クラウドファンディング、利回りより支援の喜び

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2020/4/3 2:00
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ネクストシフトはマイクロファイナンス機関に融資するファンドを通してモンゴルの農業や畜産業などを支援している

ネクストシフトはマイクロファイナンス機関に融資するファンドを通してモンゴルの農業や畜産業などを支援している

インターネットなどで小口の資金を不特定多数の人から募る「クラウドファンディング」の裾野が広がっている。収益性よりプロジェクトを支えることに喜びを感じる利用者が増加。投資の世界に意識革命をもたらしそうだ。

■潜在顧客はミレニアル世代

「これは面白そうだ」。2月中旬、兵庫県に住む個人投資家のかえるさん(ハンドルネーム、43)はパソコンのモニターを見てつぶやいた。見ていたのは、インパクト投資のクラウドファンディングの支援会社、ミュージックセキュリティーズ(東京・千代田)が運営するサイト「セキュリテ」。掲載されていたファンドの一つ、「熊野の香り 天然の和精油ファンド」に心引かれ、一口投資することに決めた。

同ファンドは和歌山県新宮市で杉やヒノキからアロマオイルを製造する企業に投資するというもので、投資すると同社商品のアロマウォーターと分配金が得られる。かえるさんが魅力を感じたのは、投資を通して同市の林業の発展に貢献できるという点。「自分が地域貢献に直接携わっているという実感を得ることが、クラウドファンディングに投資する目的の一つだ」と話す。

かえるさんは全資産の数%をクラウドファンディングへの投資に振り向けている。現在の案件は11本で、その多くの利回りは1~3%と決して高くはない。それでも、株式と違う値動きをするオルタナティブ投資と捉えてクラウドファンディングに注目し続けるつもりだ。「リターンは最悪トントンでもいい。まれに投資先が破綻することもあるが、地域貢献や応援の意味もあるので我慢できる」という。

投資を通じて社会貢献もできる手段として、クラウドファンディングを選ぶ個人が増えつつある。社会貢献型のクラウドファンディングに特化した運用をするネクストシフト(鳥取県八頭町)の運用総額は右肩上がりの上昇を続け、2月末時点で約1億5000万円に達した。コロナ・ショックで市場が動揺し始めた1~2月に、逆に伸びが加速したのが印象的だ。

同社のクラウドファンディングはマイクロファイナンス機関の融資を通してカンボジアやモンゴルといった新興国の農業などを支援するというもの。利回りは平均約5%と、高配当利回り株式と大きくは変わらない。伊藤慎佐仁社長は「顧客と話すと、リターンを上げろという議論はほとんどなく、もっと投資先の情報を教えて欲しいという声が多い」と明かす。収益性より理念に共感する個人が、同社の成長を支えている。具体的には、投資余力があり、クラウドファンディングを株式などメーンの資産を補完する役割と捉える、ある程度金融リテラシーの高い40~50代の顧客像が浮かび上がる。

ただ、新規に口座を開くのは20~30代のいわゆる『ミレニアル世代』が多い。この世代は社会貢献などへの感度が高いとされ、「彼らが育ってくる5年後には、クラウドファンディングの市場が一気に拡大する可能性がある」(伊藤社長)という。

クラウドファンディングの案件は、社会貢献から学術研究の分野にも広がってきた。大学の支援案件に強いのがREADYFOR(レディーフォー、東京・千代田)だ。同社では大学の活動であれば幅広く支援することが可能で、現在、国公立大学を中心に20校と業務提携している。目標額の達成率は96%と良好だ。

その案件の一つが大阪大学の仲野和彦教授の研究。仲野教授は生まれつき骨がもろくなる難病「低ホスファターゼ症」の研究に取り組んでおり、この資金をクラウドファンディングで集めた。賛同者が多く、当初の目標300万円を大幅に超え、新しい目標として1500万円を設定。実験や専属スタッフの雇用などに資金を用いる。

国立大運営の財源の多くを占める国からの運営費交付金は、減少傾向にある。仲野教授は「多くの人に役立つ研究にお金が配分される傾向にあり、自由な発想で取り組む研究に使える財源は乏しい」と話す。こうした厳しい懐事情に対し、難病の患者を救う意義の伝達手段として、大学の研究を応援したいという個人の善意の受け皿として、クラウドファンディングは新たな解を提供する。

KIT虎ノ門大学院の研究では、東日本大震災の被災地におけるある社会貢献型クラウドファンディングの投資動機として「リターンが魅力的」と答えたのはわずか1%だった。半面、「復興支援がしたかった」(20%)「(社会貢献性のある)プロジェクトそのものが気に入った」(19%)との回答が目立つ。かつて「高利回り投資」の一つと受け取られることが多かったクラウドファンディングだが、その立ち位置は「投資をしながら社会貢献もできる」というものに変化したようだ。

■ライトノベルをアニメ化

クラウドファンディングを支えるのは「ミレニアル」的な価値観だ。20歳代~30歳代前半の「ミレニアル世代」の要求の中心はリターンではない。趣味の延長線上で投資の過程を楽しめることや、社会への貢献を体感できることだ。

2019年11月。クラウドファンディング大手のCAMPFIRE(キャンプファイヤー、東京・渋谷)が運営するサイトに登場したある案件が注目を集めた。株式市場を舞台としたライトノベル『WORLD END ECONOMiCA(ワールドエンドエコノミカ、WEE)』のアニメ化に向けたプロジェクトだ。発起人の一人が著名投資家の片山晃氏だったことが、個人投資家の間で話題となった。

支倉凍砂氏のライトノベル『WORLD END ECONOMiCA』のアニメ化に向けたクラウドファンディングは2000万円近くを集めた

支倉凍砂氏のライトノベル『WORLD END ECONOMiCA』のアニメ化に向けたクラウドファンディングは2000万円近くを集めた

WEEは14年に出版されたが、アニメ化するには十分な知名度がない。そこで「注目されるための仕掛けの一環として、クラウドファンディングを利用した」(片山氏)。880人が支援し目標金額の約4倍となる2000万円近くを調達。小口の応募だけではなく、個人投資家の支援もあって一口30万円の高額枠もすぐに埋まったという。

リターンは「アニメ化した際に応募者のクレジットが付される」など金銭的な見返りではない。それでも「作品自体が1万5000部の売れ行きだったのに対し、大きな反響だった」と片山氏も手応えを感じている。

クラウドファンディングで調達した資金は全てアニメ化プロジェクトの広告宣伝費に充てる方針だ。作品そのものの製作費に充てられるほどの調達は難しくても、クラウドファンディングによる調達自体をPRに使えば、さらにファンの注目を集められる。

最近の新型コロナウイルスの拡大に対応した支援プロジェクトも広がってきた。レディーフォーでは、新型コロナの影響で中止に追い込まれたイベントを支援できる仕組みを整えた。現状10以上のプロジェクトが資金を集めている。

キャンプファイヤーでも新型コロナでの被害を支援できるようなプロジェクトが増えており、3月の支援額が前年同月に比べ2倍を超えた。マクアケ(4479)では自宅から出ないで済ませる「巣ごもり」関連の案件が増えているという。外出しにくくなる中、何か消費したいという思いのはけ口になっている側面もあるようだ。

ミレニアル世代それ自体は、まだクラウドファンディングの中心にはいない。レディーフォーでは、支援者は30歳後半から50歳代と経済的に余裕がある層がメインだという。ただ社員の平均年齢は30歳前後と、会社の中心はミレニアル世代だ。

相対的に小さいプロジェクトが多いキャンプファイヤーでは、20歳代の支援は件数ベースで全体の2割程度で、30歳代と合わせると全体の半分になる。「アニメやアイドルに対して、『投げ銭』感覚で支援する人が多い」(同社)。

損してもかまわないから自分がそのプロジェクトを支えている感覚を得たい──。そうした考え方がクラウドファンディング市場の広がりにつながっている。

■詐欺まがいの案件には気をつけて

気軽に資金を投じることができるクラウドファンディングだが、詐欺まがいの案件には気をつけたい。国内では2018年ごろに貸付型でこうした案件が多発し処分を受ける業者が相次いだことがある。購入型や寄付型でも、どのような人が資金を集めようとしているのか、事前に見極めることが重要だ。

18年には貸付型クラウドファンディング大手のmaneoマーケット(東京・千代田)が、集めた資金を目的外に流用したとして、金融庁から処分を受けた。他にも内部管理体制の問題が明らかとなり、金融庁は5社に処分を下した。

背景にあったのが貸金業法の規制だ。貸金業法では借り主を保護する観点から、借り主の情報は伏せられる。悪質な業者を排除しつつ、透明性を高めたい業界からの要望もあり、19年に金融庁は開示を可能とした。その後処分案件はないという。

購入型や寄付型を巡っては19年、米国で動きが目立った。米連邦取引委員会(FTC)は5月、「クラウドファンディングでの詐欺を避けるために」という文書を公開。きっかけとなったのは、新製品の開発のためと称して80万ドル(約8800万円)を購入型クラウドファンディングで調達した企業の経営者が、返礼品としての製品を開発せずに私的な目的に資金を流用したとされる問題。FTCはこの人物を裁判所に提訴した。

米国ではほかにも、17年にホームレスへの寄付を募って40万ドルを集めた案件が詐欺だったとして、資金を集めた人物が訴えられている。

国内では、キャンプファイヤーが東京海上日動火災保険と連携し、返礼品がなかった場合に支援額の最大8割を払い戻す保険を提供している。レディーフォーは、案件実行のために必要なもの(イベント会場の予約など)がそろっているかを確認するために書類の提出を求めている。

いくら「損してもかまわない」といっても、貢献したいと思う案件に中身がなければお金は完全に無駄になってしまう。FTCは「案件を実行する人の過去の実績などを事前に確かめることが大切」と呼びかける。

■識者に聞く KIT虎ノ門大学院 三谷宏治教授

日本におけるクラウドファンディングの大半は企業主体の貸し付け型だ。個人が参加できる寄付型、購入型、投資型の割合は全て足しても全体の1割強にすぎない。2016年度では、このうち寄付型の市場規模は6億円。日本における個人寄付市場は7756億円あったが、このうちの0.1%にも満たない。市場規模は拡大傾向にあるが、まだ存在感は小さい。

KIT虎ノ門大学院 三谷宏治教授

KIT虎ノ門大学院 三谷宏治教授

クラウドファンディングは本来、新規事業を行おうとする企業や個人を小口資金で応援するというのが趣旨だった。寄付文化が根付いている欧米ではこの点が理解されているが、日本ではまだ浸透していない概念だ。そもそも、講演でクラウドファンディングとは何かを聴衆に聞くと、知っているのは1割ぐらいしかいない。実際に参加したことがあるのは全体の3%程度だ。逆に言えば、まだ市場の開拓の余地は大きいといえる。

クラウドファンディングへの理解が不十分な中で、高利回り商品としての側面ばかりがまず注目されてしまったのは問題だった。うさんくさいという認識が先に広がってしまい、社会貢献性という本来の価値が伝わりにくくなってしまった。

それでも社会貢献を主目的にクラウドファンディングに参加する個人は増えているようだ。金沢工業大学大学院の岩野直樹氏の研究では、非常に興味深い結果が出ている。それは、寄付型クラウドファンディングの参加者はリターンを重視しないということだ。

東日本大震災の被災地の古民家を改修する目的のクラウドファンディングでは、「リターンが目的だった」との回答はわずか1%だった。投資参加者が重視したのは、あくまで「貢献した」という精神的充足感だった。購買型や投資型でもこの観点は無視できないだろう。

もう一つ注目したいのは、現在の参加者の中心は投資や寄付の経験が豊かな40~50代であるという点だ。彼らは寄付そのものを趣味とし、色々な案件に参加する傾向がある。これからは投資や寄付に不慣れな人をどう巻き込むかがカギになってくるだろう。

(川路洋助、坂部能生が担当した)

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