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「見切りは正義」コンビニの未来 ローソンFC発

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NIKKEI MJ

定価販売が当たり前だったコンビニエンスストアのビジネスモデルが大きく変わりつつある。震源地となっているのはローソンのフランチャイズチェーン(FC)加盟店だ。販売期限に近づいてきた商品については二の足を踏むことなく見切りをして、売り切る。食品廃棄など消費者の環境意識の高まりも、このローソンのFC加盟店の取り組みを後押ししている。 2021年夏への延期が決まった東京五輪・パラリンピック。そのメイン会場、新国立競技場のそばにあるローソン千駄ケ谷一丁目店(東京・渋谷)では、19年8月から新たな作業が加わった。

「おにぎりはいかがでしょうか」。3月23日午後5時、来日3年目、ネパール出身のクルー(店員)、サリタさんは流ちょうな日本語で客に声がけをしながら、商品にシールを貼り始めた。シールの表面には「税込価格より30円引」「50円引」「100円引」「半額」。サリタさんは迷うことなく、次々に商品に貼っていった。

見切りの対象はおにぎりや弁当、サンドイッチ、デザートなどの商品群。約20分をかけて100品目にシールを貼った。商品によってシールが異なるのは、「昨年(8月の見切り開始)から店長と話し合い、食品廃棄が減る方法を考えた」(サリタさん)結果だ。

午後5時すぎ、同店を訪れた30歳代の女性会社員は「シールが貼ってあるのを見るたび、ついついよけいに買ってしまう」と話し、30円引きシールが貼られた定価295円のデザート「CUPKE」を2つ購入した。

「今回の取り組みは事前に本部に相談しなかった」。東京都渋谷区、港区、中央区、千代田区に34店舗を展開するローソンのフランチャイジー、セブンワイズ(東京・渋谷)社長の余田利通オーナーは、独自判断で昨年8月、見切りを始めた。

ローソンの前身の1つ、サンチェーンの社員を経て、コンビニオーナーになって約40年。24時間営業や恵方巻きの大量廃棄などで消費者からの厳しい声が寄せられるなか、「食品廃棄を減らそうとしたが、従来のやり方ではなかなか減らせなかった」。そこで余田オーナーがひらめいたのが見切ることで売り切り、廃棄を減らす考えだった。

コンビニ各社は店舗の高い利便性を武器に、定価販売で収益を稼いできた。本部としても、見切りをすることで定価の商品が売れなくなり、ロイヤルティー収入が減る懸念から、これまで見切りを推奨してこなかった。

30店舗超での大規模な見切りを実施するために、余田オーナーは見切りの基本ルールを決めた。対象となるのは「1便」と呼ばれる午後10時~翌午前3時半に配送される便で売り場に到着し、同日午後11時に消費期限を迎える(売り場から撤去するのは午後10時)商品。これを午後5時から値段を下げていく。下げ幅は30円。これを基本として、店舗の立地や販売状況に応じて変えていく。

例えば急に雨が降って来店ペースが落ちた時などは、見切り開始時刻を午後3時に繰り上げたり、見切りの額を引き上げたりするという。実際にオフィス立地の千駄ケ谷一丁目店では夕方以降の来店客の減少が大きいことから、1便の商品だけでなく、2便の一部も見切りしている。

「大枠は決めたが、細かなところは現場の判断でやっている」と余田オーナー。見切りのやり方は34の店舗でそれぞれ決め、日によっても変わってくる。

単に値段を下げるだけの見切りだが、「実施することでクルーの意識が劇的に変化した」(余田オーナー)。見切ることでお客さんに手に取ってもらうのはあくまでも最終段階の話。そこに至るまでにQ(クオリティー)S(サービス)C(クレンリネス)の向上で、なんとか売れるような努力をするようになった。

「お客様各位 当店ではフードロス0(ゼロ)化を目指し、一部商品で値引き販売を実施することに至りました」――。店内を見渡すと、至る所に見切りを始めた理由を書き記したポスターが掲示されている。今回の取り組みを来店客に理解してもらうために、クルーらが作成した。

売り切るために売り場も変わる。例えば、おにぎりの棚。手間がかかるが、品出しする際に「マヨネーズ類」「魚卵類」などでグルーピングし、消費者にわかりやすくするとともに、価格も左から右に高くなっていくようにした。発注も「より掘り下げて対応するようになった」(セブンワイズの藤吉崇取締役)。

見切りによって、FC加盟店の経営への影響はどうか。19年8月以降の売上高増減率と廃棄の推移をみると、売上高は18年に一部店舗で大型イベントを開いた反動で、19年9月の売上高が前年同月を割ったほかは、全てプラスを維持している。

さらに19年10月以降はローソン全体の既存店売上高増減率を全て上回った。20年1月はローソン全体が0.3%増だったが、セブンワイズは9.5%増だった。一方で廃棄は毎月減少。20年2月までの7カ月のうち5カ月が10%以上減少した。「今のところ店の収益力向上にもつながっている」(余田オーナー)

見切りを始めた段階からセブンワイズの状況を分析している法政大学経営大学院の小川孔輔教授は「取り組んだ結果として成果が上がっている」と話す。もともと日販(1店舗1日当たりの売上高)が高い店舗での結果が好調という。発注量や在庫のコントロール、商品陳列、見切りを1人のクルーが担当することで、より深く考える場面が増えていることもプラスに働いているとみる。

人件費増加や24時間営業問題でコンビニを取り巻く環境が厳しくなるなか、「フードロスをいかに減らしていくかがコンビニの未来につながる」と小川教授は指摘する。

余田オーナーの取り組みへの注目度は高い。ローソン本部には、ほかのFC加盟店オーナーら数多くの関係者からセブンワイズが運営する店舗の視察の要望が集まる。そんな関係者に、余田オーナーはこう話しかける。

「もうチャンス(販売機会)ロスにとらわれるのはやめた方がいい」

(豊田健一郎)

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