競馬実況アナ日記

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情報集めは電話が頼み…地方競馬専門番組の追憶

2020/4/11 3:00
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あだ花と言ったらあまりにも悲し過ぎるか……。以前、ラジオNIKKEI(当時はラジオたんぱ)に「全国競馬最前戦」という番組があった。1993年度に1年だけ放送された番組で、現時点でこれにまつわる資料は皆無に等しい。この年を思い出したのも、兵庫・園田競馬場の楠賞全日本アラブ優駿で荒尾競馬所属のダイメイゴッツが逃げ切ったことがふと頭に浮かんだからである。今日ならあり得ない形の番組だったのだが、自分にとっての備忘録としてここに記しておきたい。

15分で地方競馬の結果を紹介

まずタイトルの「全国競馬最前戦」。「最前線」ではないかという記憶もあったが、ある新聞社が「戦」の字は新聞のラジオ欄にふさわしくないと言って正式な番組名称を載せていなかったので、前者が正解だと思う。

「全国競馬最前戦」が放送されていた1993年の交流重賞・帝王賞=地方競馬全国協会提供

「全国競馬最前戦」が放送されていた1993年の交流重賞・帝王賞=地方競馬全国協会提供

毎回15分の番組内容は、その日に全国で行われた地方競馬の重賞競走の結果を、場内実況と合わせて紹介するというもので、当時としては画期的だった。前日には当該レースの展望を、現地の日刊紙や専門紙の記者に伺った。放送は1年365日、つまり年中無休だった。記者のアポイントや実況音声を送ってもらう手配などで、毎日がてんてこ舞いだったのを覚えている。休みなどなく、いまならあり得ない勤務形態だろう。

重賞競走は全国に数多くあるが、毎日きれいにばらけているわけではない。特定の日に重賞競走が集中すると全ての実況音声を流すことができないこともあり、ファンや関係者の方々には申し訳ない思いをしたことも多々あった。「全国、いろんな競馬場に取材に行けていいね」と言われた人もいたらしいが、とんでもない。「諸般の事情で」90%以上は電話取材でやっていた。

逆に、レース展望も重賞競走も全くない日はどうするか? そんなときはとにかくネタを探した。あちこちの競馬場や解説をお願いしている記者に電話をかけまくり、何かトピックはないかと聞いていた。まだ携帯を持っている人など珍しく、人をつかまえるのが一苦労だった。

当時の中央競馬で注目を集めていたトニービン産駒が地方競馬にいれば、管理する調教師の方に電話インタビューし、中央のG2・オールカマーに地方馬が出走する際には特集を組んだりもした。地方競馬全国協会(NAR)の年次表彰であるNARグランプリはネタの宝庫で、手あたり次第にインタビューを収録した。これも今となっては……やはり苦しかった思い出だ。

では、肝心のレース実況音声はどうしたか? 現地にマイクと録音機(当時はカセットテープレコーダー)を送って録音してもらい、それをテレフォンカプラーという機材を使って送ってもらっていた。テレフォンカプラーとはいわばケーブル付きのミニスピーカーで、ケーブルを録音機のイヤホンジャックに差し込み、反対側についている小型スピーカーを電話の送話器にゴムで固定し、テレピックという機械を通じて会社のオープンリールのテープに録音する。今日では考えられないほど、「超」原始的手法で入手していた。まだまだネットとは縁遠い時代だったから当然である。

「全国競馬最前戦」で使用されたいかにもアナログな機器

「全国競馬最前戦」で使用されたいかにもアナログな機器

レース結果は各競馬場の主催者にファクスで送ってもらった。優勝馬の血統、生産牧場などの情報も、主催者からの馬登録事項照会という書類で確認するというレトロな手法だった。時には勝利騎手インタビューまで現地にお願いするような荒業もあった。

番組が放送されていた当時は中央との交流競走など極めて少なく、おかげで地方には数多くの「秘密兵器」が存在した。交流が少なく情報も届かなかった分、夢も膨らんだ時代だった。冒頭で「あだ花」と書いたことを覚えておいでだろうか。あだ花には「咲いても実を結ばない花」という意味もある。当時、必死でかき集めていたレベルをはるかに上回る詳細な情報を、今は各競馬場がリアルタイムで発信している。しかも、レース映像まである。今や中央・地方を問わず全国のレースの馬券を、ネットで買うことができる。それもスマホ一つで。それを思うと時代を感じるし、やはりあれは「あだ花」と言える番組だったと思う。

ファンが馬券を買いたくなる番組を

ありがたいことに、中央競馬の生中継は今日まで、多くの聴取者の支持をいただいている。いま、音声媒体の中継以外の競馬情報番組をつくるとしたら、どんなものが求められているのか? 簡単ではないが、ざっくり言えば、ファンの方々がレースに興味を感じ、馬券を買いたくなるような番組だろう。

自分自身ラジオが大好きで、毎日、結構な時間ラジオを聴いている。すると各局、試行錯誤を繰り返している様子が伝わってくる。もちろん競馬に関係のない番組も含まれる。スマホやパソコンで放送を聴けるラジコ(radiko)の登場で、音声媒体の聴取スタイルは激変した。従来は聴取者と電話やファクスでつながるリアルタイムの双方向性が一番の売りだったはずが、それぞれが好きな時間に好きな番組を聴く、テレビの録画視聴のような形にシフトしつつあるのだと感じる。

ラジオマンである自分達にこれから何ができるのか? メディアそのものが変化を続ける中、結論などあろうはずもない。ラジオマンである限り、聴取者が求めるコンテンツを感じ取るアンテナを張り続けるしかない。温故知新ではないが、かつての番組から、ラジオの現状についても考えてみた。

(ラジオNIKKEIアナウンサー 檜川彰人)

 各アナウンサーが出演、ラジオNIKKEIの競馬番組はこちらでチェック! http://www.radionikkei.jp/keibaradio2/

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