アメリカの重鎮が提言「株はもう買い時、積み立てで」
米資産運用大手の創業経営者ハワード・マークス氏に聞く

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2020/4/4 2:00
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経営が危ぶまれる企業の社債で稼ぐ「ディストレスト債」投資の先駆者で、米ウォール街のご意見番の一人として言動が常に注目されてきたハワード・マークス氏。米資産運用大手オークツリー・キャピタル・マネジメントを創業し、今も会長として同社を経営する熟練の投資家が、新型コロナウイルスの感染拡大を機に起きた株式相場の暴落の直後から、積極的に持論を発信している。ここ数年は過熱感の漂っていた相場に警鐘を鳴らし続けてきた同氏に、コロナ・ショック後の相場観や投資のあり方を聞いた。

──新型コロナウイルスの感染拡大に対する懸念を背景に株式市場が暴落し、動揺が続いています。こうした相場に個人投資家はどう向き合ったらいいのでしょうか。

投資家は自分自身で確たる見解を持たなければならない。新型コロナウイルスの感染がどこまで広がるのか。それが経済や市場にどのような影響を及ぼすのか。多くのことが分かっておらず、今は確かなことを言えない。まずはこのことを自覚することが必要だ。新型コロナウイルスは感染がさらに広がるかもしれないし、早期に終息するかもしれない。だが、どうなるか今は誰にも分からない。

経済は深刻な打撃を受けるだろう。米国でも何百万人もの人が職を失い、第2四半期(4~6月期)の国内総生産(GDP)は前年同期に比べて15~20%減少するかもしれない。米国株は、米連邦準備理事会(FRB)と米政府が相次いで打ち出した大規模な金融・財政政策を受けて3月下旬に急反発し、米ダウ工業株30種平均は同月24日に過去最大の上げ幅を記録した。

FRBや政府の対策は機能して、問題を解決してくれるかもしれない。だが、多くの人がすぐ職場に戻り、ビジネスを再開するということにはならないだろう。新型コロナウイルスの感染拡大を防ぐために、(人と人との接触を減らす)ソーシャル・ディスタンスを続ける必要があるからだ。このように今後の展開は不透明だ。

一方で、株価は大きく下落した。少しずつ投資をしていくのは合理的な判断だろう。ただし投資をするかどうかは、個々の投資家の姿勢次第だ。リスクを取っても積極的に投資するのか。それとも損失を回避するために守りを固めるのか。両方を同時にこなすことはできない。どちらの姿勢を取るのか。自分で決めなければならない。

■必要なのは投資の基本に立ち戻ること

──今回の暴落についてどう見ているのか、見立てを詳しく伺えますか。

これほど急速に下落したことは過去にない。相場の振れ幅は大きく、急落と急騰を繰り返した。ここで必要なのは投資の基本に立ち戻ることだ。賢明な投資は、常に価格と価値の関係に基づいている。株式投資であれば、企業の内在的な価値に照らして株価の水準を評価することが、長期投資における最も確かな方法だ。

ハワード・マークス(Howard Marks)氏
米資産運用大手オークツリー・キャピタル・マネジメント会長兼共同創業者。米シカゴ大学経営大学院でMBA(経営学修士)を取得。米資産運用大手TCWグループなどを経て、1995年オークツリー設立。顧客向けメモを基にバリュー投資の優位性やリスク管理の重要性を整理して論じた『投資で一番大切な20の教え』(日本経済新聞出版社)がベストセラーになった

ハワード・マークス(Howard Marks)氏
米資産運用大手オークツリー・キャピタル・マネジメント会長兼共同創業者。米シカゴ大学経営大学院でMBA(経営学修士)を取得。米資産運用大手TCWグループなどを経て、1995年オークツリー設立。顧客向けメモを基にバリュー投資の優位性やリスク管理の重要性を整理して論じた『投資で一番大切な20の教え』(日本経済新聞出版社)がベストセラーになった

その企業は3~5年後にどれだけの利益を上げると予想されるのか。その将来の利益に照らして、現在の株価は割安なのか、それとも割高なのかを判断することが求められる。相場の先行きを占うようなやり方では、投資において成功することはできない。

──今回の暴落では、急落時に資産の逃避先として買われる金や、これまでそうした買いが入っていた暗号資産(仮想通貨)のビットコインも急落しました。

相場が急落したときに難を逃れることができる、そんなマジックを備えた投資商品は存在しない。損を被るリスクを取らずに利益を上げることのできる投資商品はないからだ。

もっとも金は、今回の暴落がもたらした混乱によって、他の相場急変のときとは異なる値動きになった面はあるだろう。ビットコインについては、価値の裏付けがないので投資すべきではないと考えてきた。ビットコインの価格はここ数週間で半減している。これはまさに価値の裏付けがないことの証左だ。

■ドルコスト平均法で投資の時期を分散

──先ほど「少しずつ投資する」とおっしゃいました。具体的にはどのような投資を指しているのでしょう。

少しずつ投資することの利点は、大きな損失を被るリスクを減らせることだ。一度に多額の投資をして、その後に相場の急落に遭ったら、多くのお金を失ってしまう。もちろん、少しずつ投資すると大勝ちすることはできない。だが、大損を防ぐためには、少しずつ投資することで投資の時期を分散することが有効だ。

具体的には投資商品を一定の額で定期的に購入し続ける「ドルコスト平均法」を実践すればいい。将来に何が起こるかは誰にも予測できない。大損を避けたいという気持ちが強いのであれば、ドルコスト平均法を採用して、投資の時期を分散するといい。

■3月24日に公開されたマークス氏のメモに記された見解

 分かっていることは何か? 資産価格が大幅に下落して、冷静にホールドし続けられる投資家がいなくなり、狼狽(ろうばい)売りが広がっていること以外には大してない。しゃれた言い方はできないので、私見をシンプルに述べよう。

 ・「ボトム(底入れ)」は反転が始まる前日だ。従って、底に達したことを察知するのは絶対に不可能である。オークツリー(マークス氏が経営している資産運用会社)は、底入れを待つという考えを明確に否定している。価値に照らして割安に手に入るときにだけ買う。
 ・底入れしたとは言えないが、「バーゲン(特価)」で買える状況が明らかに生じている。
 ・これまでの価格の下落と大量の売りを踏まえると、必ずしもベストなタイミングではないかもしれないが、投資するには良いタイミングだと考えている。
 ・今資金を全額投じるべきだとは言えないが、同様に全く投資をすべきではないとも言えない。
 ・含み損をいとわずに将来に利益を上げたいという気持ちが強いのであれば、今投資すべきだ。逆に、一時的な含み損を避けたいという気持ちが強く、そのために利益を上げる機会を逸しても構わないのであれば、投資すべきではない。


 しかし、全く投資をしないという選択肢が本当にあり得るだろうか? 底入れしたとは断言できないという事実は、投資をしない理由にはならないというのが私の考えだ。

──2018年に出版された著書『市場サイクルを極める』(日本経済新聞出版社)では、市場のサイクルを理解することの重要性を説かれました。現在の株式市場はサイクルのどこに位置しますか。

今回の暴落が起きる前までは投資家の投資意欲が旺盛で、株だけでなく債券など他の投資商品もそろって大きく値上がりし、どの市場もサイクルの頂点に差し掛かっていた。そこに新型コロナウイルスの感染拡大という悪材料が突然現れ、暴落が起きた。もはやどの投資商品の価格も割高ではない。バブルがはじけたのは確かだ。価格は手ごろになっている。

米国株の相場は過去に比べれば依然として高い水準にあるが、少なくとも適正な水準になっている。株を買うことに伴うリスクは低下し、利益を上げられる可能性が高まっている。1年前までは割高になっていることから警戒を強めていたが、今はそうではない。

今回の暴落は新型コロナウイルスが引き金となって起きたものであり、景気循環によるものではない。ウイルスの感染が広がり続ければ、さらに多くの問題が発生するだろう。しかし、米国株の相場は市場サイクルの下方に位置しており、投資の魅力度はかなり高まっている。(談)

■3月にメモを矢継ぎ早に公開し、投資家の注意を喚起した

3月に相次いで公開された3通のメモ

3月に相次いで公開された3通のメモ

ハワード・マークス氏は、2月下旬から始まった暴落に緊急に対応してきた。まず3月3日に「Nobody Knows 2(誰にも分からない2)」と題するメモを公開した。

このタイトルは、2008年9月に米大手投資銀行のリーマン・ブラザーズが破綻した直後に出したメモと同じもの。「2」を付けて続編に位置付けた。

さらに3月中にもう2通のメモを公開した。暴落について考察し、経済、市場の先行きに対する楽観・悲観双方のシナリオを分析した。米政府とFRBが打ち出した未曽有の対策の有効性についての見解も示した。そして、投資家が取るべき行動についての持論を明らかにした。

インタビューで印象深かったのは、マークス氏が「インテリジェント・インベスティング(賢明なる投資)」や「イントリンシック・バリュー(内在的価値)」という言葉を使った点だ。これらは、あのウォーレン・バフェット氏が師事した米著名投資家ベンジャミン・グレアム氏が提唱した概念だ。「バリュー(割安)株投資の始祖」と呼ばれる大投資家の影響を大きく受けて、割安なものを買うという信念を貫いていることがうかがわれた。

最後に、今回のインタビューの直後の31日に公開された最新のメモのハイライトを紹介する。

「Which Way Now?(どちらの方向か?)」
(2008年の)世界金融危機では、次から次へと出てくるバッドニュースを目にして、相次ぐ金融機関の倒産が及ぼす影響を憂慮した。しかし、日常の生活はそれまでと変わることはなかった。生命に対する明らかな脅威はなかった。

 今回は(コロナ・ショックがもたらす)悪影響ははるかに大きくなりそうだ。社会的孤立、新型コロナウイルスとそれによる死者の数、経済の収縮、政府の政策に対する過度な依存、そして長期的な影響の不確実性。それらがどれほど深刻になるのか今は見当が付かない。

 にもかかわらず、資産の市場価格は、これまで起きた出来事とその影響を織り込もうとしてきた。3月27日の資産価格は、今後についての楽観的なシナリオに照らせば適正な水準だったかもしれないが、事態がこれから悪化する可能性を十分に考慮したものとは言いがたい。従って、資産の価格がこれから下落することを私は視野に入れている。事態が悪化することを想定して守りを固めるには、時間が足りないと感じる人もいるだろうし、まだ時間があると思う人もいるだろう。だが最も重要なことは、下落に備え、それを好機に変えることだ。

 変わらずに終わることはあり得ないと今は思われるだろうが、世界はいつか正常に戻る。闘病と投資において最も大事なのは、その間にどう行動するかだ。気を付けて!

(中野目純一)

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著者 :
出版 : 日経BP
価格 : 750円 (税込み)

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