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医療崩壊を防げ 遠隔診療スタートアップ12社

CBINSIGHTS
新型コロナウイルスの感染が拡大し、患者が病院に押し寄せると医療体制の崩壊を招きかねない。そこで注目されるのがオンライン診療だ。チャット機能などで初期症状を自らチェックし、感染リスクを判断してから病院を訪れることで院内感染を減らせる。欧米などでこうしたサービスや製品を提供する注目のスタートアップを紹介する。人工知能(AI)を使うものや自宅の機器と連動させるサービスもある。
日本経済新聞社は、スタートアップ企業やそれに投資するベンチャーキャピタルなどの動向を調査・分析する米CBインサイツ(ニューヨーク)と業務提携しています。同社の発行するスタートアップ企業やテクノロジーに関するリポートを日本語に翻訳し、日経電子版に週2回掲載しています。

新型コロナウイルスが世界的に流行する中、世界各国の首脳や公衆衛生当局は遠隔医療を積極的に支持するようになっている。各国首脳や当局は患者の急増に伴う医療体制の不備を補い、ウイルス感染のリスクを最小限に抑えるため、国民にまずはオンライン診療を受けるよう促している。同時に、保険会社や医療提供者は遠隔診療のアクセスを改善し、受診料を抑え、有用性を高めようとしている。

米テラドック(Teladoc)など遠隔医療を手がける企業は既に、遠隔医療の受診者はこの1週間(CBインサイツでの記事の掲載は3月18日)で50%増えたことを明らかにしている。

遠隔医療スタートアップ企業の資金調達件数は2019年に過去最高に達した。新型コロナの感染拡大により、各社は注目を集めるだろう。

遠隔医療スタートアップ、19年の資金調達件数は過去最高に

今回のリポートではCBインサイツのデータを活用し、新型コロナ対応を優先している遠隔医療スタートアップ12社を取り上げる。今回取り上げた企業はいずれも新型コロナ対応策を最近発表している。さらに、直近の資金調達の時期、公表ベースでの累積調達額、投資家の質に加え、事業モデルの独自性やテクノロジーなど非財務的な要素も考慮して選んだ。調達額の多い順に掲載している。

1.アムウェル(AMWELL)

出所:アムウェル
▽本社:米マサチューセッツ州ボストン
▽ステージ:シリーズD
▽累積調達額(公表ベース:以下同):5億6690万ドル
▽主な投資家:独アリアンツX、米ベイン・キャピタル・ダブルインパクト、蘭フィリップス

 アムウェルは救急、急性期、亜急性期の治療や、慢性疾患の管理、健康的な生活の促進など幅広いニーズに対応している遠隔医療プラットフォームだ。55以上の医療保険と提携し、1億5000万人以上、240以上の保険制度を対象にサービスを提供している。ロイ・シェーンバーグ社長は、新型コロナの感染拡大で同社のサービスへの需要は「極めて多い」ため、サービスの待ち時間が長くなり、システム障害も頻発していると報告している。
 同社はこうした状況で業務効率と治療の質を上げるため、全米で「遠隔医療対応プログラム」に着手した。いつでも対応可能な感染対策責任者を置いたほか、新型コロナ特有の医療ワークフローを定め、対応チームを設けた。

2.ドクトリブ(DOCTOLIB)

出所:ドクトリブ
▽本社:フランス・パリ
▽ステージ:シリーズE
▽累積調達額:2億6700万ドル
▽主な投資家、米アクセル、米ゼネラル・アトランティック、カーネル・キャピタル(アイルランド)、仏BPIフランス

 ドクトリブは当初、医療従事者が診療スケジュールや患者エンゲージメント(ケアに対する患者自身の関与)を管理するソフトウエアサービスを提供していた。だが、1年ほど前からは遠隔医療に力を注いでいる。
 同社は動画診療プラットフォームの利用料として医師に月79ユーロを課す。同社のサイトによると、開業医3500人がこのプラットフォームを利用しており、18年9月以降の診療件数は15万件を超えている。
 ドクトリブは3月上旬、新型コロナに関連した遠隔医療体制を整えようとする医師からの要請が40%増えていることを明らかにした。その後、医療体制の不備を補うため、新型コロナの感染拡大が続く間はフランスの全ての医師が同社の動画診察プラットフォームを無料で使えるようにすると発表した。このサービスを有料で使用している3500人の医師には返金する方針だ。

3.KRY(KRY)

出所:KRY
▽本社:スウェーデン・ストックホルム
▽ステージ:シリーズC
▽累積調達額:2億5060万ドル
▽主な投資家:米アクセル、英インデックス・ベンチャーズ、クリーンダム(スウェーデン)

 KRYは医師とのオンライン動画診療を予約できるアプリだ。スウェーデン、ノルウェー、英国、フランス、ドイツなど欧州数カ国でサービスを展開している。同社はこのほど、新型コロナの感染拡大で「ウイルス感染症の症状」での受診が1週間前に比べて41%増えたことを明らかにした。同社が展開する市場全体では、こうした理由での受診が2月初めに比べて240%増えていることも発表した。

4.ロー(RO)

出所:ローマン(ローが運営する男性向けデジタルクリニック)
▽本社:米ニューヨーク州ニューヨーク
▽ステージ:シリーズB
▽累積調達額:1億7650万ドル
▽主な投資家:米スローベンチャーズ、米ゼネラル・カタリスト、米サイナイ・ベンチャーズ

 消費者向け(DTC)遠隔医療スタートアップのローは、患者エンゲージメントを手がける米メモラヘルス(Memora Health、後述)と提携し、チャットボット(自動応答システム)が応じる対話サービスなど無料の新型コロナ遠隔診療を提供している。
 チャットボットは患者が新型コロナ感染症の症状を示しているか、感染リスクの高い地域を訪れていたと判断すると、ローが提供する遠隔医療を受診するよう指示する。このサービスでは、動画か電話により資格を持つ医療提供者の診察を受けられる。医師がその患者は新型コロナに感染しているリスクが高いと判断すると、ローは患者が住む州の保健当局と調整し、地元の医療機関での治療を手配する。
 ローは当初、感染が最も深刻なワシントン州、カリフォルニア州、ニューヨーク州でこのサービスの展開に力を入れていたが、全米に拡大する。

5.ドクター・オンデマンド(DOCTOR ON DEMAND)

出所:ドクター・オンデマンド
▽本社:米カリフォルニア州サンフランシスコ
▽ステージ:シリーズC
▽累積調達額:1億6090万ドル
▽主な投資家:米シャスタ・ベンチャーズ、米ベンロック、米クアルコム・ベンチャーズ

 ドクター・オンデマンドはスマートフォンやタブレット端末、パソコンで動画による遠隔診療を提供し、資格を持つ医師と患者をつなぐ。消費者に直接サービスを提供するほか、企業や医療保険を通じて間接的にも提供している。
 同社は患者が病院にかかる前に利用できるオンラインでの新型コロナのリスク診断を手がける。診断は「せきや息切れはありますか」など計8つの質問で構成し、約2分で完了する。新型コロナのリスクを判定し、アドバイスも提供する。感染リスクが「特に高い」と判定された人は、オンライン診療の受診を促される。

6.Kヘルス(K Health)

出所:Kヘルス
▽本社:米ニューヨーク州ニューヨーク
▽ステージ:シリーズC
▽累積調達額1億400万ドル
▽主な投資家:マングローブ・キャピタル(ルクセンブルク)、米アンゼム、米ベッセマー・ベンチャー・パートナーズ、米コムキャスト・ベンチャーズ

 Kヘルスは患者に応じた医療を無料で提供するデジタル医療スタートアップだ。同社はAIによるショートメッセージでのプライマリーケア(初期医療)サービスを提供しており、利用者は同様の症状がある人がどんな診断を下され、どんな治療を受けているかを知ることができる。医師の診察を望む場合には、19ドルを支払い、資格を持つプライマリーケア医とチャットを続ける。年39ドルを払えば何度でもチャットできる。
 Kヘルスはこのほど、新型コロナの遠隔診察料19ドルを無料にした。同社のサイトによると、新型コロナに関するアドバイスを求める人には無料でサービスを提供し、米国の医師の診察を14日間無制限で受けられる。

7.98ポイント6(98POINT6、ナインティーエイト・ポイント・シックス)

出所:98ポイント6
▽本社:米ワシントン州シアトル
▽ステージ:シリーズC
▽累積調達額:8130万ドル
▽主な投資家:米フレイザー・ヘルスケア・パートナーズ、米ゴールドマン・サックス

 98ポイント6のモバイルアプリを使えば、必要に応じていつでもプライマリーケア医によるチャットでの診察を受けられる。利用者はアプリのAIアシスタントと簡単にやり取りした後、AIアシスタントから説明を受けた有資格のプライマリーケア医につながる。医師はセキュリティーが確保されたアプリ内のチャット機能を使って患者の質問に答え、(画像や映像も活用して)症状を診断し、健康状態を判断する。
 98ポイント6は1月下旬、新型コロナの疑いがある患者をスクリーニングする質問をアプリに追加した。患者がインフルエンザのような症状があると報告すると、すぐに医師につながる。新型コロナの感染リスクが高い地域に渡航していたか、陽性と判断された人と濃厚接触していたことを報告した場合も、ハイリスクとみなされ優先的に対応される。
 98ポイント6の最高医療責任者は、この1カ月半で「登録者と利用者が大幅に増えた」ことを明らかにしている。

8.タイトーケア(TYTOCARE)

出所:タイトーケア
▽本社:イスラエル・テルアビブ
▽ステージ:シリーズC-2
▽累積調達額:5050万ドル
▽主な投資家:米オービメッド・アドバイザーズ、深圳市創新投資集団(中国)、米ウォルグリーンズ

 イスラエルのシェバ・メディカルセンター(Sheba Medical Center)は新型コロナ危機を受け、スタートアップのタイトーケアや米XRヘルス(XR Health、後述)と協力して遠隔医療を活用した独自の解決策を実施している。シェバの医師はタイトーケアのネット接続機器を活用することで、自らの健康を危険にさらすことなく院内の隔離患者を遠隔で治療できる。
 隔離患者は(自宅にある)タイトーの端末と付属のスマホアプリを使い、心臓や肺、喉、耳、皮膚、腹部を自分で診察してデータを測り、その結果を離れた場所にいる医師とリアルタイムで共有する。
 タイトーの機器には感度の高いデジタル聴診器アダプターがついているため、主に肺に影響を及ぼす新型コロナの症状の検知やモニタリングに特に適している。

9.クラウドブレーク・ヘルス(CLOUDBREAK HEALTH)

出所:クラウドブレーク・ヘルス
▽本社:米カリフォルニア州エルセグンド
▽ステージ:シリーズB
▽累積調達額:5020万ドル
▽主な投資家:米コロンビア・パートナーズ・プライベート・キャピタル

 クラウドブレークは03年、遠隔動画通訳サービスの米マーティと遠隔医療の通信ネットワークを手がける米ケアネクションの合併に伴い設立された。遠隔医療のプラットフォームとネットワークの融合で言葉の違いに対処することで、治療のネックを改善する。
 新型コロナの感染拡大を受け、クラウドブレークは医療機関で治療を支援する無料の遠隔医療アプリの提供を開始した。このアプリではクラウドブレークのプラットフォームと付属の遠隔医療カートを活用し、患者と医療提供者が隔離ゾーンでより安全にコミュニケーションできるようにする。同社によると、このアプリは英語以外を母国語とする新型コロナ感染の疑いがある患者に対応するために、新型コロナの指定医療機関で既に使われている。

10.ブライトMD(BRIGHT.MD)

出所:ブライトMD
▽本社:米オレゴン州ポートランド
▽ステージ:シリーズB
▽累積調達額:1260万ドル
▽主な投資家:米ポートランド・シード・ファンド、米セブン・ピークス・ベンチャーズ、米Bキャピタル・グループ

 ブライトMDは自動化された消費者向け遠隔診療を手がける企業だ。北米の医療機関と提携し、AIを活用した医療プラットフォーム「スマートイグザム(SmartExam)」を1000万人以上の患者に提供している。
 新型コロナの感染拡大に伴う需要の急増に応えるため、同社は米国の全ての医療機関を対象に新型コロナの診断やスクリーニング、緊急時対応ツールを無料で提供している。新型コロナについてアドバイスを求める患者はかかりつけの病院のサイトからこのツールにアクセスできるため、むやみに救急外来を訪れて医療機関をさらに混雑させ、感染リスクを高めずに済む。
 このプロセスは自動だが対応力の高い問診から始まり、患者の症状や既往症、新型コロナに接触した可能性について詳細をチェックする。感染している可能性が高いとソフトウエアが判断すると、治療を受けられる院内の適切な診療科を紹介する。それ以外の患者には自宅での治療を指示する。在宅治療は米疾病対策センター(CDC)の勧告と指針に応じて更新される。

11.メモラヘルス(MEMORA HEALTH)

出所:メモラヘルス
▽本社:米カリフォルニア州サンフランシスコ
▽ステージ:インキュベーター/アクセラレーター(ポストシード)
▽累積調達額:250万ドル
▽主な投資家:米ラフ・ドラフト・ベンチャーズ、米Yコンビネーター、米コントラリー・キャピタル

 患者エンゲージメントを手がけるメモラヘルスは、消費者向け遠隔医療スタートアップのロー(前述)と提携し、新型コロナの遠隔診療サービスを無料で実施している。新型コロナについてアドバイスを求める患者は、まずは自動チャットボットとやりとりする。患者は「どんな症状があるか」などの質問に答え、自分の症状や感染リスクの高い地域への渡航履歴、新型コロナで陽性だった人との接触についても報告する。

12.XRヘルス(XRHEALTH)

出所:XRヘルス
▽本社:米マサチューセッツ州ボストン
▽ステージ:インキュベーター/アクセラレーター
▽累積調達額:未公表
▽主な投資家:米マスチャレンジ、米プラグ・アンド・プレイ、米ハッチェリー

 シェバ・メディカルセンター(前述)はXRヘルスと提携し、院内の隔離患者にVRヘッドセットを提供している。患者はこれを付け、XRヘルスの「XR(extended reality:VRや拡張現実
などの総称)プラットフォーム」にアクセスする。このプラットフォームには隔離に伴う不安や孤独感を治療するモジュールや、患者と医療提供者とのやり取りを楽しいものにする3Dアバター(分身)などの機能がある。

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