各国当局者は「今は戦時と同じだ」(クドロー米国家経済会議委員長)と緊急措置にためらいをなくしつつある。FRBは次策として、第2次世界大戦時に実行した長期金利のコントロールを検討。20年の米財政赤字は一気に2兆ドルを突破しそうだが、トランプ大統領は「FRBのゼロ金利政策で政府資金は潤沢に調達できる」と主張する。

非常時手段は新型コロナの感染拡大が短期で収束する前提だ。ただ、インドのようにもともと不良債権比率の高い国は、中銀のリスクも一段と高まる。FRBは米財務省から4500億ドル規模の政府資金を受け取り、資金供給時の「損失吸収材」とする仕組みを敷く。バーナンキFRB元議長は「危機時に求められるのは行動する勇気だ」と繰り返すが、リスクを分散する細心の制度設計が不可欠となる。

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