大阪の映写技師 映画のフィルム上映、指が知る
匠と巧

2020/4/6 2:01
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映写機にフィルムを装着し、スクリーンを見ながらピントを合わせる見習いの寺本さん=目良友樹撮影

映写機にフィルムを装着し、スクリーンを見ながらピントを合わせる見習いの寺本さん=目良友樹撮影

映画の製作と上映の大半がデジタルに移り変わった。そんな中、フィルム上映にこだわり続けるのが大阪市の九条にあるミニシアター、シネ・ヌーヴォだ。映写技師たちが職人技を受け継いでいる。

3月の下旬のある朝。階段を上り、客席後ろの上にある小さな映写室に足を踏み入れた。暗い室内にランプの柔らかな光だけがともり、映写機の音がカタカタと響く。イタリア映画の名作「ニュー・シネマ・パラダイス」を思い出した。フィルム上映する際、こうした開館前の試写が日課という。

「ビスタサイズね」。映写主任の高橋秀彰さん(39)が、フィルムの縦横比に合ったフレームの指示を出す。手を動かすのは寺本香英さん(24)。2月にシネ・ヌーヴォに入ったばかりの見習い映写技師だ。寺本さんがフィルムを装着し終えると、高橋さんが映写機のあちこちを手で触る。「フィルムが張りすぎていないか、ちゃんと送り出されているか、指の感触で確かめる」ためだ。

試写が始まった。寺本さんが真剣なまなざしでスクリーンを眺める。ピントが合っているか、画面にブレがないか。手元で微調整をする。本番では劇場に入り音声もチェックする。満員だったり、冬で観客の服装が分厚かったりすると音が吸収されやすいので、音量を上げるためだ。

上映以外にも仕事は数多い。配給会社から届くフィルムは、直径30~40センチほどの缶に入る。2時間の作品ならば6~8巻。それを直径90センチほどのリールに全て巻くために、テープでつなぎ合わせ、切れている箇所があれば修復する。

「酸っぱいフィルムが届いた時は要注意」。フィルムは劣化が進むと、酢のようなツンとした臭いを放つ。本来はツルツルしているはずのフィルムが波打つ。そんなときは大きなリールに巻けないため、ひと巻ずつ、2台の映写機を切り替えながら上映する。「緊張するけど、フィルムでしか見られない昔の作品も多いので、上映できたときは特にうれしい」(高橋さん)

「フィルム宣言」――。1997年に開業した同館は、こんなキャッチフレーズを掲げる。支配人の山崎紀子さん(43)は「今は新たに製作される映画のほとんどがデジタル。そんな中で、シネ・ヌーヴォはフィルムを続けるということをアピールしたい」と語る。

日本映画製作者連盟の統計(2019年)によると全国の映画館スクリーンの98%がデジタル設備を導入している。シネ・ヌーヴォもデジタルに対応しているが、名監督や名優の特集を絶えず企画。上映の3~4割がフィルムだ。受付など他業務との兼務を含め映写技師は5人と、2スクリーンの小さな映画館としては手厚い。

「古い映画が好き」という寺本さんはもともと同館の大ファン。関西のミニシアターを応援する学生の団体「映画チア部」にも所属した。憧れの映写技師の道を歩み始め「作業は難しいけど楽しくて、やりがいしかない」。スクリーンに、希望に満ちた表情を向けていた。(西原幹喜)

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