新型コロナ、若者が次々に重篤化 NY感染症医の無力感 - 日本経済新聞
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新型コロナ、若者が次々に重篤化 NY感染症医の無力感

新型コロナウイルスが世界で猛威を振るう中、欧米で注目が集まるのは、高齢者だけでなく若年層の感染や死亡の報告が増えていることだ。米国では、2020年3月24日にロサンゼルスで17歳の男性が、25日にはサンディエゴの自宅で自主隔離中だった25歳の男性が新型コロナ感染症で死亡しているのが発見された。28日にはイリノイ州で0歳児の死亡も報告されている。

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米ジョンズ・ホプキンス大学の統計によると、4月1日(米東部時間)午後10時現在、世界の新型コロナ感染者は93万人超、死者は4万7000人を超えている。国別の感染者では米国の21万5417人が最多で、その4割をニューヨーク州が占めている。

ニューヨーク近郊の大学病院で日々、COVID-19(新型コロナ感染症)の治療に当たる感染症専門医の斎藤孝医師に、新型コロナのアウトブレイクの現状を聞いた。

――新型コロナウイルスのアウトブレイク(集団感染)があってから、どのような生活をしているのでしょうか。

週末も全て出勤でしたが、今日はようやく午前中だけ時間が取れました。昨日までオンコール(緊急時のために時間外も待機すること)で、その翌日は午後から出勤することになっているので。

現在は、ニューヨーク市から川を挟んで隣のニュージャージー州の大学病院で、臨床医をしながら感染症指導医も務めています。2カ月前までは、現在、新型コロナ感染症の患者さんが最も多く入院している病院の一つ、ニューヨーク・プレスビテリアン・クイーンズ病院に勤務していました。

状況が変わったのは2~3週間くらい前でしょうか。先週は特にきつかったのですが、今週はもっときつくなると思います。何百人という数の患者さんが次々に入ってきている状態です。

検査も追いついていません。時間を追うごとに数字がどんどん変わるので正確には言えませんが、現時点で200人くらいの患者さんが入院していて、そのうち重篤患者さんが40人くらいではないかと思います。ICU(集中治療室)のベッドがほぼ埋まっています。

現在はICUをCOVID-19の患者さんだけにして、別の疾患の患者さんには、別の部屋に機材を入れて一時的に移ってもらっています。感染リスクがあるので同じ部屋に入ってもらえないからです。

COVID-19は空気感染はしないものの空気中に3時間以上存在すると言われているので、空気感染の場合と同じように陰圧をかけた特別な部屋に入ってもらっています。限られた病室でしか対応できないのはこのためです。手術も急を要さない限り、全てキャンセルしています。

医師は曝露していても熱がない限り働き続ける

ニューヨークの病院でCOVID-19の患者さんが多い所では、看護師も医師もウイルスにエクスポーズ(曝露)しているので人手が足りていません。

当初は、エクスポーズしたら14日間は自宅待機という決まりになっていましたが、現在は熱や咳(せき)などの症状がなければ働いていいということになっています。14日間待機の時は、人手があまりにも足らず、外科医が内科の患者さんに目配せするような末期的な状況だったと聞いています。

私の勤務先でも熱が出たら自宅待機になるので、皆、しょっちゅう熱を測って自分の体調を確認しています。

防護具も足りていません。ニューヨークもニュージャージーと同じだと思いますが、「N95」のマスクが全然足りない。本来は患者1人に対して使い捨てをするのですが、私はかれこれ1週間は使っています。表面をアルコール消毒したり、サージカルマスクという日本で皆さんが着けているようなマスクを上から装着して、それを使い捨てにしたりして対応しています。

テレビの映像で見ると、欧州や中国の医師は体をすっぽり覆う大がかりな防護服を着ていますが、こちらでは初めからそんなものはありませんでした。皆、とても簡易な装備で仕事をしているのです。

看護師は、1日に10回くらいはICUの部屋に入って、1回当たり10分くらいは中にいますから、いつ感染してもおかしくない非常に危険な状況です。ER(緊急治療室)のドクターでも入院している人が何人もいます。かなり重篤化するケースも出ています。

20~40代の患者が急増している

――症状がなければ働く。しかも軽装備では医療従事者は不安ではないですか。

はっきり言って、怖い。怖くなってきている。

というのも、今は感染症にかかって入院してくる患者さんが20~40代ばかりだからです。これまでは、65歳以上の高齢者や心臓や肺に疾患を持っている人が中心でしたが、今はそうではなくなっています。

なぜかは分かりません。何も治療歴のない健康そのものの屈強な男たちがいきなり、急性呼吸不全(ARDS)になって自発的な呼吸ができなくなり、重篤化、死に至るというようなケースを毎日のように目の当たりにしています。

ICUでは1日に何度も「ラピッド・レスポンス(Rapid Response)」と呼ばれるコールが鳴り響いています。ラピッド・レスポンスというのは、患者が心肺停止など容体急変の時に用いられる「コードブルー」の前の段階で、血圧の急低下や意識の混濁など、心肺停止前の変化を看護師たちが察知して緊急信号を発します。そうなったら、担当の医師チームが集まって処置をします。

退院が近いと思われた患者もいきなり重篤化

このラピッド・レスポンスは毎日ありますが、最近は回数が急増しています。特に先週末はひどかった。大丈夫そうだな、退院は近いかな、と思うような患者さんでも、いきなり重篤化するのがCOVID-19の恐ろしいところだと感じています。

もちろん、こうした患者さんに対して何もしていなかったわけではありません。呼吸状態を見て、血中酸素濃度の数値がある基準を下回った場合は、治験中の薬を投与することもします。効く場合もあるのですが、重篤化している場合は全く効きません。

若い人を助けてあげたいけど、全然ダメ。かなり急激に悪化して、戻ってこない。そんな場面が続くと、無力感にさいなまれます。

だからでしょうか。医療従事者たちは皆、逆にハイになっているような気がします。しょうもないことを言って、互いを笑わせたりして……。

――COVID-19は他にどんな特徴があるのでしょうか。

似ているのは03年ごろに流行した重症急性呼吸器症候群(SARS)です。ウイルスが空気中に3時間くらい浮遊することができるなど、今回のウイルスと特徴が似ています。コロナウイルス自体は風邪の原因にもなっているものですが、それに毒性の高いものが加わって、SARSや中東呼吸器症候群(MERS)、COVID-19の原因となっているのです。ウイルスそのものが体に直接的にダメージを与えるのではなく、ウイルスによって体の免疫システムがオーバーリアクト(過剰反応)した状態になり、それで多臓器不全などに陥るのです。

今回のウイルスはまだ分かっていないことが多いのですが、現場で感じるのは非常にたちが悪いということ。感染力が高く、重症化すると助けることが難しい。

大学病院が多く、研究データが豊富で感染症の専門家も多いニューヨークですら、こんな状況です。東京でもし同じ状況になったら、到底、対応できないと考えられます。

電車通勤はもってのほか

――日本に届けたいメッセージはありますか。

日本の方々はこちらで起きていることを「遠い国の出来事」と思われているかもしれません。でも、(人が密集して暮らしているという状況は)東京もニューヨークと変わりません。日本では感染者数が少ないといっても、それは検査数が圧倒的に少ないから。症状はないけれども、ウイルスは持っているという人がすでに数多くいると考えた方がいいでしょう。

日本ではクラスターの存在を早めに察知するという手法で封じ込めを狙っているようですが、大規模検査の実施なくしてクラスターの把握などあり得ません。

にもかかわらず、まだ在宅勤務を実施していない企業が日本には数多くあると聞きます。私はもともと商社に勤めていて、脱サラして医者になったのですが、友人に聞いたところ、親会社の商社は在宅勤務にしていても、子会社はまだ出勤しているそうです。

「自粛」などと言っている場合ではない

症状はないけれども感染はしている人たちが多くいる可能性が高いのに、いまだに電車通勤をしているなんてあり得ないことです。「自粛」と言う言葉を使うからいけないのかもしれません。そんなことを言っている場合ではない。

ニューヨークの病院では、遺体を安置する場所が足りないので、病院の横に冷凍トラックを駐車し、そこに遺体を安置しているような状態に陥っています。ご家族は感染リスクがあるので、死に目に会えないばかりかご遺体にも会うことができません。会えずじまいになるのです。本当に悲しいことです。

ニューヨーク周辺では、シナゴーグや会議場などでアウトブレイクし、クラスターができたといわれています。とにかく同じ部屋に多くの人が集まるようなことは避けるべきですし、会社で会議をいまだに開いているなんて会社があればもってのほかだと思います。

自分のことだけではなく、人に感染させるリスクも考えなければなりません。その人に疾患があり、免疫力が下がっていれば、感染に対応するのは難しいでしょう。他の人をそういった状況に陥れてしまう可能性があるということをもっと自覚して、行動してもらいたいと思います。

(日経ビジネスニューヨーク支局長 池松由香)

[日経ビジネス電子版 2020年4月2日の記事を再構成]

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