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ウィズ・コロナ時代の投資戦略 藤野英人氏に聞く

相場急落前に現金比率増 「ひふみ」の危機対応力

世界の株式市場を激しく揺るがしているコロナ・ショック。その最中、人気投資信託「ひふみ」シリーズを運用するレオス・キャピタルワークスが相場暴落の直前に現金比率を大幅に高めていたことが市場関係者の間で話題になった。なぜレオスは危機の到来に先手を打てたのか。今後の株式市場の展望も含め、藤野英人社長に聞いた。

レオス・キャピタルワークスの藤野英人社長

感染拡大下の欧米市場の楽観に危機感

――レオスは2月中旬から、ひふみ投信、ひふみプラス、ひふみ年金のマザーファンドである「ひふみ投信マザーファンド」の現金比率を急激に高め、暴落直前の2月下旬には全体の約30%が現金になりました。なぜこのタイミングで決断したのですか。

1月時点では現金比率を大幅に高めることは考えていなかった。ひふみは相場変動には銘柄の入れ替えで対応するのが基本だからだ。ただ、2月14日に私の「妖怪アンテナ」がビビッと立った。これは、これまでの危機とはマグニチュードがまるで違うものだと直感した。

ちょうどその前日に、海外渡航歴のない千葉県在住の人が新型コロナウイルスに感染したというニュースがあった。これを知った時、新型コロナの感染拡大を止めるのは難しいと感じた。当時中国・武漢市のロックダウン(都市封鎖)が話題になっていたが、恐らく日本や世界の各地で同じようなことが起きるだろうと予感したのだ。

都市封鎖で消費の減退とサプライチェーンの停止が同時に発生すれば、破壊的な打撃が経済にもたらされる。少なくともリーマン・ショックに近い事態になると判断し、危機に備えて現金を一気に高めることにした。2月下旬のピーク時で、ひふみの現金比率は約30%にまで達した。確保した資金は過去最高の約2000億円。市場への影響が出ないよう、15日間に分けて少しずつ市場外で売却した。

――「妖怪アンテナが立った」とは、具体的にどういうことなのでしょうか。

過去の経験から来る危機を察知する直感のようなものだ。投資先企業に対して「ここは危ない」と根拠なく感じることがあるが、そういう時は大体当たる。イベントに対して「アンテナ」が立つことは珍しいのだが、今回はかなりの確信度があった。社員も私の決定に同意してくれた。

相場暴落が来ると確信できたのは、新型コロナの感染拡大にもかかわらず2月中旬の米株式市場ではまだ楽観が支配していたことが大きい。当時の欧米では、新型コロナをアジアの風土病と捉えていた傾向が強かった。実際患者数もまだ少なかったが、これは過小評価だろうと思った。そして、感染拡大が意識されるまでの10日間前後が絶好の売りの好機だと考えたのだ。

景気敏感株を売り「巣ごもり銘柄」を買う

――確保した資金はもう使い始めているのですか。

3月末時点での現金比率は約20%にまで落としている。既にひふみの組み入れ銘柄はかなり入れ替えた。

ひふみシリーズは日本株中心の「ひふみ投信」「ひふみプラス」「ひふみ年金」と、19年に設定した海外株投信「ひふみワールド」「ひふみワールド+」の5本。販売会社で購入できるひふみプラスの純資産額が最も多く4428億円(4月2日時点)

具体的には、これまで組み入れていたGAFA(グーグル、アップル、フェイスブック、アマゾン・ドット・コム)などの米ハイテク企業やソニー(6758)、アンリツ(6754)などの景気敏感株は全て売って現金化した。逆に、これまで買っていなかった米ドミノピザ(DPZ)やインターネット会議システムを手掛ける米ズーム・ビデオ・コミュニケーションズ(ZM)を一気に買った。この2社は2月末の組み入れ上位の1位と2位だ。

現金は下げ局面では強いが、相場が反転しても現金として持ち続けていては参考指標としている東証株価指数(TOPIX)やライバル社のファンドに負けてしまう。だから下げた所で買える銘柄は買っていくつもりだ。

――ドミノピザもズームも巣ごもり関連株ですね。

コロナ・ショックで世の中は大きく変わっていくだろう。今ではその衝撃度はリーマン・ショックの約10倍で、1929年に起きた世界大恐慌に近いものだと感じている。そこで社会がどのように変わるかを想像できるかが、今後の銘柄選別の鍵だ。

コロナ・ショックは簡単には沈静化しないとみている。いつ収束するかは専門家ではないので予測できないが、新型コロナと闘う局面である「ウィズ・コロナ」時代はどんなに短くても半年、長ければ数年は続くと覚悟している。

新型コロナの感染力の強さからして、社会はロックダウンとその解除を何回も繰り返すことになるのではないか。仮に解除したとしても、武漢市のように体温センサーによる管理体制下に入るなど経済活動は制限されるだろう。そうした中、巣ごもり関連銘柄は今後大きく成長するとみている。今私が意識しているのは、この「ウィズ・コロナ」時代の到来だ。

――「ウィズ・コロナ」時代で巣ごもり以外に注目されそうな業種はありますか。

世界的な景気後退局面では金融政策は効かない。新型コロナで需要自体が大きく落ち込むことが景気後退の原因だからだ。これに対応するには、世界大恐慌時に米ルーズベルト政権が打ち出したニューディール政策に近い対策が必要だろう。つまり、公共投資による需要の創出だ。既に米トランプ政権が200兆円の公共投資を打ち出しているが、世界各国でこれに追随する動きが出るとみている。

この「21世紀版ニューディール」では、公共投資の向かう先は土木だけでなくインターネット分野にも広がるだろう。具体的には5G(次世代通信規格)時代の到来に向けたデータセンターや基地局の増強だ。それに伴う電子部品の需要も増えるだろう。これらは巣ごもり消費の強化にもつながるものだ。2018~19年にも5Gは注目されたテーマだったが、「ウィズ・コロナ」の側面から改めて物色されるだろう。

厳しい環境を生き抜けば未来は明るい

――「ウィズ・コロナ」時代で経営状況が悪化する企業が増えそうです。

社会の大幅な変化に耐え切れるかという観点からの銘柄選別は、これまで以上に重要になるだろう。私はこれを「インベストメント・トリアージ」と呼んでいる。どういう銘柄が生き残るのかを取捨選択しなければいけない。

今のところ、幾つか判断するポイントはある。まず、バリュエーションが高過ぎないということだ。こうした危機の局面では、高バリュエーション銘柄はどうしても売られやすくなる。現預金比率など経営の健全性も重要になってくるだろう。

そして何より、ビジネスモデルが「ウィズ・コロナ」時代に適応するかどうかだ。先ほど述べたように、在宅勤務や巣ごもり消費に関連したビジネスは生き残る余地がある。逆に体験を伴う「コト消費」関連の業種は今後も経営環境が厳しくなるだろう。具体的にはエンターテインメント関連やホテルなど観光関連だ。

――新型コロナの問題が沈静化した「アフター・コロナ」時代はどうなるのでしょうか。 

今は「ウィズ・コロナ」時代の長期化を想定しているため、ポートフォリオに「アフター・コロナ」時代の到来は織り込んでいない。ただ、完全に収束すれば巣ごもりからの反動で一気に消費は爆発するはずだ。起業のチャンスも増えるだろう。知り合いの起業家には、今を生き残りさえすれば先は明るいと言っている。とにかく今は生き残ることが第一だ。

これは投資家についても言えることだ。今の急落局面は厳しい。ただ今の暴落局面は、長期投資家にとっては間違いなく買い時だ。「アフター・コロナ」でやってくる強気相場を信じ、マーケットから退出せずに諦めずに残ることが大事な局面だ。地道に積み立てをやっていくのが、一番報われることになるかもしれない。

SBI傘下入りで海外展開加速も

――ひふみの運用に個人投資家の注目が集まる中、SBIホールディングスがレオスを子会社化すると発表しました。これまで独立系運用会社という点を売りにしてきただけに、SBI傘下入りに不安の声も上がっています。

実はレオスの大株主で、金融事業などを手掛けるISホールディングス(東京・千代田)から、株式を手放したいという話が昨秋からあった。同社が別のビジネスをやるための資金を必要としているということもあった。

そこで、どこに株式を買ってもらうかとなった。手を挙げる会社は多かったが、今後10年で見たときに証券市場で生き残れる会社はどこかと判断すると、SBIになった。

傘下入りしても私は経営を続けるし、レオスが何か大きく変わることはない。そもそも、ISの株式売却先については私が拒否権を持っていたので、望む相手でなければ子会社化はあり得ない。

SBIの北尾吉孝社長も私もオーナー経営者という共通点があるので話は通じやすい。何より、「結果を出してさえいればそれでいい」という考え方が共通だ。彼からは「自由にやってくれ」とも言われている。私のやり方を尊重してくれるのはありがたいことだ。

――SBI傘下入りのメリットは。

SBIとのシナジーは非常にあると感じている。SBIは優良投信を得られて、レオスは販売チャネルを拡大する機会が得られる。海外進出の際のメリットも大きい。一から拠点を立ち上げるにはコストが重いが、SBIと一緒にやることで彼らが海外に持つリソースを使うこともできる。一緒にロボアドバイザーをやろうという話も持ち上がっている。互いに成長できるウィンウィンの関係になれるだろう。

レオスのIPO(新規株式公開)計画については、2018年末に予定していたものが中止になって以来止まっている。IPOへの意欲はあるが、SBI傘下に入ったことで親子上場という問題は生じている。そこは東証のルールに沿ってやることになるだろう。

(聞き手は川路洋助)

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