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崇高な世界 配信で魅了(オペラ評)

びわ湖ホール「神々の黄昏」

演出は技術を駆使し、神話的・歴史的情景を再現した=びわ湖ホール提供

ワーグナー「ニーベルングの指環(ゆびわ)」の完結編「神々の黄昏(たそがれ)」が無観客上演され、無料ライブ配信の視聴者数万人をくぎ付けにした。びわ湖ホールの英断が新型コロナウイルスのピンチをチャンスに変え、新鮮な驚きで若いファン層を掘り起こした(3月7、8日、大津市のびわ湖ホール)。

始原の自然を搾取しあう、神々と小人族の権力闘争。ワーグナーは自然と人間の間に修復できない亀裂を生み出す資本の病を暴き出した。妬みで世界は疎外され、文明は崩壊して自然に回帰する。神々の没落の後、純粋に人間的な愛が「ラインの黄金」のごとく無垢(むく)の光を放つ。

演出のハンぺと美術のギールケは確信犯だ。現代社会と切り結ぶ知的挑発を避け、ハイテクを駆使して神話的・歴史的情景の忠実な再現に徹した。映画のごとく滑らかに推移する虚構性が仮想現実世代の感性に響いたのである。

森や大河の画像をCG処理した「第二の自然」にはドイツロマン派風景画の影響も。継ぎ目なく場面が転換する楽劇の魔法。音楽における「移行の技法」にシンクロする映像の効果は絶大だ。「ジークフリートの葬送」では演奏の高揚と相乗して崇高な世界が出現。思わず号泣した。

両日を通して歌手陣の充実ぶりに興奮した。ブリュンヒルデ役のミュターの輝きと池田香織の温かみ。びわ湖リングが育んだ逸材である。ハーゲン役の妻屋秀和とグンター役の石野繁生。その低声の魅力にノックアウトされた。他の歌手も文句なしに世界レベルだ。

京都市交響楽団のスタミナと表現力には舌を巻いた。4年間にわたる沼尻竜典の薫陶からワーグナー特有の響きが醸成された。「黄昏」の複雑なライトモティーフの絨毯(じゅうたん)が、いささかも縺(もつ)れることなく深々と輝かしく編み上げられたのである。

(音楽評論家 藤野 一夫)

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