球場が呼んでいる(田尾安志)

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元選手をコミッショナーに 問われる球界の危機管理

2020/4/9 3:00
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新型コロナウイルスの影響で大半の試合が無観客で行われたプロ野球のオープン戦では、球場に響く打球音や捕球音がひときわよく聞こえた。にぎやかな応援の陰に隠れがちだった音の迫力は、テレビ越しに見るファンの人たちにプロのすごさを改めて伝える効果があったように思う。

打球音や捕球音が響く無観客のオープン戦にはプロのすごさを改めて伝える効果があった=共同

打球音や捕球音が響く無観客のオープン戦にはプロのすごさを改めて伝える効果があった=共同

だが、レギュラーシーズンの開幕が延期され、練習試合も行われなくなった今、その球音さえも耳にすることがなくなった。当初は3月20日とされていた開幕予定日は「4月10日以降」「4月24日」と後ろにずれていき、ついにはめどの時期さえ定められず、白紙になった。

先の見えない事態に直面し、12球団は様々な対応を迫られた。練習試合の中止、全体練習の取りやめ、活動停止に自宅待機……。2月のキャンプから状態を上げてきていた選手たちは開幕日という目標を失った上に、自宅待機などで練習環境が制約され、どこがゴールか分からないマラソンを走っているような思いだろう。

開幕の遅れで143試合の消化が難しくなってきた中、試合数の確保へダブルヘッダーの可能性が取り沙汰されている。ただ、導入のハードルは低くない。ペナントレースの試合数が増えた上にクライマックスシリーズがつくられ、選手の負担はかつてと比べて格段に増した。そこでダブルヘッダーもとなると肉体的にはかなり厳しく、次のシーズンにもダメージが残りかねない。

オープン戦が無観客となり、開幕のめども立たなければ、今季の球団収入の大幅な落ち込みは必至。ダブルヘッダーの議論は一試合でも多く実施したい経営側の意向の表れで、その思いはよく分かる。ただ、選手サイドからすると、パフォーマンスの維持に不安が残るダブルヘッダーは容易には受け入れがたいだろう。

12球団代表者会議の構成メンバーはフロント幹部で、プロの選手経験はない=共同

12球団代表者会議の構成メンバーはフロント幹部で、プロの選手経験はない=共同

プロ野球の意思決定機関であるオーナー会議や12球団代表者会議、実行委員会の構成メンバーは各球団の代表者たち。プロの選手経験のない人たちに、選手の立場に立った議論を求めることが無理な話なのかもしれない。せめてコミッショナーが仲介者の役割を果たしてくれるといいのだが、現在の斉藤惇氏は野村証券副社長や産業再生機構社長を務めた人で、やはりプロ野球の経験はない。

野球協約で、コミッショナーはプロ野球の組織全体の利益のために関係団体などに「指令を発することができる」と定められており、コミッショナーはプロ野球界の頂点に立つ。だが、重要な事柄を決める議論をリードしているのは球団代表らで、コミッショナーの影は薄い。

新型コロナを巡っては、感染防止へ早々と活動休止を決めたチームがあった一方、全体練習をしばらく続けたチームがあるなど、足並みがそろっていなかった。チームによって仕上がり具合に差があれば、たとえコロナ禍が終息したとしても開幕を迎えられるはずはない。例えば、コミッショナーが全球団の一斉活動休止を指示すれば公平性が保たれるが、そのようなリーダーシップは今のところ見られない。

大きな問題が起きた時にいつも思うのが、コミッショナーの存在感の小ささ。強大な権限が与えられていながら、実態は球団代表たちが決めたことを追認するにとどまっているイメージが強い。サッカーJリーグの村井満チェアマンや、バスケットボールBリーグの大河正明チェアマンが先頭に立っているのと比べても存在感は薄い印象だ。

コミッショナーには球団任せでない確かなリーダーシップが求められる(写真は斉藤惇コミッショナー)=共同

コミッショナーには球団任せでない確かなリーダーシップが求められる(写真は斉藤惇コミッショナー)=共同

選手の心情を理解し、球団任せでない確かなリーダーシップを発揮するためには、選手経験者がコミッショナーに就くべきだと考える。開幕の時期が定まらないことに加えて、調整もままならず不安を抱える選手が少しでも安心できるメッセージを送れるのは、プロ野球界に身を置いた経験のある人間しかいない。同じ野球人だから選手に届くメッセージというものがある。

日本オリンピック委員会(JOC)の山下泰裕会長の言葉に説得力があるのは、かつての競技者として、世界の柔道界の頂点に立った人間として、現役選手の胸の内が自分のことのように分かるからだろう。目標にしてきた東京五輪の開催が1年先延ばしになり、多くのアスリートが戸惑いを覚える中、日本のボイコットで1980年モスクワ五輪に出られなかった山下さんの言葉が重みを持つのは当然ともいえる。

もちろん斉藤コミッショナーや球団幹部も選手のことを考えて動いてくれているはずだが、背広組がユニホーム組の思いを理解するにはどうしても限界がある。経営側の論理に、選手経験者であるコミッショナーの野球人ならではの視点が合わされば、難局を乗り越えるのにユニホーム組と背広組、さらにはファンの人たちが納得できる知恵が生まれるはず。新型コロナの問題が、野球界は誰のものか、組織はどうあるべきかを考える機会になってくれればと思う。

(野球評論家)

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