景気後退って、どうやって決まるの?

小栗 太
編集委員
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2020/4/3 2:00
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新型コロナウイルスの感染拡大でみんなが外出を自粛したり工場の生産が止まったりして、景気が悪くなることへの不安が広がっています。日本では2012年末から景気の回復が続いてきましたが、政府は3月26日、いまの景気の説明で「回復」という言葉を使うのをやめました。景気が悪くなることを「景気後退」と言いますが、どうやって決めているのでしょうか。そして、私たちの暮らしにはどんな影響が及ぶのでしょうか。

日銀が1日に発表した全国企業短期経済観測調査(短観)。約1万社に上る日本の会社を対象にしたアンケート調査で、景気の状態を確かめるうえで注目度が高い統計です。なかでも景気が「良い」という回答から「悪い」という回答を引いた業況判断DIという数値には企業の経営状態が反映されます。今回の調査では大手メーカーの業況判断DIが7年ぶりにマイナス水準に沈み、景気後退を意識せざるを得ない結果になりました。

エコノミストの9割、景気後退を予想

日本経済研究センターが3月17日に発表したエコノミストの人たちによる景気予想でも「すでに景気の山を過ぎた」、つまり景気後退に入ったという回答が33人中29人と、約9割を占めました。2月の前回調査では約4割だったので、後退説が一気に強まったことが分かります。いつから後退に入ったかという質問で最も多かった回答は「18年10月」。19年1月で戦後最長の景気回復になるはずだったのに、今回の予想では実現できなかったと考えていることになります。

では、正式な景気後退はどうやって決めるのでしょうか。景気の状態を確かめるとき、メディアなどでは3カ月ごとに政府が発表する国内総生産(GDP)が2回続けて前の3カ月よりも減ったら景気後退と呼ぶという説明を目にすることがあります。GDPは国内で生み出したモノやサービスの付加価値の合計額で、日本経済がどれだけ成長したかが分かります。その意味でマイナス成長が2回続いたら景気後退と呼ぶのもおかしくない気がします。

3月9日に発表された2019年10~12月期のGDP(2次速報値)は、物価の影響を除いた実質で年率に換算すると7.1%減と、5四半期ぶりに前期比でマイナスになりました。エコノミストの人たちの間では、新型コロナの影響で5月中旬に発表される20年1~3月期のGDP(1次速報値)もマイナスになるという予想がほとんど。先ほどの説明を当てはめれば、景気後退に入ることになります。

でもちょっと待って。実は、景気の回復と後退の境目(景気基準日付)は、必ずしもGDPだけを見て決めるわけではありません。米国の景気を判断する全米経済研究所(NBER)も、2四半期連続のマイナス成長が景気後退の定義ではないと表明しています。

内閣府の景気動向指数研究会が山・谷を判定

日本では、内閣府の景気動向指数研究会が景気基準日付を判定します。メンバーである三菱UFJモルガン・スタンレー証券の嶋中雄二さんによると、基準にしているのは内閣府が毎月発表している景気動向指数(CI)。このうち景気の現状を表す一致指数が上がったか下がったかを見ます。

CIは生産や消費、雇用などの様々な統計を合わせたもので、一致指数には鉱工業生産や商業販売額、有効求人倍率など9つの統計が使われます。ただし、そのまま見るわけではなく、CIの発表後に不規則な動きを取り除いて作り直します。さらに統計の改定などもあり、正式に景気の境目を判断するまでには1年以上の時間がかかります。

それだけではありません。たとえば一致指数が下がっても、5カ月以上続かなければ景気後退と見なしません。11年の東日本大震災のときは3四半期続けてマイナス成長になりましたが、一致指数が下がっている期間は5カ月未満だったため、景気後退と認定しませんでした。景気は一致指数の動きがGDPや日銀短観の動きと合っているかも確認したうえで、総合的に判定します。

ちなみに、なぜ2四半期連続のマイナス成長を景気後退と判断する方法が伝わったのでしょうか。それは米議会の予算局が簡易的に使っているからです。経済政策を最適なタイミングで打ち出すには1年後の判断を待っていては間に合いません。だから比較的早く結果が分かるGDPを使った簡易判断が世界中に広がったのだと思われます。

それでは今回の新型コロナによる景気への影響はどれくらい深刻でしょうか。

景気後退説が急に増えたのは、やはり新型コロナが原因です。日銀短観をみれば、正式な判定を待たなくても景気が急に悪くなったことが想像できます。では、暮らしにはどんな影響があるでしょうか。

暮らしへの影響は3段階で

BNPパリバ証券の河野龍太郎さんは「私たちの暮らしには3段階で悪影響が及ぶ」と考えています。まず第1段階は、新型コロナの感染拡大を封じ込めるために普段の生活が窮屈になることです。政府はレジャーや食事に出かけることや外国人観光客が日本を訪れることを抑えることで「あえて景気を悪くする」政策を取っています。その結果として、お店の経営が厳しくなったり、従業員に休んでもらったりする動きが出てきます。2月の百貨店売上高は新規店を除くと、前年の同じ月よりも12%減りました。3月は17日までで4割も減っているそうです。

第2段階として、感染拡大を防ぐための行動制限が長引けば、会社が倒産したり従業員が解雇されたりする動きが広がります。すでに感染者数が最も多い米国では、驚くような統計が発表されました。3月第3週に新たに失業保険の給付を申請した人の数が過去最大の328万件に達し、なんと前の週の11倍以上に膨れ上がったのです。米国の政府は4月末まで米国民に行動制限を呼びかけており、失業者の数はさらに増える見込みです。

かつて日比谷公園につくられた年越し派遣村

かつて日比谷公園につくられた年越し派遣村

日本では08年秋のリーマン・ショック後、たくさんの人が企業から解雇や派遣契約の打ち切りを受けて社員寮などから退去を求められたことがありました。こうした人たちのために東京の日比谷公園には「派遣村」がつくられました。こうした悲惨な事態だけは何としても避けないといけません。

そして第3段階として考えられるのが、新興国などの国家財政が行き詰まることです。いま市場の人たちが最も恐れているのは、これから冬に向かう南半球の中南米やアフリカに感染が広がることです。中南米には政治が不安定な国、アフリカには財政が苦しい国が少なくありません。私たちの暮らしとは関係ないようにも見えますが、新興国の財政破綻による金融危機が起これば、実体経済や金融市場がさらに不安定になり、世界の株価が再び急落することも考えられます。

こうした悲惨な状況を招かないように、世界の政府や中央銀行が協力して悪影響を止めようと行動しています。G20と呼ばれる世界の主な20カ国・地域の政府は共同で声明を出し、新型コロナから世界の人たちの暮らしを守るため、総額5兆ドル(約550兆円)を超えるお金をつぎ込む考えを示しました。米連邦準備理事会(FRB)は世界中でお金のやり取りが滞って企業が倒産しないように、海外の中銀に企業の取引で最も使われるドル資金を貸し出す制度を始めました。

突然の新型コロナ発生が招いた世界的な景気後退への不安。国際通貨基金(IMF)は3月23日、20年の世界経済が景気後退に向かい、リーマン・ショック後以来、11年ぶりにマイナス成長になる見通しを示しました。新型コロナ・ショックが長引くほど、私たちの暮らしへの悪影響も大きくなります。だからこそ私たち一人ひとりが感染拡大を抑えるために外出を控えたり、在宅勤務を増やしたりする努力を求められています。

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