欧米でマスクへの評価が急上昇 着用義務化の国相次ぐ

日経ビジネス
2020/4/8 2:00
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東欧諸国では外出時のマスク着用が義務づけられている。スロバキアでは新政権が誕生し、就任式典の際に閣僚全員がマスクを着用した(3月21日、ブラチスラバ)=ロイター

東欧諸国では外出時のマスク着用が義務づけられている。スロバキアでは新政権が誕生し、就任式典の際に閣僚全員がマスクを着用した(3月21日、ブラチスラバ)=ロイター

日経ビジネス電子版

欧米で新型コロナウイルスがまん延する前は、「集団での着用は奇妙」、まん延後は「予防効果なし」といわれたマスクの評価が急上昇している。

インパクトが大きかったのは、米国の方針転換だ。トランプ米大統領は3日、新型コロナの感染拡大を抑えるため、外出時にマスクの着用を国民に推奨すると発表した。従来はマスク着用を勧めていなかったが、無症状の感染者が他者にうつすリスクの低減を重視し、従来の方針を転換した。

実はその前からマスクの効能は、欧州各国で着目されている。チェコやスロバキア、オーストリアなどの東欧諸国では新型コロナ対策としてマスク着用を義務化する国が増えている。

チェコでは3月19日から、外出時にマスクやスカーフなどで口と鼻を覆うことを義務づけた。免除規定は1人で車両に乗る場合と2歳以下の子供だけという徹底ぶりだ。

チェコ保健省は、国民に対して様々な媒体を使ってマスク着用を説明している。ビデオメッセージではナレーターが、「ほんの数日前はマスクをした人たちを笑っていました」と正直に明かした上で、多くの専門家の証言を紹介して、その効用を訴えている。

また、「店舗にはマスクが売っていませんよね」と共感した上で、「自家製マスクですら部分的に効果がある」とし、自家製の製作や着用を呼びかけている。自家製マスクの製作やSNS(交流サイト)を通じた情報共有が広がっているという。チェコは4月5日時点で新型コロナの感染者が4543人、死亡者が67人と比較的少なく、保健省はマスク着用がその要因の1つと分析している。

スロバキアでは3月中旬に新政権が誕生し、就任式典の際に閣僚全員がマスクを着用し、話題となった。女性大統領であるズザナ・チャプトバ氏は、ドレスと同じ、紫色のマスクを着用していた。

異なる理由ながら、マスクへの評価を180度転換させたのがオーストリアだ。同国では3年前に治安の確保などの理由で、公共の場でマスクなどで顔を覆うことを禁じる「覆面禁止法」を制定していた。ところが、新型コロナ対策としての効能に着目し、4月1日からスーパーや薬局などに入店する際の着用を義務付けた。

クルツ首相は「マスク着用が我々の文化には異質であることは十分分かっている。一刻も早く通常の状態に戻って経済を機能させるために国民は団結し、できることはすべてしなければならない」と語った。今後、外出時のマスク着用を義務づけることを検討している。

■フランス政府がイタリア、スペインへのマスク輸出を禁止

マスクの効能を評価する研究発表も相次いでいる。米マサチューセッツ工科大学の研究者は3月に、咳(せき)やくしゃみによってどれくらいの飛沫が飛ぶかを測定。小さな飛沫は咳で6メートル、くしゃみで最長8メートル飛び、マスク着用によって感染リスクを低減できるとした。

香港大学などの研究グループは3日、医療用マスクの着用がウイルスの拡散を抑える効果があるとの実験結果を米科学誌「ネイチャーメディシン」に掲載した。新型コロナに対しても効果があるとみられる。

ただ、マスクへの評価の急上昇は、国際的なマスク争奪戦に拍車をかけるという悩ましい面がある。

マスク不足を受け、世界でマスクの大増産が始まっている。既存のメーカーのほか、石油メジャーの米エクソンモービルや、高級ブランド「イヴ・サンローラン」を傘下に持つ仏ケリング、日本の家電大手シャープなど様々な業種の企業がマスク生産に乗り出している。それでも、急増する需要に追いつかない状況だ。

欧州ではイタリアとスペインで特に感染者と死亡者が多い理由の1つとして、医療現場でマスクなど医療器具が不足している点が挙げられている。

欧州連合(EU)はこうした国々の支援を掲げるが、加盟国間でマスクの取り合いが起こっている。スウェーデンのヘルスケア会社、メンリッケはフランス経由でイタリアとスペインの医療従事者にマスクの供給をしようとしたところ、フランス政府から輸出を禁じられ、マスクを押収されたと非難した。代替手段としてベルギー経由で運送することを検討しているという。

メンリッケやスウェーデン政府などの抗議があり、その後に禁輸措置は解除されたと同社は発表。また、フランスからスイスへのマスク輸出についても同様の問題があったが、両国政府が協議し、供給できるようになったようだ。これは、マスクがどの国にとっても貴重な物資で、EU域内であっても輸出を禁止することがあり得ることを示している。

また、米国が買い占めに動いているという指摘は多い。ロイター通信によると、米国が世界中からマスクを買いあさっており、最大の生産国である中国に市場価格を大幅に上回る値段を払い、既に契約を結んだ欧州の国から契約を奪い取ることもあるという。

さらにマスクの需給が逼迫しているため、粗悪品をつかんでしまう事例もある。オランダ保健省は3月下旬、中国製のマスク60万枚をリコールしたと発表した。中国から輸入したマスクに装着の不具合や、フィルターに不備があったため、使用を取りやめたという。

■WHOはマスクの評価を変えたのか

これまで一般の人々のマスク不要論の論拠になってきたのは、世界保健機関(WHO)の指針だ。WHOは2月末に、感染予防についてマスクなどの適切な使い方の指針を公表。医療現場でのマスク不足を防ぐために、症状がない人は予防目的でマスクを着用する必要がないと指摘していた。(「感染予防にマスク着用不要 過度の使用控えてとWHO」参照)

ただ、4月3日の会見では、WHOで緊急事態対応部門を統括するマイケル・ライアン氏はマスク着用について質問を受けると、一般の人のマスク着用について「オープンに議論する必要がある」との認識を示した。「医療従事者向けのマスクが不足する事態は避けなければならないが、社会的な距離を保つことができないなど状況によってはマスクを使うことで感染率を下げることができる。マスクをすることは悪い考えではない」と語った。一般の人のマスク着用を勧める国が増えつつある中で、WHOは広範なマスク着用の効用を示唆しているようだ。

■安倍政権の布マスク配布に批判が集まる

日本ではマスク不足が深刻であり、安倍晋三首相が4月1日、全世帯に布マスクを2枚ずつ配布すると表明したことに批判が集まっている。確かに枚数やコミュニケーションという点では問題点が多そうだ。

その中で、一部メディアが布マスク使用について「WHOはどんな状況においても勧めない」と書いた記事については、さらなる混乱を招く恐れがある。WHOのこの指摘は、医療従事者向けのガイダンスを指しているとみられ、3日の会見でライアン氏は、「手作りのマスクや布製のマスクを使用することは、新型ウイルス感染拡大の全般的な対応に役立つ可能性がある。そうした政府の決定をWHOはサポートする」と述べている。

つまり、WHOとしては医療従事者向けと一般向けでマスクへの評価を切り分け、供給の優先順位を説明している。だが、世間ではこれまでマスクとして一緒くたに扱われてきてしまったきらいがある。WHOは正確に説明してきたつもりかもしれないが、これだけ判断が分かれ、生活者にとって密接な問題に対しては、繰り返し説明しなければ誤解を招く恐れがある。

米国では米疾病対策センター(CDC)が新指針を公表し、無症状の人にも「顔を覆う布をかぶることを勧める」とした。高性能マスク「N95」など医療用マスクは使わず、市販の簡易マスクやスカーフなどを使うことを求めた。チェコ政府が国民にマスク着用義務を求める際も、自家製マスクの使用を推奨している。ただ、欧州ではマスクに慣れていないせいか、街中で一般の人が高性能マスクを着用している姿を見かけることが少なくない。

各国政府や国際機関の呼びかけによって、マスクの需要は大きく変動する。供給が追いつかないなかで、世界中の人々が高性能マスクを買い求めれば、医療従事者にマスクが十分に行き届かなくなり、院内感染などが広がり、大きな被害につながりかねない。新型コロナ対策として世界的にマスク着用が再評価される中で、マスクの種類とその効能の違いを周知徹底することが、ますます重要になりそうだ。

(日経ビジネス 大西孝弘)

[日経ビジネス電子版2020年4月6日の記事を再構成]

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